ここに1995-96シーズンに撮影された1枚の写真がある。「レアル・ソシエダの重鎮」 そう言われるミケル・エチャリが2…

 ここに1995-96シーズンに撮影された1枚の写真がある。

「レアル・ソシエダの重鎮」

 そう言われるミケル・エチャリが2列目の中央に立っている。左にいるのは当時、監督を務めていたハビエル・イルレタだ。エチャリはレアル・ソシエダで強化部長、育成部長、ヘッドコーチ、Bチーム監督、戦略分析担当など、さまざまな職務を20年にわたって務めてきた。当時はイルレタの参謀役だった。

 そしてエチャリの上に映っているのがイマノル・アルグアシルである。現在、リーガ・エスパニョーラ第10節終了時点で首位に立つレアル・ソシエダで監督を務めている。一方、下に映っているのがウナイ・エメリ。久保建英が所属するビジャレアル(同3位)の指揮官だ。

 今週末、レアル・ソシエダとビジャレアルは首位攻防をかけて対決する。

 Sportivaで日本代表についても解説してきたエチャリは、イマノルとエメリの2人に少なからぬ影響を与えてきた。レアル・ソシエダのBチームで監督を務めていた時代、どちらも選手だった。その2人が監督として対決するのは感慨深い。

「これも何かの縁だ」

 エチャリは言う。サッカー界はあざなえる縄のごとし。イマノルは選手時代、ビジャレアルでもプレーした。

 イマノル対エメリはどんな戦いになるのか。



久保建英に指示を与えるビジャレアルのウナイ・エメリ監督

 レアル・ソシエダは80年代まで、バスク人の選手のみで戦う「純血主義」を守ってきた。その後は外国人選手とも契約するようになったが、バスク人主体は変わっていない。下部組織のスビエタはバスク人選手を中心に鍛錬し、トップチームの約半分がスビエタ出身者だ。

<人を育て、選手を育てる>

 レアル・ソシエダにはそんな特性がある。イマノルもエメリもスピエタ出身だ。もっとも、2人は選手としては華やかな時代を送ったわけではない。

 イマノルは、スビエタ出身選手として1991年からトップチームの右サイドバックとしてプレーしている。

「イマノルは人生を通じ、謙虚に生きてきた男だ」

 エチャリはそう回顧している。



2列目中央にミケル・エチャリ、その上がイマノル・アルグシアル(レアル・ソシエダ監督)、下がウナイ・エメリ(ビジャレアル監督)

「人への敬意を失わず、勤勉で献身的に仕事ができた。しかし、過去に戻って『この選手は監督になるか』と聞かれたら『ノー』と答えるだろう。それぐらい、とても奥ゆかしい男だった。極めてバスク人っぽい。プレーする準備を真面目にしていた」

 イマノルは1999年までレアル・ソシエダのトップチームでプレーしたが、準レギュラー的存在だった。しかし交代要員として、常に準備を怠っていない。その誠実さと集中力を買われ、チームに在籍していた。その後は、ビジャレアルへ移籍するもポジションを奪えず、2部や2部B(実質3部)でプレーした後、指導者に転身している。

 生まれ故郷に戻って監督キャリアをスタートさせると、地道にユース年代で結果を残し、レアル・ソシエダに指導者として復帰した。ユースチームを率いて結果を残し、やがてレアル・ソシエダのBチームを指揮。そして2018年3月、5年目にして、不振のトップチームに代打として監督就任。以来、トップ監督は3年目で、今や欧州でも注目される存在だ。

 イマノルは地味なディフェンダーだったが、監督として実現させているのは華やかなボールゲームだ。その攻撃的戦術は、かつてのバルセロナを彷彿とさせる。能動的にボールを動かし、攻め崩す。昨シーズンは、マルティン・ウーデゴール(レアル・マドリード)の才能を開花させた。

「エメリは左利きのアタッカーで、センスを感じさせる選手だった」

 一方、エチャリはエメリについてそう証言している。

「エメリは選手時代から、戦術に熱心だった。Bチーム時代の思い出がある。シーズン中、"崩し切って(エメリの)ラストパスで勝負を決める"という攻撃練習を、何度も重ねて完成させたことがあって、実際にその場面が試合で訪れた。ところが、エメリはパスを出さず、自分でシュートを打った。それで外したんだ。選手の判断に関しては尊重するが、あの時は珍しく口論になったのを覚えている」

 エメリは1995-96シーズン、トップチームでデビューを果たし、5試合1得点の結果を残したが、これを"思い出"に退団した。左利きアタッカーとしては、スペイン代表でレギュラーだったフランシスコ・デ・ペドロがいて、ポジションはなかった。その後、2部や2部Bのクラブでプレーした後、ケガを契機に不調だった所属クラブの監督に就任した。

 初めて監督を務めたロルカを、エメリはいきなり2部に昇格させている。その采配は卓抜だった。続いて2部のアルメリアを率い、1部に昇格させた。2バックなど画期的戦術を駆使。その後はバレンシア、スパルタク・モスクワ、セビージャと欧州を舞台に指揮をとり、セビージャではヨーロッパリーグ3連覇を成し遂げた。その栄光をひっさげ、パリ・サンジェルマン、アーセナルでも監督を経験している。

 エメリは、ひらめきに殉じる左利きアタッカーだった。しかし、指揮官としては極めて論理的で効率的な"負けない戦略"を突き詰めたサッカーを展開する。ファンタジスタ、久保の扱いにも慎重だ。

 2人は選手よりも監督として大成した点は共通しているが、信奉するプレースタイルは対極的だ。

 首位攻防戦、カギ握るのは左利きの選手かもしれない。レアル・ソシエダのミケル・オジャルサバル、ビジャレアルのジェラール・モレノ。同じく左利きの久保の起用も注目される。天才、ダビド・シルバはケガで欠場が濃厚だが......。

 11月29日、かつての戦友2人は、改修されたアノエタで激突する。