インタビュー後編、ロンドン五輪の銀メダリストが語る親子の関係 2021年の東京五輪でもメダル獲得が期待される卓球。近年、“最強中国”を追う存在として、世界の頂点を狙えるまで力をつけてきた。日本卓球はなぜ強くなったのか――。「THE ANSW…

インタビュー後編、ロンドン五輪の銀メダリストが語る親子の関係

 2021年の東京五輪でもメダル獲得が期待される卓球。近年、“最強中国”を追う存在として、世界の頂点を狙えるまで力をつけてきた。日本卓球はなぜ強くなったのか――。「THE ANSWER」では、長きに渡って日本のトップでプレー、2012年ロンドン五輪女子団体では男女通じて初の表彰台となる銀メダル獲得に貢献した平野早矢香さんに聞いた。

 3歳9か月からラケットを握り、“天才卓球少女”として知られるようになった福原愛さんを始め、石川佳純、平野美宇、伊藤美誠ら多くのトップ選手は幼少期から親の徹底指導を受けている。卓球界で強くなるためには、親の英才教育が必要不可欠なのだろうか。

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 英才教育が絶対に必要かどうかはともかくとして、卓球に触れる時期は早いほうが良いという風潮はあります。卓球に必要なものは運動能力だけじゃなくて、最後は相手のコートにボールを入れることができるコントロール能力、手先の器用さです。ボールの回転を理解することも必要ですし、感覚を身につけるのにはある程度、時間がかかります。早い時期から始めたほうがいいというのは理にかなっています。ただ、海外の選手の中には10歳の半ばから始めて世界のトップになった選手もいます。

 日本では小学生の頃から活躍できなければ、トップにいくのは難しいという環境になってきています。やはり卓球のボールを打つという動作はほかのスポーツとは共通する要素が少ないため、早い時期からたくさん数を打ったほうがいいというのは、全体的な見方としてあります。

 私自身も両親の影響で5歳から競技を始めました。ですが両親にみっちり教えられたというよりは、所属していたそれぞれのチームの監督に任せるというスタイルでした。親には小学生の頃に少し練習で打ってもらったり時々アドバイスをもらったりはしていましたが、中学校以降はほとんどありません。

 ただ、私の歩んできた卓球人生において根底にあるものは小さい頃に教えてもらった基礎の部分。小学校、中学校、高校と、どのチームにおいても基礎の部分は重視してやってきました。勝つためには基礎が全てというわけではありませんが、トップにいくためには結局基礎が重要になってくると思っていました。

 一方で強化の仕方も色々な形があると思っています。今の選手で言うと伊藤美誠選手は感覚というか、才能で自分の個性を貫きながら成長してきて、一定のレベルに来た時に基礎を固めて、今すごく良くなっている印象です。私なんかは逆に基礎が大事とずっと言われてきて、足の動かし方や、重心の乗せ方、移動の仕方という基礎の部分を徹底的に練習してきました。社会人になってから基礎練習にプラスアルファとして細かい技や、世界で勝つための技を強化したという感じです。どちらの形が良いということはありませんが、基礎をまず固めるのが主流ではあります。

親が指導者なら「絶対に裏切らないという信頼感がある」

 では、小さい頃に泣きながら練習をしていた愛ちゃんのように、親の徹底した指導が不可欠なのかどうか。その形で成功している人もいれば失敗している人もいます。指導者として見た時に、両親であれば自分を裏切らないという信頼感があります。そういう意味で両親が近くにいて欲しいという人もいるのは間違いないです。ただ、私の場合でいうと、どちらかというと両親の話のほうが素直に聞けなかった(笑)。

 私は忘れているのですが、小学校5年生の時に卓球の話を父親にされていて「そんなこと言うなら自分でやってよ」と言ったらしいんですよ(笑)。それから父親は現役引退するまで、卓球に関するアドバイスは一切言わなくなりました。私が現役の終盤の頃に「お父さんどう思う?」って聞いたことがあるんですけど「いや、俺は……。そういうレベルじゃないから分からない」と。後からそういうことがあったと聞きました。

 だから私の場合は両親がずっと付き添って、常に横にいるというスタイルはストレスと感じて今の結果はなかったかなと思います。結局は選手それぞれの性格、求めているものがなにか、見極めることが必要かもしれません。

 卓球を始めるお子さんのケースとして、両親も競技者だったということが多いですが、そこから離れて強くなっている選手もたくさんいます。ある程度のサポートは必要ですがそれはほかのスポーツも同じだと思います。つきっきりで教えなければ強くならないということはありません。指導に関しては様々な形があります。卓球を始めようか、悩んでいるお子さんがいらっしゃる方は参考にしていただければと思います。(THE ANSWER編集部・角野 敬介 / Keisuke Sumino)