「Sigue、Sigue!」 ベンチから立ち上がった徳島ヴォルティスのリカルド・ロドリゲス監督は、スペイン語で「続けろ、…

「Sigue、Sigue!」

 ベンチから立ち上がった徳島ヴォルティスのリカルド・ロドリゲス監督は、スペイン語で「続けろ、続けろ!」と味方FWに向かって声を張り上げていた。

 前線からのプレッシング。相手にラインを越えさせず、攻め手をしつこく封じていた。ポジション的優位に立って、ミスを誘いつつボールを奪い返し、狡猾にショートカウンターを浴びせる。戦術的によく鍛えられたチームで、各選手の役割が明確化されていた。おかげで選手はプレーを信じ、成長できるのだろう。

 リカルド・ロドリゲス監督が率いて4年目になる徳島が、毎年のようにJ1昇格を争い、J1に多くの選手を輩出している理由だ。



徳島ヴォルティスを率いて4シーズン目となるスペイン人のリカルド・ロドリゲス監督

 11月7日、味の素スタジアム。J2で首位を走る徳島は、東京ヴェルディの本拠地に乗り込んでいる。

 試合は序盤からお互いにプレスをかけ、ボールを持とうとする強い意志を見せ、火花を散らした。徳島は熟成度でやや上回り、ペースを握る。7分、相手GKが蹴ったボールをセンターバックが跳ね返し、それを受けたボランチがすかさずFWに入れ、際どいシュートを放つ。ショートカウンターでゴールに迫り始める。

 16分、プレッシング戦術の駆け引きが渦巻く中だった。徳島は東京Vの選手たちを自陣奥深くまで一度引き込むと、岩尾憲が相手のマークをはがして受け、空いた前の選手につける。裏返したカウンターはシュートに結びつかなかったが、ひとつの伏線となった。

 17分、今度はボールを下げた東京Vに対し、徳島は巧妙なプレスを見せる。相手のコースを狭め、パスミスを誘発。インターセプトからダイレクトでパスを入れると、完全にひっくり返していた。一度、右サイドに展開して入れたクロスからのシュートは防がれたが、甘くなったクリアを拾い、再び右サイドからファーにクロスを入れると、これを清武功暉が右足で合わせ、先制に成功した。

 プレッシングのタイミングやコース、選手のポジショニング、ゴール前に選手が入る連動など、徳島の練度の高さが出た格好だ。

「ボールを保持したい、という思いは一緒のチーム(同士の対戦)で、(そのためにFWとしても)まずは相手のボランチを消し、中を締めて、守備対応をすることが求められました」(徳島・清武))

 一方、東京Vも戦意は挫けていなかった。前線からはめ合い、カウンターを狙う。一触即発の様相を呈したまま試合は推移し、42分だった。徳島のFWが落としたボールに鋭く反応したMF藤田譲瑠チマがパスカットに成功し、そのままボールをFWにつけ、再び受けたボールを右足で左隅へ流し込んだ。

「(同点につながったパスカットは)ゆるくなったパスを狙っていました。前半は、相手に(ボールを)持たれることが多くて。前にプレスをかけたところ、2列目が遅れてワンタッチではがされていたので、マンツーマンで行こうと。後半はアグレッシブに戦うことができました」(東京V・藤田)

 後半、徳島は東京Vの真っ向勝負に、やや不利な形勢となる。ボールがうまくつながらず、プレスもはまらない。ポストをかすめるようなシュートを浴びるシーンもあった。

「首位である徳島を相手に、勇気を持って戦うことができたと思います。後半は前から行って、"崩し"まではできた。あとは、決め切るというところの質を上げるしかない」(東京V・永井秀樹監督)

 だが残り10分、総攻撃で勝ちにきた東京Vの陣形が均衡を失う。凌いだ徳島は、その隙を見逃さない。それはチームとしての練度の違いとも言えるか。

 後半41分、前がかりでプレスをかける東京Vの裏を狙い、徳島は左サイドにロングボールを通す。これを受けた西谷和希が運び、ペナルティエリア付近で1対2の形になる。その瞬間、西谷は右アウトサイドで浮いたパスを間に通そうとすると、これが相手DFの手に当たり、PKの判定になった。

 岩尾がPKを決め、徳島は1-2で勝利をものにした。

「pequeno detalle」

 リカルド・ロドリゲス監督は、勝因を「小さく細かい点」と語っている。東京Vとの差は、ほんのわずかだったが、それは日々積み上げてきた差だ。

 実は前半24分にも、決勝点と似たシーンがあった。西谷が左サイドでためを作って、2人の間を浮き球で通し、これを受けた選手の折り返しからネットを揺らした。オフサイドでゴールは取り消されたものの、ひとつの攻撃パターンだろう。それはチームとして、個人が鍛えられている証だった。それ故、再現性があって、偶然性が少ない。それが選手の成長、チームの強さにつながっているのだ。

「どちらが勝ってもおかしくない試合だった。双方がプレッシャーをかけ、ミスを誘い、リスクを追う展開。どっちにボールが転がるか、小さく細かい点が勝負を分けた」(徳島・リカルド・ロドリゲス監督)

 勝負は時の運である。勝つことも負けることもあるだろう。しかし、勝つ仕組みを整えた徳島が上位にいるのは必然で、そこでプレーした選手が進化を遂げるのも道理だ。

 11月11日、鳴門。首位を守った徳島は本拠地で栃木SCを迎え撃つ。残りは10試合だ。