サッカー名将列伝第21回 ジネディーヌ・ジダン革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、…

サッカー名将列伝
第21回 ジネディーヌ・ジダン

革新的な戦術や魅力的なサッカー、無類の勝負強さで、見る者を熱くさせてきた、サッカー界の名将の仕事を紹介する。今回はレアル・マドリードの監督を務めている、ジネディーヌ・ジダン。成功が難しいと言われる大スター軍団のレアルで、数々のタイトルを獲得しつづける理由を探る。

 監督の色を強く押し出すと、選手のプレーは制限される。チームとしての戦い方が明確になる一方で、どうプレーすべきかが決まるので選手の自由は小さくなる。チームプレーなのでそれでもいいのだが、レアルは事情が違う。

 例えば、チームとしてタッチライン際からのロングクロスを蹴らないという方針があるとする。チームによってはそれがよい方針にもなるが、デイビッド・ベッカムやロベルト・カルロスにそれを適用するのは個性を削ることになる。規格外の力量を集めているのに、小さくまとめてしまうのでは意味がないのだ。

 一方で、ここという時には個性の強い選手たちをまとめる力も問われる。

 ジダン監督のチームには、クリスティアーノ・ロナウドがいた。ロナウドはすべての試合に出場したがったが、ジダンはローテーションどおりに休養させている。バルセロナの監督たちがリオネル・メッシに対してできなかったことだ。

 特定の試合では、ロナウドにも守らせていた。いつもはそうではない。しかし、限定的に特殊な戦術や役割を選手に課すことがある。普段が緩いだけに目立つのだが、その時にはちゃんと統制できている。

「人として真っすぐ」は、デル・ボスケもそうだった。スター揃いのチームだけに、公平公正でなければならないし、選手としての能力とは別に人として尊重しなければならない。

 ジダンは「好戦的でない」。争いを好まず、穏便に解決する。好戦的な選手は常にいるので、監督まで好戦的では争いの火種を撒くようなものだ。ロナウドやセルヒオ・ラモスといった勝利への情熱をたぎらせているリーダーがいれば、選手を挑発する必要もない。

 バルセロナ時代のフランク・ライカールト監督とも似ていて、ジダン監督は周囲の意見を吸い上げていく。昨季、中断明けから守備戦術が目に見えて整備されていた。おそらくスタッフのアイデアを取り入れたのだと思う。現代は何もかもひとりでやれる時代ではない。テクノロジーや最新の知見を採り入れていく度量が、現代の監督には要求されている。

 ただ、ジダンにしかできないこともある。

 レアルの監督など、誰がやっても勝てそうなものだが、現実にはそうではない。スター揃いのチームを率いるにも、向き不向きがあるのだ。ある種の「格」なのだが、ジダン監督にはそれがある。デル・ボスケは失望させてはいけない監督だった。ジダンは怒らせてはいけない監督だ。

 ジダンが本気で怒った時は崩壊の合図だ。それは神の怒りに似たカタストロフィーである。

 06年ドイツW杯の決勝で、イタリアのマルコ・マテラッティに頭突きを食らわし、ワールドカップトロフィーには目もくれずにロッカールームへ消えていった光景は、すべての選手の脳裏に刻まれている。

 いざとなったらワールドカップも捨ててしまう男なのだ。しかも、ジダンの怒りにはこれといった前兆がない。つまり、最期はいきなりやってくる。ジダンを激怒させないかぎりレアルは勝ちつづけるだろうが、突然の終わりがいつなのか誰もわからない。

 レアル・マドリードという巨大なエゴと才能の集団に、封印された祟り神のような無言の恐怖が効いている。

ジネディーヌ・ジダン
Zinedine Zidane/1972年6月23日生まれ。フランス・マルセイユ出身。選手時代はカンヌをスタートに、ボルドー(以上フランス)、ユベントス(イタリア)、レアル・マドリード(スペイン)でプレーし、数々のタイトルを獲得。フランス代表では98年W杯、ユーロ2000優勝など輝かしい成績を残した。引退後は16年よりレアル・マドリードの監督に就任。2017-18シーズンで一度退任したが、翌2018-19シーズン途中から再び指揮を執っている。