■世界中へ発信されたゴールパフォーマンス全国区を飛び越えて、一気にワールドワイドの存在になってしまった。スペインをはじめとする世界中で自分のことが報じられている状況を、鹿島アントラーズのFW鈴木優磨は笑顔で歓迎する。「(プレッシャーには)全…
■世界中へ発信されたゴールパフォーマンス
全国区を飛び越えて、一気にワールドワイドの存在になってしまった。スペインをはじめとする世界中で自分のことが報じられている状況を、鹿島アントラーズのFW鈴木優磨は笑顔で歓迎する。
「(プレッシャーには)全然ならないです。取り上げてもらえればもらうほど嬉しいです」
思わぬブレークのきっかけはゴールパフォーマンスだった。日本で開催中のFIFAクラブワールドカップ2016の準決勝。南米大陸代表のアトレティコ・ナシオナル(コロンビア)との後半40分だった。
右サイドを抜け出したFW金崎夢生が送った低く、速いクロスに、以心伝心でファーサイドへ走り込む。左足で確実に押し込み、リードを3点に広げて南米王者の戦意を完全に断ち切った直後だった。
左コーナーフラッグ方向へ走りながら空中へ高く飛び、両手を上から下へ振りかざしながら着地。同時に夜空へ向かって雄叫びをあげるパフォーマンスで、市立吹田サッカースタジアムの視線を一身に集めた。
実はこれ、今大会にヨーロッパ大陸代表として出場している名門レアル・マドリード(スペイン)のスーパースター、FWクリスティアーノ・ロナウドが演じる有名なゴールパフォーマンスだった。
「いやぁ、記者の皆さんが『やるんですよね』と聞いてくるので、やらざるを得ない状況でした。ロナウドはパフォーマンスの最後に『シューッ』って叫ぶので、そこも真似しました」
試合後の取材エリアで屈託のない笑顔を浮かべた鈴木だったが、日本勢としてだけでなく、アジア勢としても初めてとなる決勝進出を決めた快挙との相乗効果で、すぐさま世界中へと発信される。
たとえばFIFA(国際サッカー連盟)の公式サイトは「恍惚状態の鈴木がロナウドのような喜びを届けた」との見出しとともに伝えたが、スペインのテレビ局は何ともユニークな報じ方をしている。
「スーパーサイヤ人になる孫悟空を思い起こさせた」
■クリスティアーノ・ロナウドは憧れの存在
実はスペインでは、日本の漫画『ドラゴンボール』の人気が非常に高い。主人公の孫悟空が怒りとともに最強の宇宙人へ変身するシーンとまさにダブる光景は、それだけ強烈なインパクトを与えた証でもある。
小学校1年生のときから鹿島アントラーズジュニアでプレー。ジュニアユース、ユースとアントラーズ一筋で育ち、昨シーズンからトップに昇格した鈴木にとって、ロナウドは永遠のヒーローだった。
最初の出会いは小学校3年生だった2005年7月。当時マンチェスター・ユナイテッド(イングランド)の一員として来日し、アントラーズと親善試合を戦ったロナウドの一挙手一投足に釘付けになった。
このときはテレビ観戦だったが、3年後の2008年12月にはロナウドがクラブワールドカップで再来日し、ガンバ大阪と壮絶なゴール合戦を演じた準決勝を横浜国際総合競技場のスタンドで観戦している。
ゆえに、鈴木はロナウドが憧れの存在だと公言してはばからなかった。J1の年間王者を獲得して今大会への出場を決めた直後から、「ゴールを決めたらあのパフォーマンスをするのか」と質問されたわけだ。
アントラーズが決勝進出を決めた時点で、準決勝から登場するレアル・マドリードはまだ緒戦を戦っていなかった。それでも鈴木は「相手がレアルじゃなきゃ困るので」と、再び笑いながらこう続けている。
「本当に夢みたいなことですけど、これは現実なので。試合後のロッカールームでも『歴史を変えたぞ』と大騒ぎだったし、みんなレアル・マドリードと戦う気持ちでいるので」
すかさず、ゴールパフォーマンスに関する質問が飛ぶ。決勝戦の相手がレアル・マドリードとなり、もしゴールを決めたら、憧れのロナウド本人が見ているなかで同じことをするのか、と。
「やります! ロナウドの目の前までいってやります! イエローカードが出ますかね? 出ないですよね? じゃあ、考えておきます!」
■受け継がれる常勝軍団アントラーズのDNA
まるで悪戯小僧のような笑顔を浮かべながら見せる、茶目っ気あふれる受け答え。素顔はまだ20歳の少年だが、181センチ、70キロのボディにはアントラーズのDNAが凝縮されている。
J1デビューは2015年9月12日。ホームにガンバ大阪を迎えたセカンドステージ第10節の後半29分から出場し、終了間際に左サイドから金崎があげたクロスをジャンプ一番、頭で叩き込んだ。
絶対の自信を寄せるヘディングの源泉をたどっていくと、アントラーズの歴史上で最多となる通算89ゴールをマークし、現在はスカウトを務めている長谷川祥之氏にたどり着く。
長谷川氏のサイズは179センチ、69キロと鈴木よりも小さい。それでも「空中に留まることができる」と形容されたジャンプ力とポジショニングのよさ、頭部のけがをも恐れない闘志でゴールを量産した。
ユース時代にトップチームのキャンプに参加した鈴木は、先輩たちが雲の上の存在だと痛感。視察に訪れていた長谷川氏に極意を尋ねまくり、「ヘディングが強い選手は前へ入っていける」との言葉を引き出した。
味方からのパスを待つのではなく、相手の状況やタイミングを瞬時に判断。ベストのスペースを嗅ぎ取って走り込むことで、味方からのパスを逆に引き出す直伝のスタイルは、地上戦でも鈴木を覚醒させた。
金崎の背中にも刺激を受けた。鈴木がトップチームに昇格した昨シーズンの開幕直前に加わった金崎は、普段の練習から激しい闘争心をまき散らし、アントラーズが忘れかけていたものを呼び起こさせた。
PKキッカーを巡って試合中に押し問答を演じたこともある2人だが、実は非常に強い信頼関係で結ばれている。180センチ、68キロの金崎を見つめる視線の熱さは、鈴木のこんな言葉に凝縮されている。
「自分のプレースタイルに一番近いフォワードの選手。あの人からどれだけ盗めるか。前線で体を張るところや、ゴール前にどんどん姿を現すところなどを盗んで、自分のプラスにしていきたい」
■銀河系軍団レアル・マドリードは「倒すべき敵」
今大会でもアフリカ大陸王者のマメロディ・サンダウンズ(南アフリカ共和国)に快勝した、11日の準々決勝の後半終了間際に2人は共演を果たしている。金崎のダメ押し弾をアシストした鈴木がニヤリと笑う。
「もうムウ君(金崎)のお膳立てはしなくていいでしょう。今度は僕がしてもらう番。気持ちよくさせたから、気持ちのいいパスがそろそろ返ってくることに期待したいですね」
言葉通りに金崎のアシストで決めた準決勝のゴールにも「まだまだ足りないですよ」とおどけながら、以心伝心の位置に届けられたクロスに、鈴木は感謝の言葉を忘れなかった。
「最初はマイナスでもらおうと思ったけど、前が空いていたので入っていきました。やっぱりムウ君とは前線でいい関係でいられる。そのことはお互いにわかり合っているから、やりやすい部分もある」
決勝進出を決めた翌日の15日夜。空路で横浜へと移動したアントラーズは練習を行わず、石井正忠監督をはじめとする首脳陣、希望する選手たちでレアル・マドリードが勝利した準決勝を観戦した。
何度も訪れたチャンスを外したロナウドだったが、後半アディショナルタイムに貫禄の一発を決める。憧れの存在ではなくこれから戦う敵として、鈴木は世界的なスーパースターを8年ぶりに間近で見た。
「確かに速かったけど、正直な話、まだ肩慣らしくらいだな、という程度でやっていたので。決勝では本気を引き出せるように。日本のすべてのチームも見ているので、すごく楽しみです」
16日に横浜市内で再開された練習後には、スペインの全国紙『マルカ』の取材を受けた。カメラマンのリクエストに応じてロナウドのパフォーマンスを演じて見せたが、だからといって浮き足立つことはない。
左肩を脱臼していた影響もあって、準々決勝と準決勝のように後半途中からの出場が濃厚だ。それでも鈴木の相手ゴールに迫る迫力、どんな状況にも決して物怖じしない度胸は必ずアントラーズの武器になる。
「けがとかしていると、いつもよりもアドレナリンが出るので。僕らがお客さんになってしまったら、試合には負ける。いかに目の前の敵と思えるか。絶対に倒すんだ、という強い気持ちで臨みます」
さあ、歴史的な大一番へ。舞台は横浜総合国際競技場。キックオフは18日午後7時半。FIFAが主催する国際大会のファイナルというヒノキ舞台で、ントラーズが、そして鈴木が銀河系軍団の牙城に挑む。
鈴木優磨(2016年12月14日)(c)Getty Images
鈴木優磨(2016年12月14日)(c)Getty Images