NHK杯SP演技の樋口新葉。トリプルアクセルに挑んだ 11月27、28両日のNHK杯女子シングル。優勝した坂本花織がショートプログラム(SP)でジャンプの構成難度を上げたのと同じく、2位の樋口新葉もこの大会で攻めの姿勢を見せた。「今季、フリ…



NHK杯SP演技の樋口新葉。トリプルアクセルに挑んだ

 11月27、28両日のNHK杯女子シングル。優勝した坂本花織がショートプログラム(SP)でジャンプの構成難度を上げたのと同じく、2位の樋口新葉もこの大会で攻めの姿勢を見せた。「今季、フリーで絶対に成功させたい」と取り組むトリプルアクセルをSPにも入れてきたのだ。

 シーズン直前、樋口はトリプルアクセル挑戦への決意を語りながらも、SPに関してはフリーで安定して跳べるようになってから導入すると話していた。昨シーズンもトリプルアクセルの成功率が上がっていた中で夏場にケガをして出遅れたが、その時点で全日本選手権に照準を合わせ、食事も変えて体づくりなどから取り組み始めていた。すると、昨年12月の全日本と20年2月の四大陸選手権で2シーズンぶりに200点台に乗せ、それぞれ206.61点と207.46点を出していた。

 自信を取り戻しつつある現在、樋口はSPにトリプルアクセルを入れることに迷いもあったはずだ。失敗して自信を失うリスクも当然ある。だが、練習で成功の確率が上がってきていることもあり、新たな挑戦心が芽生えたのだろう。

 かつて羽生結弦も14年ソチ五輪の優勝後、次のシーズンにフリーで基礎点が1.1倍になる後半に4回転トーループを入れようとしていたことがある。その際、SPでも同じくトーループ導入の決断をしたのは、「フリーで入れるための練習にもなる」という思いからだった。

 今回の樋口は、その時の羽生と同様の考え方をした。樋口は「やっぱり点数を取るためには難しいジャンプを入れなければならないと思っていましたが、アクセルが安定してきたし、練習にもなるんじゃないかと思ってショートでも入れることにしました」と説明した。

 そのSP、「これまでの試合より緊張した」というトリプルアクセルは、回り切った判定だったが転倒。「ショートのアクセルはフリーとは入り方が違うので、途中から気持ちが弱くなってしまったのが失敗の原因だと思います」と樋口は振り返った。

 それでもその失敗を引きずることなく、フライング・キャメル・スピンの後の3回転ルッツ+3回転トーループは1.53点の加点をもらう出来。東日本選手権ではノット・クリア・エッジ(明確でない踏み切り)と判定されていた3回転フリップも着実に決めて69.71点で2位発進した。転倒した直後のスピンはレベル3だったが、その後のジャンプはしっかり決めたうえ、残りのスピンとステップはレベル4と崩れることはなかった。



フリー演技後にガッツポーズを見せる樋口

 翌日のフリーは最初のトリプルアクセルをしっかり着氷。次の滑りにつなげる演技で、力強いガッツポーズを見せた。樋口はこう話す。

「トリプルアクセルを試合できれいに決められたのがうれしかったので、思い切りやりました。少しこらえるような着氷になってしまったけれど、耐えて次のジャンプも大きなミスなく滑り出せたのでよかった」

 結果的に4分の1回転足りない判定だったが、減点は0.16点にとどめた。演技後には「やはりちょっと浮きが足りなかったと思います。スピードはすごくよかったですが、ちょっと体を締めるタイミングが遅れて、回転をかけるのが遅くなりました」と述べた。

 また、3本目の3回転サルコウが2回転になると、後半も3回転フリップはノット・クリア・エッジを取られ、最後の3回転ルッツも2回転に。「(トリプルアクセルを)跳べても跳べなくても他のジャンプはしっかり決めたい」という目標を果たせなかった。演技構成点は66.88点を獲得したが、フリーの得点は4位の131.27点。総合2位にはなったが、東日本選手権を2.26点下回る合計200.98点で、優勝した坂本に28.53点差をつけられた。

 それでも樋口の表情は明るかった。

「試合の緊張感の中で(トリプルアクセルを)着氷できたのが次につながる。練習を頑張ってきてしっかり発揮できました。今回は2日連続で試合に入れるための調整をしてきましたが、ショートでは、フリーより練習量が少なかったのでアクセルを跳ぶときはちょっと不安もあった。でもすごくいい練習になったというか、全日本や来シーズンへ向けて、いい経験になったと思います。今回は最後まで集中してジャンプを跳ぶのがちょっと難しかった。全日本までに、(演技中に)疲れていてもタイミングがうまく合うように練習をして、アクセル以外のジャンプに響かないようにしていきたいです」

 攻めの姿勢で臨んだNHK杯でトリプルアクセルを着氷したことで、樋口はひとつの山を乗り越えたと言えるだろう。