ビーチバレーの現役レジェンド西村晃一インタビュー 後編 前編から読む>> 新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛期間は、多くのアスリートがトレーニングの方法や、練習場所の確保に四苦八苦した。砂の上での練習ができなくなるビーチバレーの選手も…

ビーチバレーの現役レジェンド
西村晃一インタビュー 後編 前編から読む>>

 新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛期間は、多くのアスリートがトレーニングの方法や、練習場所の確保に四苦八苦した。砂の上での練習ができなくなるビーチバレーの選手も大きな打撃を受けたようだが、西村晃一(WINDS)はその期間も充実した練習ができたという。

 というのも、西村が代表取締役を務める株式会社ウィンズが東京都港区に保有するビル「WINDS BLD.」の地下が、砂が敷き詰められたスペースになっているからだ。西村はそこで、1日も欠かさずに砂の上でのトレーニングを行なった。



「WINDS BLD.」地下の、砂が敷き詰められたスペース(WINDS提供)

 このジムができたのは2017年だが、まるで今年の危機を予知していたような絶好の環境づくりだった。その点について、西村は次のように話す。

「ここは一般開放したトレーニングジムではなく、自分自身がオリンピックのために、効率よくトレーニングができるように作ったんですよ。よく『この時(コロナ禍)のためにジムを作ったかのようですね』と言われるんですけど、もちろん予知ではなく偶然です」

 おかげで自粛明けの練習では、体を動かせなかった若手選手たちが状態を戻すのに苦労する中で、自身はいつもどおりのプレーができたという。

 西村は今年で47歳。インドアで日本代表としてプレーしていた時代よりも「ジャンプ力だけはさすがに落ちたかも」としながら、「瞬発力、スピードはまったく落ちていません。50mのタイムは、今でも5秒台を計測しています」と、衰え知らずの身体能力について明かした。

「砂の上での練習では、足場が悪い中での切り返しや、太いチューブを腰に巻いて引っ張ってもらって負荷をかけながらダッシュやジャンプをするなど、トレーニングで心拍数を200くらいまで上げるようにしています。(試合本番は)暑さや疲労できつくなると思考力が落ちるので、そうならないように普段から苦しいトレーニングをしているんです」



拠点の宮下パークのビーチバレーコートで練習を行なう西村 photo by Ray Yamaguchi

 18年という西村のキャリアは日本のビーチバレー選手の中で群を抜いているが、現在ペアを組んでいる柴田大助は約20歳年下の選手。東京五輪開催が今年だった場合、出場権を争うには数カ月ほど準備期間が足りないと西村は感じていたようで、五輪の延期によってその時間ができたことをポジティブに捉えているという。

「僕は背が高くないし、年齢も重ねてきているし、戦う上でアドバンテージがある選手ではない。だけど、何よりもバレーが大好きで、オリンピックが1年延期されたから短くともあと1年はビーチバレーがやれる。その喜びが僕を突き動かしています。

 オリンピックの出場権を取るだけじゃなくて、そこで勝たないといけないこともわかっています。そうじゃないと、ビーチバレーの魅力や、スポーツが人の心を動かす喜びなどを広く伝えることはできないんじゃないかと。小さくても年老いても頑張れることを証明して、少しでも多くの方に元気を、子どもたちに夢を与えられる選手になりたいです」

 その思いが現実になったもののひとつが、今年7月に開園した渋谷の「宮下パーク」の屋上に作られたビーチバレーのコートだ。 これまで国内のビーチバレーの試合は、都心から離れた砂浜で行なわれることがほとんどだったが、その常識を覆した。9月にはウィンズ主催の公式試合も行なわれ、多くの関係者や観客が詰めかけた。

「渋谷駅から近く、商業施設と融合した宮下パークは、ビーチバレーの中心地になるには絶好の環境です。また、僕たちウィンズに所属する選手たちがホームコートとして練習することで、多くの方がそれを見てくれると思うので、少しでもビーチバレーに興味を持ってもらえたらうれしいですね。現在は子どもたちに向けたスクールも開催していて、さらに裾野を拡げていく活動もしていく予定です」



選手としてだけでなく、実業家としても精力的に活動 photo by Tanaka Wataru

 さらに西村は、昨年にビーチバレーチームを新設した東京ヴェルディクラブの「選手兼GM」も務めている。クラブ内でさまざまな競技のチームを持つ東京ヴェルディの特徴を生かし、「子どもたちが多くのスポーツに触れる機会を作りたい」と話す。バレー界全体の発展も描いており、インドアとビーチの融合を目指していくという。

 このような実業家としての活動と、現役トップレベルのアスリートとしてパフォーマンスを維持することの両立は大変だと思うが、「自分が勝つことがビーチバレーの発展に繋がるので、大変が喜びに変わることをいつもワクワクしています」と話す。

 単なるアスリートという枠を超えて、熱意を形にしていく西村。インタビューの最後には「4年後(パリ五輪)にメダルが獲れたら、一番かっこいいですよね」と目を輝かせたが、まずは48歳で迎える東京五輪の、砂のコートに立つことを目指して突き進む。