待ちに待った卓球の国際大会がいよいよ再始動する。ITTF(国際卓球連盟)の"RESTART"シリーズ第1弾は「女子ワールドカップ」<11月8~10日/中国・威海>。五輪、世界卓球と並ぶ世界3大タイトルのひとつで、例年は世界卓球の優勝者や各大陸カップの上位成績者ら、各国・地域(=協会)から2人ずつ計20人しか出場できない大会だ。そのため"女子シングルス世界最強決定戦"に位置づけられ、誰が相手でも勝ち上がるのが難しいといわれる。

 ちなみに今年は世界卓球2019ハンガリー(個人戦)で優勝し、女子ワールドカップは5回制している劉詩(中国)が今年の春に受けた右肘手術の影響で欠場。朱雨玲(中国)も欠場したことから、中国は世界ランク1位の陳夢と同3位の孫穎莎が代わって出場することとなった。なお、全体の人数は21人に増えている。

伊藤美誠 石川佳純 PHOTO:@ITTFWorld


リスク覚悟の海外遠征は東京五輪のため


 日本からは東京五輪代表の伊藤美誠(スターツ)と石川佳純(全農)が出場する。選考理由は2人とも新型コロナウィルスの影響で中止されたアジアカップに出場予定で、そこで世界ランク2位の伊藤は最高位、石川は同9位で6番手に入っていたため出場権を獲得(上位8番手までが出場権獲得)した。

 女子ワールドカップといえば近4年は平野美宇(日本生命)が連続出場し、2016年のフィラデルフィア大会では日本人初優勝の快挙を果たしたことから、平野出場イメージが強いが、石川も8回の出場実績があり2014年リンツ大会で銅メダル、2015年仙台大会で銀メダルを獲得している。一方、伊藤は2016年のフィラデルフィア大会に出場したのみだが、目下、世界ナンバー2の実力を誇る優勝候補のひとりだ。

今大会の出場を決めるにあたり、伊藤も石川もいまだ収束しないコロナの感染状況や現地での隔離期間の長さを考えれば、リスクの高い海外遠征を見送る選択肢もあった。

だがワールドカップは獲得ポイントが高く、それは世界ランクにも反映される。世界ランクは来夏の東京五輪女子シングルスのシード順に直結するため、五輪本番までに少しでも世界ランクを上げておきたい2人はリスク覚悟での出場に踏み切った。

中国に発つ直前、伊藤が「実際、命がけで行っているようなもの」と話していたが、その言葉の重みが国際大会の再開を手放しで喜べない現実を物語っている。

女子ワールドカップ 会場 PHOTO:@ITTFWorld


フットワークとラリー力を強化した伊藤

 しかし、今年3月のカタールオープン以来、8カ月ぶりとなる実戦の準備は十分に積んできた。中でも伊藤が基礎から見直したのはフットワークだ。

 ちょうど3年前にも2016年リオ五輪後の不振から抜け出すためフットワークを鍛えた伊藤だが、そのときとはまた違う。細かい足の使い方を意識して動きのバリーエションを増やしたといい、「体と足の使い方が本当に良くなっている。自分のボールで攻められている」と手応えを掴んだ様子だ。

 さらに伊藤は男子の関西学生チャンピオンを練習相手にラリー力の向上にも取り組んだ。利き腕の右肩周りの筋肉を見ると明らかに大きくなり、左腕より一回りも二回りも発達している。

伊藤美誠 PHOTO:@ITTFWorld


これらの強化は全てライバルの中国人選手に勝つために行ってきた。とりわけ今回の女子ワールドカップでは、伊藤が中国のトップ選手で唯一、勝ったことのない陳夢から是が非でも初白星を奪いたいところ。伊藤いわく「何でもできて穴がない」と言う陳夢はいわゆるオールラウンダーで、特に163cmの身長を生かしたフォアハンドドライブは回転量が多くボールが重たいという。その陳夢に対し伊藤のラリー力がどれくらい通用するか。打ち合いになったときが楽しみだ。

 じっくり練習に専念できたこの8カ月間、「自分にないものや必要なものをしっかり見直すことができたので、私にとってはいい期間だったし、さらに実力が上がって楽しい期間だった」と振り返る伊藤。中国ではまだ東京五輪代表選考の真っ最中とあって陳夢も孫穎莎も必死の形相だが、その中国勢が海外選手の中で最も警戒する伊藤は果たしてどんな戦術を仕掛けていくのか。久々に見られるハイレベルな戦いに注目が集まる。


体脂肪3%減の石川。伊藤とともに本戦から登場

 女子ワールドカップでの経験豊富な石川も国際大会の中断期間を利用し、1カ月ごとにテーマを決めて練習を積んできた。その結果「体脂肪は落ちました。3%くらい」と言い、「半年間やってきたことを出せたらいい。東京五輪につながっていったくれたらと思います」と意気込みを語っている。

石川佳純 PHOTO:@ITTFWorld


 その石川は今大会、陳夢、伊藤美誠、孫穎莎、鄭怡静(台湾)、そして世界ランク9位タイのフォン・ティエンウェイ(シンガポール)と並ぶ第5シードから上位進出を狙う。

大会は初日に第1ステージと呼ばれる予選グループラウンドが行われ、世界ランクの低い9~21人(13人)がA~Dグループに分かれて総当たり戦を行う。その結果、各グループの上位2人=計8人が2日目の第2ステージに進み、上位シードの8選手とともにトーナメント方式の本戦を戦う。第2シードの伊藤と第5シードの石川は本戦から登場。大会3日目には準決勝と決勝、3位決定戦が行われる。


【出場選手21人】
陳夢(中国/WR1)
伊藤美誠(日本/WR2)
孫穎莎(中国/WR3)
鄭怡静(台湾/WR8)
フォン・ティエンウェイ(シンガポール/WR9)
石川佳純(日本/WR9)
ポルカノバ(オーストリア/WR14)
杜凱(香港/WR15)
チョン・ジヒ(韓国/WR16)
A.ディアス(プエルトリコ/WR19)
P.ソルヤ(ドイツ/WR20)
ソ ヒョウォン(韓国/WR23)
セーチ(ルーマニア/WR24)
ハン・イン(ドイツ/WR25)
陳思羽(台湾/WR26)
チャン リリー(アメリカ/WR27)
エーラント(オランダ/WR30)
ウー ユエ(アメリカ/WR32)
メシュレフ(エジプト/WR32)
ジャン・モー(カナダ/WR34)
ペソツカ(ウクライナ/WR38)

※WR=2020年11月発表の最新世界ランク

(文=高樹ミナ)