構成変更をして挑んだNHK杯SPの坂本花織 11月下旬のNHK杯を制した坂本花織。2位の樋口新葉に28.53点差という、文句のつけようのないスコアだった。ショートプログラム(SP)から攻める気持ちで臨んだことが勝利の大きな要因だった。 坂本…



構成変更をして挑んだNHK杯SPの坂本花織

 11月下旬のNHK杯を制した坂本花織。2位の樋口新葉に28.53点差という、文句のつけようのないスコアだった。ショートプログラム(SP)から攻める気持ちで臨んだことが勝利の大きな要因だった。

 坂本のSPのジャンプ構成はこれまで、前半にダブルアクセルと3回転フリップ+3回転トーループを入れ、基礎点が1.1倍になる最後のジャンプは3回転ループとしていた。だが、NHK杯はループに代えてルッツを入れ、さらに3回転フリップ+3回転トーループを最後に持ってきた。

 得点力アップは、世界で上位を目指す坂本にとってクリアすべき重要な課題だった。3回転ルッツの基礎点は5.90点で、ループより1点高い。また、基礎点が1.1倍になるジャンプは平昌五輪以前のように後半に入れればいいだけでなく、3本目のジャンプだけに限定されている。そうした中、より基礎点が高い連続ジャンプを最後に持ってくれば大きな得点源になる。

 坂本のこれまでのSP自己最高得点は、2019年の世界国別対抗戦で完璧に滑った時の76.95点だったが、世界で表彰台争いをするためには80点台に乗せなければいけない。つまり、必要不可欠な構成変更だった。坂本はこう説明する。

「3回転ルッツをこれまで入れていなかったのは、よく(エッジ)エラーと判定されていたので。それがもったいないから、得意な3回転ループにしていました。でも(振り付けの)ブノワ・リショー先生から、『ルッツを入れて連続ジャンプを後半にしてくれ』というラインが来ました。挑戦も必要なのかなと思い、2週間くらい前から練習を始めました」

 ジャンプが3本しかないSPは、ひとつのミスが大きく足を引っ張ることになる。そのため、どの選手も難度を上げることに消極的になりがちだ。だが今季の坂本は、4回転やトリプルアクセルの大技こそ控えたものの、プログラム全体の質を上げようとしている。そういう状況だからこそ、ルッツを入れ、なおかつ連続ジャンプを最後にするという、一気にレベルを2段階上げる挑戦ができたのだろう。

 SPで坂本は、2本目の3回転ルッツで2.01点、3本目の3回転フリップ+3回転トーループは1.91点の加点をもらう出来を見せた。2本のスピンとステップはレベル3と取りこぼし、演技構成点についても9点台はなく8.90点が最高と伸び切らなかったが、75.60点で首位発進。「連続ジャンプは最初のフリップが上がり過ぎたのでやばいと思ったが、練習で跳べているので自信を持ってやりました。この大きな舞台でこの構成を成功できたのは、大きな自信になります」と笑顔で話していた。



フリー演技の坂本。ほぼノーミスで演じ切った

 翌日のフリーでは、新たな挑戦で得た自信がさらなる好結果につながった。今季で3シーズン目となる『マトリックス』は、不調だった昨季は納得いく演技ができず、シーズンベストはフランス国際の135.16点。今季初戦の近畿選手権では143.47点を出したとはいえ、小さなミスがあった。だが今回は、3本目の3回転ルッツも踏み切りの減点を取られることなく、1.53点の加点を得た。SPにルッツを入れたことで、これまで以上にエッジに気をつけながら練習できた成果だろう。

「連続ジャンプにした3回転フリップは、2本とも回り過ぎたのでその後のコンビネーションを付けるのが怖かったですが、加点をもらえるジャンプにできたのでよかった。出せるものは、全部出せたかなと思います」

 フリーをノーミスで滑り、自己最高の153.91点を獲得。「去年はフリーをクリーンに滑っったことがなかったので、ノーミスならこんなに点数が出るんだというのを実感できました」と、明るく語った。

 非公認ながらも合計は229.51点。今回と同じ東和薬品ラクタブドームで全日本選手権を初制覇した時の228.01点を上回る得点だった。

「去年の悔しい思いを晴らそうと思って、練習がきつくても、試合で笑顔になるためにしっかりやろうと前に進んできたので、今回それができたのはうれしい限りです。外出自粛期間中には滑れなくても体づくりをきちんとできたので、今、大崩れしない要因になっています。(体力的に)きつい『マトリックス』でも、最後まで迫力のある演技ができているのかなと思います」

 今後、SPで取りこぼしたスピンやステップをしっかりレベル4にしていけば、合計230点台に乗せられる手ごたえも得た。

 昨シーズン、世界を席巻したロシア勢でさえもロステレコム杯でアリョーナ・コストルナヤがトリプルアクセルを封印し、アレクサンドラ・トゥルソワも4回転でミスを連発して力を出し切れなかった。ジャンプの難度が高くなればなるほど、演技が崩れる危険性が常にある。

 坂本は将来的にトリプルアクセルや4回転に挑戦する意向を示しているが、今季は自分のベースをしっかり上げるために取り組んでいる。それは、今後ジャンプの難度を上げた時に大きな武器にもなるはずだ。

 着実にレベルを高めている坂本が、全日本選手権で難度の高いジャンプに挑戦するとみられる紀平梨花とどう勝負するのか、いまから楽しみだ。