取材場所に現れた彼女は、とても小柄で格闘家には見えなかった。取材中も絶えず笑いながら話す姿に格闘家の影を感じることは出来ない。しかし柔術の話をする時、声をワントーン落とし、自分の将来の目標を口にする。女子柔術家・菅里実。「ブラジリアン柔術世…

取材場所に現れた彼女は、とても小柄で格闘家には見えなかった。取材中も絶えず笑いながら話す姿に格闘家の影を感じることは出来ない。しかし柔術の話をする時、声をワントーン落とし、自分の将来の目標を口にする。女子柔術家・菅里実。「ブラジリアン柔術世界選手権2018アダルトライトフェザー級 3位」「アブダビグランドスラム2019 アダルト-49kg 優勝」「アジア選手権2019 アダルトライトフェザー級 優勝」等、輝かしい肩書を持つ彼女に話を聞いた。

--菅選手が格闘技に興味を持ち始めたのは、いつごろですか?

菅:幼稚園の頃から高校まで、ずっと柔道をやっていました。高校卒業後は引退し子供たちに柔道を教えていました。

--元々、柔道を始めるキッカケは?

菅:両親が柔道をしていて、その影響ですね。気がついた時には柔道をやっていました。幼稚園の年少だったので、4歳か5歳だったと思います。両親が言うには、私が「柔道をやりたい」と言ったみたいです(笑)。

--柔道をしていた記憶があるのは、いつくらいですか?

菅:幼稚園の時は柔道をしていた記憶がなくて、小学生の時に「勝ちたい、強くなりたい」と思っていたのを覚えています。小学校6年生の時、埼玉県大会で優勝しました。ただ全国大会では、すぐに敗れてしまいましたけど。
高校生の時は、高校2年、3年と連続でインターハイ5位になりました。柔道は高校卒業まで続けていました。

--菅選手が柔道をしていた頃、女性の柔道選手は多かったですか?

菅:10年ほど前は、柔道人口多かったですね。今は少ないと思います。小学生の頃、谷亮子選手がオリンピックに出場しシドニーとアテネで金メダルを獲ったのを覚えていますね。
今考えると恥ずかしいけど、その頃は「ヤワラちゃんのように、オリンピック出場してメダル獲得」って将来の目標を決めていましたね(笑)。

--家族構成を教えていただけますか?

菅:父・母・私と妹が2人います。全員、柔道やっています、柔道一家ですね(笑)。ただ両親が厳しい人で、外では柔道禁止命令が出ていました。

--小さい頃から柔道をされていたと言う事ですが、周りの同世代の女の子と遊びましたか?

菅:遊びましたよ(笑)。でも「鬼ごっこ」とか外で遊ぶ方が多かったですね。

普通の女の子と感覚が違ったかもしれません。小学生の時はモーニング娘。が好きでしたが、中学高校になると、周りがジャニーズとかアイドルを追っかけている中、私は強い男性に惹かれるようになり「山本“KID”徳郁」さんが憧れの人物でしたね。
多分、強い男性に惹かれるのは妹2人も同じだと思います。やっぱり「自分より弱い男の人は、ちょっとな」と(笑)。

--高校卒業と同時に柔道は引退されたと伺いましたが、柔術はどういった経緯で始めましたか?

菅:長い期間、柔道をしていたので就職した後も何か物足りなさを感じていました。ずっと仕事しながら「何か格闘技をやりたい」と思っていましたね。
私は一番下の妹と10歳離れています。柔道と柔術はつながるところがあり、妹が柔道のために柔術を習い始めたんですよ。その妹から「柔術、すごい面白いよ」と言われ、誘われて体験会に参加したら「ちょっと面白いかも」と思い、ジムに通い始めました。それが今から約3年前の2017年ですね。

--3年前に格闘技の世界に戻ってきて、その後快進撃ですね。約5年のブランクが有ったのに、いきなりブラジリアン柔術世界選手権2018アダルトライトフェザー級で3位入賞。柔術始めて、どのくらいの期間で入賞したのですか?

菅:1、2年ですね。運が良かったんです(笑)。みんなに驚かれますが、柔道というバックボーンがあったのが大きかったと思います。

--柔道と柔術の違いを教えていただけますか?

菅:例えば柔道だと、相手を投げると一本になるので勝ちですが、柔術は投げてもポイントにしかならない。締めるか関節を決めて、相手がタップしてギブアップしないと一本にはならない点ですね。

--私もルールを知るまで、同じ格闘技だと思っていました。ところで菅選手の生活サイクルを教えていただけますか?

菅:週5回、普通に8〜17時までフルタイムで働いて、その後練習に行きます。柔術の練習は週6回。選手によっては筋トレをしない人もいますが、私はやります。体幹を鍛えるためにランニングもします。
週に1日は身体を休めるために何もしない日を作ろうと思っているんですけど、ランニングとかやっちゃうんですよね(笑)。
あと最近サーフィンも始めました。サーフィンは出来ないことが悔しくて続けています。私、負けず嫌いなんです(笑)。

--かなり活動的ですね(笑)。ところで将来的にはUFCやRIZINのような大舞台に出場するのを目標にしているのですか?

菅:RIZINやUFCの舞台で女性が活躍している姿を見ると「私も闘ってみたいな」と言う気持ちにはなりますね。ただ、年齢的に今から打撃の練習をするのは遅いのかな…と思っています。

--山本美憂さんが総合デビューしたのは40歳を超えてからでした。まだまだ可能性があると思いますが。

菅:山本さんは持っているものが違うと思います(笑)。

--山本さんはお父さんがレスリング、菅選手は両親が柔道家で、バックボーン的には問題ないかと。

菅:そうですけどね(笑)。でも取り敢えず柔術で、もっと上を目指したいと思います。現在の目標はブラジリアン柔術世界選手権で優勝する事。それを目標に日々練習に励んでいます。

--先日、女子総合格闘技DEEP JEWELSの大会にも出場されていますよね。

菅:特別マッチと言う形で、道着着用・パンチなしの柔術ルールで試合を組んで頂きました。

--DEEP JEWELSには、今後も定期的に参加される予定ですか。

菅:試合を組んで頂けたら出場したいと思っています。

アマチュアの大会は、入場時に選手の紹介をする煽りVがないんですよ。だから、煽りVが流れて入場するのに憧れますね(笑)。

--煽りVの中、入場したら気持ちの入り方も違いますよね。ところで菅選手が格闘技を通して学んだことはありますか。

菅:人との出会いですね。ふと振り返った時、「格闘技をやっていなければ出会えなかった人って、結構いるな…」と思います。
先日のDEEP JEWELSでもRIZINに出場している選手が隣に立っていると「うわぁ、こんな近くにいる」と感じました(笑)。
今通っているジムでも、いろいろな人が柔術を習いに来ています。街の歯医者さんとか、本当に一見何をしているか分からないけど、話をして「実は不動産会社を経営しているんだ」とか言うのを聞くと、普通の生活では出会えない人に会えるので面白いです。

--最後に菅選手が格闘技を通じて伝えたいことはありますか?

菅:ブラジリアン柔術はメジャー競技ではないので、もっと多くの人に柔術を知って貰いたいですね。柔術って頭をかなり使う格闘技なんです。チェスとか将棋のように、相手が何を考えているのかを予想して動く。右に動くフリをして左に動くとか、頭を使いますね。
柔道より技も多いです。先ほども説明しましたが、柔道は投げたら一本で勝ちます。でも柔術の場合は、投げた後、どのように相手を攻めるか。極めに行きたいけど、自分も相手に極められるリスクもある。それをどう避けながら、自分は極めにいくのか。

--それを常に考えながら動いているんですか?

菅:はい、考えるようにしています。投げ技は、あくまでつなぎ技の一つ。どうやって極め技まで持っていけるかとシミュレーションしています。だから柔術は、やってみるとハマる人が多いんですよ(笑)。

<プロフィール>

菅里実:所属 CARPE DIEM 26歳

両親が柔道家で、幼稚園年少から柔道を始める。小学生6年生、柔道で埼玉県大会優勝。高校2,3年連続でインターハイ5位入賞。高校卒業と同時に柔道は引退。

2017年、妹に誘われ柔術の道へ。すぐに頭角を現す。
ブラジリアン柔術世界選手権2018アダルトライトフェザー級 3位
アジア選手権2018 アダルトライトフェザー級 3位
アブダビグランドスラム2018 アダルト-55kg 3位
2019全日本選手権 アダルトライトフェザー級 2位
アブダビグランドスラム2019 アダルト-49kg 優勝
アジア選手権2019 アダルトライトフェザー級 優勝

菅里実インスタグラム→https://www.instagram.com/satomi_019

取材・文/大楽聡詞