史上初の11月開催となった今年のマスターズを制したのは、"DJ"ことダスティン・ジョンソン(36歳/アメリカ)だった。 普段は感情をあまり表に出さず、淡々とプレーしているが、表彰式では言葉に詰まって、涙を堪え切れずにいた。その姿に感動した…

 史上初の11月開催となった今年のマスターズを制したのは、"DJ"ことダスティン・ジョンソン(36歳/アメリカ)だった。

 普段は感情をあまり表に出さず、淡々とプレーしているが、表彰式では言葉に詰まって、涙を堪え切れずにいた。その姿に感動した人も多かったのではないだろうか。

 終わってみれば5打差の圧勝だったが、DJにとっては、念願のメジャー2勝目。喜びは一入(ひとしお)だった。

「メジャーの重圧は誰よりも重く感じていた。このマスターズに勝つために、僕たち兄弟は戦ってきた」

 そう言って、バッグを担いだ弟の"AJ"ことオースティンとがっちりと肩を抱き合った。 



念願のマスターズ優勝を飾ったダスティン・ジョンソン

 DJの出身は、サウスカロライナ州コロンビア。マスターズの開催地であるジョージア州オーガスタから、車で1時間あまりの街だ。

「子どもの頃から、練習の際には『これは、マスターズでの勝利のパット』『このアプローチは、マスターズで勝利を導くもの』などと、弟とずっと言い合ってやってきた。それが......ようやく実現した。......言葉にならない」

 他の何より、DJはこのマスターズで勝つために戦い続けてきた。それが、ついに実現したのだ。感極まるのも無理はない。

 2016年の全米オープン覇者でもあるDJだが、これまでにメジャータイトルを何度も逃している。「メジャーで勝てない大器」と揶揄され、3日間54ホールを終えて首位に立ちながら、勝てなかったことも何度かある。

 その要因は"メンタル"と言われていた。

 最初にメジャーを逃したのは、2010年のペブルビーチで行なわれた全米オープンだった。首位でスタートした最終日に「82」と大きく崩れた。その後、2011年の全英オープンで惜しくも2位タイ。全米プロでは、2019年、2020年と2年連続2位に終わっている。

 記憶に新しいのは、今夏の全米プロ。サンフランシスコのTPCハーティングパークで行なわれた大会で、DJは首位で最終日に臨んだが、「64」の好スコアを叩き出したコリン・モリカワに逆転優勝を許した。その時も、「DJがまた(メジャーで)勝てなかった」という声が囁かれた。

 しかし、DJはそんな周囲の雑音に惑わされることなく、自身の気持ちが崩れることもなった。モデル、シンガーとして活動するセレブ、ポーリナ・グレツキーが"よきパートナー"として彼を支え、彼女との間に生まれた2人の息子の存在も励みになっていた。

 さらに、義理の父にあたるNHL(米アイスホッケーリーグ)のレジェンド、ウェイン・グレツキー氏の言葉が大きな支えになっていたという。

「メジャーは、勝てるとき、勝てないとき、というのがある。チャンスを作り続けていれば、必ず自分の順番が回ってくるものだ」

 その順番が今回、待望の夢舞台で回ってきた。

 振り返れば、新型コロナウイルス感染拡大によって、2019-2020シーズンはおよそ3カ月の中断を余儀なくされたが、ツアーが再開されるや、圧倒的な強さを見せたのがDJだった。

 ツアー再開3戦目のトラベラーズ選手権で優勝。8月の全米プロこそ2位に終わったが、プレーオフ初戦のザ・ノーザントラストで今季2勝目を飾った。続く2戦目のBMW選手権はジョン・ラームにプレーオフで敗れて2位に終わるも、最終戦のツアー選手権を制覇。初のPGAツアー年間王者に輝いた。

 世界ランキングは8月にトップに返り咲き、2位ラームとの差を広げている。

 DJの強さは、言うまでもなく圧倒的な飛距離が武器。400ヤードのパー4で1オンするほどのパワーを持つ。2020-2021シーズンの平均飛距離は321.4ヤードで、ツアー5位だ。

 ただ最近、彼のプレースタイルに変化が見られている。DJが言う。

「スマートに(賢く)プレーしたいんだ。弱点と言われた小技も、パッティングも磨いてきた」

 現にマスターズでは、そんなプレーぶりが光っていた。

 実は、秋開催のマスターズでは、フェアウェーが柔らかくランが出ないことから、コースが長くなり、開幕前には飛距離の重要性が取り沙汰された。そうして、9月に全米オープンを制したブライソン・デシャンボーが(実際には使用しなかったのだが)48インチドライバーに変えたことが注目を集めるなど、飛距離対策に選手は奔走した。

 DJも練習ラウンドでは47インチドライバーを投入。約10ヤードの飛距離の伸びがあったという。しかし、DJは本戦での使用を回避した。

「長いクラブを振ると、他のクラブのスイングに影響があった。10ヤードの距離は魅力だったが、今は変えないと判断した」

 そして、最終的には普段から使用している45.75インチのドライバーで臨んだDJは、ステディーなゴルフを展開。4打リードで迎えた最終日には、序盤でイム・ソンジェに1打差まで迫られるシーンもあったが、後半13番、15番と2つのパー5ではきっちり刻む手堅いゴルフを見せた。

 その結果、13番から3連続バーディーを奪って、勝利を確実なものとした。まさしく"スマートなゴルフ"で戴冠を遂げたDJ。ディフェンディングチャンピオンのタイガー・ウッズから着せられたグリーンジャケットは、格別なものだったに違いない。

 このあと、DJは今年最後の大会となるマヤコバゴルフクラシックに参戦予定だったが、急遽出場をとりやめた。「(出場を)楽しみにしていたが、体も気持ちも今は休息が必要。自宅でポーリナと息子たちとゆっくり過ごしたい」とコメントした。

 世界一に返り咲いたDJは、10月に新型コロナウイルスに感染して3週間、ツアーから離脱した。それでも、9月に開幕した2020-2021シーズンにおいて、出場した3大会はすべてベスト10フィニッシュ。全米オープン6位、ビビントヒューストンオープン2位、そしてマスターズ優勝と、ポイントレースで堂々の1位を走っている。

 次戦は、年明けのセントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ(1月7〜10日・ハワイ州マウイ島)に出場予定。一段と強さを増したDJの勢いは、来年も止まりそうにない。