サッカースターの技術・戦術解剖第32回 ジェイミー・バーディー<シンデレラストーリー> 2015-16シーズン、レスター…

サッカースターの技術・戦術解剖
第32回 ジェイミー・バーディー

<シンデレラストーリー>

 2015-16シーズン、レスターは奇跡のプレミアリーグ優勝を果たした。エースストライカーのジェイミー・バーディーは11試合連続ゴールなど、24ゴール(リーグ2位)をゲットする大活躍で優勝の原動力となっていた。



今季も抜群の得点力で、好調レスターを支えるバーディー

 33歳になったバーディーだが、衰えは感じられない。昨季は23ゴールで得点王になっている。今季、レスターは第7節時点でリバプールと1ポイント差の2位。二度目の奇跡もあるかもしれないが、もはやそれは奇跡ではないのだろう。

 15-16シーズンの優勝は確かに奇跡的だった。クラウディオ・ラニエリ監督もシーズン当初の目標として残留を挙げていたぐらいで、誰もレスターの優勝など予想していなかった。

 プレースタイルも、泥臭く守ってカウンターアタックに賭ける、古色蒼然の弱小スタイル。ただ、バーディーを筆頭に、エンゴロ・カンテ、リヤド・マフレズ、岡崎慎司らの活躍で、あれよあれよという間に優勝してしまったのだ。

 現在のレスターは、当時からは変わっている。ブレンダン・ロジャース監督の下、整然とパスをつないでいく強者のサッカーになりつつある。

 リバプール、マンチェスター・シティ、トッテナム、アーセナル、マンチェスター・ユナイテッド、チェルシーといった格上のチームが存在する以上、ロジャース流の正攻法で優勝するのは難しそうだが、すでにアーセナルとシティには勝利している。例年より格差のないプレミアリーグになっていて、混戦を制する可能性はある。

 バーディーは7ゴールで、キャルバート=ルーウィン(エバートン)、ソン・フンミン(トッテナム)の8ゴールに次ぎ、モハメド・サラー(リバプール)と並んでいる。依然としてエースストライカーでありつづけている。

 バーディーは下積みが長い。シェフィールド・ウェンズデイの下部組織を追われてからは、25歳でレスターと契約するまでノン・リーグ(全国リーグの下部の地域リーグ)でプレーしていた。

 移籍したレスターも当時はプレミアではなく、チャンピオンシップ(2部)だった。奇跡のプレミア優勝で、サッカー界のシンデレラストーリーとして有名になった苦労人である。

<得点の嗅覚とは>

 稀にこうした埋もれていた才能が開花することが起こるが、だいたいはストライカーだ。得点というわかりやすく価値のある能力がものを言うのだろう。

 プロになったストックスブリッジ・パークでは107試合で66得点を挙げている。ハリファクス・タウンでは37試合27得点、フリートウッド・タウンでも36試合31得点。下部リーグとはいえ驚異的な得点力だ。

 実際、点をとる選手は試合のレベルにあまり関係なく得点する。いくらうまくても点がとれない選手もいる。得点力は、やや特殊な領域と言っていい。

 プロのスカウトに聞くと、FWに必要な才能として例外なく「得点力」を挙げる。それがどういった種類の得点力かは問われない。ヘディングでもミドルでもこぼれ球でもいい。着実に点をとれることが重要だという。

 なぜ得点できるのか、スカウトにもよくわからない選手も少なくなく、ただゴールできるとの事実のみで判定されるというのだ。だが、それならスカウティングする必要はない。記録で判断すればよさそうなものだ。ところが、そうでないから話が少々ややこしくなる。

 得点力があっても評価されない選手はいくらでもいる。バーディーは「背が低い」という理由でシェフィールド・ウェンズデイの下部組織からはじかれた。足が遅い、運動量がない、ポストプレーができない、守備ができない......スカウトたちは「得点力が第一」と口を揃えるのに、得点力以外の能力で判定している場合がけっこう多いのだ。

 ノン・リーグからスタートしたバーディーは、その程度の評価だったわけである。ほとんどの選手はそのままキャリアを終える。だが、ストライカーは得点という結果を残せる。コンスタントに得点しつづけるうちに、「こいつは何だか凄そうだぞ」と評価が変わってくる。よくわからないまま排除した才能が、よくわからないまま再評価される。

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 バーディーにはスピードがある。これは誰が見てもわかる能力だ。ポジショニングも優れている。クロスボールが入ってくる時にはDFの背後にいる。ボールを見ているDFの背後にいるので、そこからゴール方向へ動いても、逆に遠ざかっても、DFが即座に捕まえるのは困難だ。ただ、これはFWの定石であってバーディーでなくてもやっている。

 バーディーが特殊なのは、そこから急にDFの前に割り込んでシュートを決める、あるいはさらに背後へ回ってフリーになる動きが、入ってくるボールとつながっていることだ。

 DFの背後から動いてフリーになるだけなら誰でもできるが、そこへボールが来なければシュートは打てない。ボールが来る場所で常にフリーになれるなら、それは才能だ。

 サッカー史上最高のゴールゲッターだったゲルト・ミュラー(西ドイツ/当時)は、得点嗅覚に優れたストライカーの典型だった。1974年西ドイツワールドカップのユーゴスラビア戦では、ウリ・ヘーネスのクロスボールに対して、DFの背後からスライディングしてボールをかっさらい、そのまま寝ころんでシュートを決めている。

 このゴールについて本人に聞いたら、

「ヘーネスがああいう体勢から蹴れば、ボールはあそこにしか来ない」

 当たり前だと回答されたのを覚えている。本人にすれば当然。だが、ほとんどの選手にとってはそうでないはずだ。そこで「来ると確信したとおりにボールが来る確率はどのぐらいか」と尋ねたら、

「20パーセントぐらいかな」

 2割なのだ。8割はボールが来ない。2割でも相当高い確率なのだろうが、8割は来ないよと平然と答えていたのが、ストライカーのメンタリティなのだと思った。

 バーディーが必ず「そこ」にいるのは、8割ボールが来なくても、本人は10割「そこ」へ行っているからに違いない。このメンタルには、リーグのレベルはまったく関係がない。