ちょうど500球で大会を終えた。 規定により「1週間・500球」の球数制限が設けられた今秋の東北大会で、柴田のエース・…
ちょうど500球で大会を終えた。
規定により「1週間・500球」の球数制限が設けられた今秋の東北大会で、柴田のエース・谷木亮太は1回戦から準決勝までの4試合すべてに登板し、481球を投げていた。
それでいながら、仙台育英との決勝戦でも0対7と大量ビハインドの4回途中からマウンドに立ち、右腕を振った。たった19球。一死しか奪えず4失点を喫したとはいえ、谷木は文字どおり"投げきった"わけだ。
結局、柴田は仙台育英に1対18で敗れた。

チームを東北大会初の準優勝に導いた柴田高校のエース・谷木亮太
宮城の公立校。夏は直近の3年間すべてベスト8以上と県内では実績を残すが、甲子園出場は春夏通じて一度もなく、OBにロッテなどで活躍した小坂誠などがいるが、全国的にはまったくの無名校である。その柴田がこの秋、初めて東北大会で準優勝まで上り詰めた事実は、大きな衝撃を与えた。
チームの大躍進。その中心には谷木がいた。ストレートは130キロ台前半。実戦で用いる変化球はカーブ、スライダー、チェンジアップがある。投球の身上は「内角と外角へ丁寧に投げ分け、打たせて取ること」だという。
よくいえば安定感があり、悪くいえばこれといった特徴のないオーソドックスな投手と表現できる。ただ谷木に限れば、そのような評価など現時点では無意味である。なぜなら、このスタイルをわずか2カ月あまりで築き上げたからだ。
柴田の指揮を執って今年で11年目を迎える平塚誠監督は、次のように語る。
「谷木は不器用そうに見えるんですけど、実際は器用なんです。入学した当初からいいストレートを投げていたので『将来的にエースになってくれるだろうな』とは思っていましたが、ここまでやってくれるとは......」
指揮官から早々に「エース候補」と期待を寄せられていたものの、今夏の独自大会ではベンチ入りすらできなかった。「3年生主体」というチーム事情があったのも事実だが、なにより投手としての能力が足りなかった。この時点で、谷木はストレートとカーブしか投げられなかったのだ。
新チームが始動した8月。谷木をエースに任命した平塚監督から「球種を増やさないと抑えられないぞ」とスライダーの握りを教わった。すると、ものの1週間でコツをつかみ、実戦でも操れるようになった。同じように、チェンジアップもあっという間にマスターした。
同時に投球フォームも再構築。だが、それは"改善"というより、苦肉の策に近かった。谷木には左足を内側に踏み出す、いわゆる"インステップ"の欠点があった。制球力に苦しむなど、どちらかといえば矯正の対象となるのだが、平塚監督はその形を生かすことにした。
「本当は『やめろ』と言ってたんですが......ただ、秋の県大会が目前に迫っていたもんですから、そのタイミングでは大きく変えられませんでした」
谷木が平塚監督と相談して踏み切ったのは、それまでのワインドアップからセットポジションに変更することだった。これが思いのほかハマったと、谷木は言う。
「ワインドアップの時はどうしても体の開きが早くなってコントロールが安定しなかったんですけど、セットにしてからはよくなりました。インステップもいずれは修正したいですけど、今はそこまで気になりません」
新たな変化球の習得と無駄をなくした投球フォーム。これが東北大会で生きた。
「ストレートと同じ腕の振りで投げる」というスライダーは、緩やかに大きく変化するのが特徴だ。谷木や平塚監督は「できればカットボールのように速い変化にしたい」と不満げだが、初戦で学法石川(福島)を5安打2失点に封じた。
2017年夏まで仙台育英を指揮していた佐々木順一朗監督は「ちょっと厄介なボールでしたね」とスライダーに手を焼いたことを明かした。
そして、東北大会における柴田のハイライトともいえる2回戦の八戸学院光星(青森)戦では、強気の投球を貫いた。
「気持ちで負けないように、インコースを多く使って攻めることができました」
谷木は3死球を与えながらも、最後まで臆することなくインコースを攻め、優勝候補の一角に挙げられていた強豪相手に2失点完投を演じた。
準々決勝の東日本国際大昌平(福島)戦は9回途中5失点と粘りのピッチングを披露し、準決勝の日大山形戦では大会初完封。エースの快投がチームに勢いをもたらしたのは言うまでもない。
例年どおりなら、東北地区の一般選考でのセンバツ出場枠は2校だ。準優勝の柴田は悲願の甲子園出場に大きく近づいているが、安泰ではない。というのも、同じ宮城の仙台育英に決勝で大敗し、その仙台育英と準決勝で戦った花巻東(岩手)は0対1と接戦を演じたからだ。
そうはいっても、仙台育英との決勝戦は谷木が"球数制限"により先発のマウンドに立てず、不完全燃焼に終わっている。もし制限がなく最初からエースが投げていれば......そんな「たら・れば」だって、選考要素に加えられたっていいのではないだろうか。いずれにしても、「春夏通じて甲子園出場がない公立校」という立ち位置は、大きなアドバンテージになるはずである。
なにより期待したいのが、公立校の絶対エースの伸びしろである。現在、スライダーは改良中であり、新たな変化球だって生まれるかもしれない。投球フォームにしても、試行錯誤を重ねてより安定する"形"を手にすることだろう。
ひと冬越え、さらなる変化を遂げた谷木が憧れのマウンドに立つ姿を、ぜひとも見てみたいと思う。