福岡ソフトバンクホークスが読売ジャイアンツを4タテで破り、日本シリーズを制したのと同じ日、Jリーグでも"福岡vs東京"の激しい試合が行なわれていた。 J2第36節、東京ヴェルディvsアビスパ福岡。 前節終了時点でJ1自動昇格圏内の2位につ…

 福岡ソフトバンクホークスが読売ジャイアンツを4タテで破り、日本シリーズを制したのと同じ日、Jリーグでも"福岡vs東京"の激しい試合が行なわれていた。

 J2第36節、東京ヴェルディvsアビスパ福岡。

 前節終了時点でJ1自動昇格圏内の2位につける福岡と、同じく7位につけ、大逆転昇格へ一縷の望みをつなぐ東京Vとの一戦は、互いが持ち味を発揮し、一進一退の攻防を繰り返す好ゲームとなった。

 結果は1-1の引き分け。後半21分、右サイドを突破した東京Vが、FW山下諒也のゴールで先制するも、直後の後半22分、福岡はFW山岸祐也が左サイドで相手DFとうまく入れ替わってボールをキープし、「フリーの選手が見つからなかったので、相手が嫌がるところに(ボールを)入れれば、"事故る"かもしれない」(山岸)とゴール前へ送ったボールが、狙いどおりにオウンゴールを誘い、同点に追いついた。

「勝ち点3を積めなかったのは残念」(福岡・長谷部茂利監督)
「非常に悔しい試合だった」(東京V・永井秀樹監督)

 両指揮官がそう振り返った試合は、文字どおりの痛み分け。だが、とりわけ手痛い引き分けとなったのは、佳境を迎えるJ1昇格争いのど真ん中にいる福岡のほうだったのではないだろうか。



5年ぶりのJ1復帰を目指すアビスパ福岡

 2016年にJ1昇格を果たしながら、わずか1年で再降格となった福岡は、J2でも2017年から4、7位と徐々に成績を落とし、昨季に至ってはJ3降格すら危ぶまれる16位に沈んでいた。

 だが今季、長谷部監督が新たに就任すると、DFエミル・サロモンソン、DFドウグラス・グローリ、MF前寛之、MF重廣卓也、MF福満隆貴、FW遠野大弥、FWフアンマ・デルガドらが加わり、チームの顔ぶれは一新。

 昨季、それまでふた桁順位が当たり前だった水戸ホーリーホックを昇格争い(最終順位は7位)をするまでに引き上げた新指揮官は、福岡でもハードワークを土台に、組織的な攻守を繰り返すサッカーを浸透させ、チームを大きく変貌させた。

 今季の福岡は、シーズン序盤こそ第11節から3連敗を喫するなど、一時は17位まで順位を落としたが、徐々に戦い方が確立されると、第17節からは怒涛の12連勝。第24節で2位に浮上して以降は、J1自動昇格圏内である2位以上をキープし続けてきた。

 さらには、シーズン途中にもMF松本泰志、FW山岸ら新戦力で補強。5シーズンぶりのJ1昇格へ向け、磐石の態勢でラストスパートに入ったはずだった。

 ところが、11月に入ると、意に反して3勝2敗2分けと勝ち点が伸びず、東京V戦でも相手の8本を上回るシュート11本を放ちながら、結果は引き分け。先制を許したことを考えれば、よく追いついたとも言えるが、「あと数試合で順位が決まるという意味では勝ちたかったゲーム」(長谷部監督)である。それまでの勢いに、少しずつ陰りが見え始めているというのが現状だ。

 とはいえ、試合内容に関していえば、それほど悲観するようなものではなかったことも事実である。

 パスワークを得意とする東京Vを高い位置から守備の網にかけ、奪ったボールを素早く前線につなぐ。と同時に、相手の背後へ走る、あるいはボールの後方からサポートするなど、ピッチ上の選手たちがシステマティック、かつスピーディーに、それぞれのポジションを的確に取ることで厚みのある攻撃につなげていた。

 結果的に、オウンゴールによる1得点のみにとどまったが、ボール奪取からの縦パスを合図に、一気にスピードアップする攻撃は悪くなかった。

 そもそも、それほど多くの得点ができるチームではない。今季J2での21勝のうち、13勝が1-0の勝利だったように、ロースコアゲームこそが福岡の"十八番"である。

 堅守が武器、と表現してしまうと、本来の姿は伝わりにくくなるが、高い位置からの積極的な守備と素早い攻撃への切り替えで主導権を握り、いくつかあるチャンスのひとつを仕留める。それが、福岡の勝ちパターンであることは確かだろう。

 山岸は「(1-1に)追いついて、そこから2-1に持っていくゲームにしないと。チャンスを決め切ることにもっとパワーを出していきたい」と語っていたが、もちろん、2点目が取れるに越したことはない。

 しかし、そのことばかりにフォーカスしてしまえば、せっかく確立されている戦い方が揺らぎかねない。

「この勝ち点1を無駄にせず、一喜一憂しないでやることが大事。(試合後の)ロッカールームの雰囲気も悪くなかった。こうしようという声も出ていたし、もっとよくなる」

 山岸がそう続けたように、シーズン大詰めの現在、肝要なのは、自分たちが築いてきたサッカーを自信を持って貫くことだ。

 今季J2も残すところ6節となった現在、首位は勝ち点74の徳島ヴォルティス。以下、勝ち点70で2位の福岡、勝ち点67で3位のV・ファーレン長崎と続く。数字上は勝ち点58で4位のギラヴァンツ北九州から、勝ち点52で8位の東京Vまでの5クラブにもJ1昇格の可能性が残るが、現実的な争いは上位3クラブに絞られている。

 キャプテンの前は、現状を「追う立場であり、追われる立場でもある」と表現し、こう語る。

「試合ごとに(結果によって状況が)大きく変わる。悔しいけど、(気持ちを)切り替えるしかない。残り6試合で取れる勝ち点を全部取りにいくことは、みんな意識してくれていると思う」

 はたして福岡の地に、ホークスV4に続く歓喜の瞬間は訪れるのか。

 そのカギは、己を貫けるか否かにありそうだ。