東日本選手権SPを滑る樋口新葉 12月の全日本フィギュアスケート選手権へ出場をかけた東日本選手権が、山梨県の小瀬スポーツ公園アイスアリーナで開催された。樋口新葉は昨年の全日本選手権2位で、全日本へのシード権はすでに持っているが、「今季は(コ…



東日本選手権SPを滑る樋口新葉

 12月の全日本フィギュアスケート選手権へ出場をかけた東日本選手権が、山梨県の小瀬スポーツ公園アイスアリーナで開催された。樋口新葉は昨年の全日本選手権2位で、全日本へのシード権はすでに持っているが、「今季は(コロナ禍の影響で)試合数が少ないので、出られる大会には出ておきたかった」と出場。初日(11月6日)のショート・プログラム(SP)は余裕のある滑りをし、2位に10点強の差を付けて首位発進した。

「練習よりいいイメージで演技できたし、細かい部分を考えられた。ステップも意識して大きく滑れたと思うが、『もっと大きくできる』とも感じました」

 2本目のジャンプの3回転ルッツ+3回転トーループをきれいに決めると、次のコンビネーションスピンはスピード感溢れる回転だった。3回転フリップはノット・クリア・エッジと判定されてGOE(出来栄え点)加点は伸びず、樋口は「朝の練習から高く跳べていたので、詰まった原因はそれだと思う」と振り返った。しかし、その後は流れのいいつなぎでレイバックスピンに移ると、最後のステップシークエンスは気持ちを前面に出すキレを見せた。

「見た目では大きいミスがなかったので、自分の滑りは最低限できた。細かいところでレベルやプラスが取れないところはありましたが、(11月下旬の)NHK杯までには仕上げられる部分かと思います」

 演技構成点は昨シーズン最後の四大陸選手権に比べると全体的に低く、70点台には乗せたが70.71点。満足できる演技ではないものの、シーズン初戦としては納得できるものだった。今季はプログラムをSP、フリーともに前季から持ち越したことで焦りがなく落ち着いている印象。「やるべきことができているので自信もついてきた」という、心の余裕を感じさせるSPだった。



フリーでもトップの得点で優勝した樋口

 練習に集中できているという樋口のトリプルアクセルは安定してきた。フリー前日、樋口は「一日に2〜3本は降りられていて、試合では必ず降りるという気持ち」と述べた。当日の6分間練習でトリプルアクセルを一度成功させたが、本番はしっかり回り切りながらも着氷でステップアウトになる惜しいジャンプとなった。「(10月の)ジャパンオープンの時は練習でも降りられていなかったので不安はあったが、今回は以前より安心して試合に臨めて、ステップアウトになっても落ち込むことはありませんでした」と話した。

 しかし、次の3回転ルッツは少し力が入り過ぎたジャンプになって着氷を乱し、3回転トーループを付け損ねた。「最初(のジャンプ)で失敗しても、その他のジャンプはしっかり跳べるようにしたい」と以前から話していた気持ちが力みにつながったのか。

 その後の3回転サルコウはきれいに決めてコンビネーションスピンもレベル4と勢いを取り戻したかに見えたが、3回転ループが2回転になるミスが出た。

「2本目の3回転ルッツ+3回転トーループを跳べなかったのはあまりないミスだったので、滑りながら3回転トーループをループに付けようか、サルコウに付けるか、最後に付けるかを考えて迷っていた」

 それでも、後半の3本のジャンプをすべて連続ジャンプにすると決めた樋口は、しっかりとリカバリーを果たした。昨シーズンと少し内容を変えたコレオシークエンスで気持ちを立て直すと、ダブルアクセル+3回転トーループの後に2回転トーループを付けて3連続ジャンプにした。また、2回転を2本つける3連続ジャンプとする予定だった3回転フリップに3回転トーループを付け、さらに最後の3回転ルッツの2回転トーループを足す構成にした。

 フリップがSPと同じくノット・クリア・エッジの判定でわずかな減点、ステップシークエンスはレベル2となる取りこぼしはあったが、132.53点を獲得。合計を203.24点にし、2位に30点近い差を付ける圧勝だった。

「目標の200点を超えられたのはよかったけれど、フリーはトリプルアクセルの他のジャンプでミスが続いたので、次のNHK杯は(トリプルアクセルで)失敗しても、それ以外のジャンプが崩れないようにしたいと思います。トリプルアクセルに関しては、6分間練習でも公式練習でも成功したので練習の成果が出たところですが、試合で降りるのは難しいなと感じました」

 練習での単発のジャンプと違い、曲が掛かった本番の滑りでは「スピード感やジャンプに向かうまでのコースも違ってくる」と、樋口は言う。成功している時の状況をしっかり分析し、試合の中でもその状況に近づけていくことが必要だ。「試合で1回降りられれば自信もついてくる」と樋口は話すが、それは次に持ち越された。

 ただ演技自体を見れば、SPでは滑りや体使いの大きさ、流れのスムーズさが出ていた。フリーもつなぎの部分やステップなどで、指先の形をいろいろ工夫して変化させているのが確認できた。樋口自身も「表現面でいろいろなことを試みたり、考えたりする余裕ができた」と話していた。

 フリップでノット・クリア・エッジと判定される課題は残ったが、トリプルアクセルの成功も含め、これまで以上に細かなところまで気を配った完成度の高いプログラムを作り上げられる。樋口はこの大会で、その可能性を見せてくれた。