「ドーアン・リツ、デア・ベステ・シュピーラー・イン・ビーレフェルト」 ヴォルフスブルク対ビーレフェルト戦で堂安律がボール…
「ドーアン・リツ、デア・ベステ・シュピーラー・イン・ビーレフェルト」
ヴォルフスブルク対ビーレフェルト戦で堂安律がボールを持った時、アナウンサーのそんな声が聞こえてきた。「(いまドリブルしているのが)ビーレフェルトで最高の選手、堂安律です」と、紹介されたのだ。
いつから堂安がそんな紹介をされる選手になったのかははっきりしている。10月17日に行なわれたブンデスリーガ第4節のバイエルン戦だ。1?4で敗れたそのバイエルン戦で、ビーレフェルトにとって唯一の得点をあげたのが堂安だった。

開幕戦から6試合連続で先発出場している堂安律(ビーレフェルト)
ビーレフェルトは今季、12シーズンぶりに1部に上がってきたクラブ。ホームにバイエルンを迎えるなんて、本来なら1年の中でも、もっともお祭り騒ぎになってしかるべき試合だろう(コロナの影響で無観客だったが)。ブンデスリーガでプレーする日本人選手はよく、「ドイツ人は思った以上にバイエルンをリスペクトしていて、試合になるとビビってしまう」と、見えないヒエラルキーについて話すことがあるが、ビーレフェルトのような昇格組にとっては、まさに畏れ多き相手なのだ。
そんな相手から1点をもぎ取った新加入選手の評価が急上昇するのは当然だった。『キッカー』誌はバイエルンに敗れた直後の「ビーレフェルトの4つの希望」と題した記事で、希望のひとつに堂安の存在をあげた。「新兵器の登場だ。彼は『もっと見たい』と人々に思わせてくれる」と評している。
遠藤航(シュツットガルト)、鎌田大地(フランクフルト)、室屋成(ハノーファー)、遠藤渓太(ウニオン・ベルリン)といったドイツでプレーする日本人選手の中で、堂安が群を抜いているのは前所属クラブの知名度と実績だ。
オランダの名門PSVといえばドイツ人でも誰もが知っている。そればかりか、堂安と入れ替わる形になったが、この夏からドイツ人のロジャー・シュミットが指揮を執るようになり、ドイツ代表マリオ・ゲッツェもプレーしている。ドイツ人にとってはとても興味のある隣国のクラブなのである。PSVから、昇格したばかりのビーレフェルトへの堂安の移籍は、大きな注目を浴びた。
そんな中、全国紙『フランクフルター・アルゲマイネ』には10月30日、堂安の特集記事が掲載された。
「アルミニアの"違いを生み出す男"」というタイトルで始まる記事は、まず堂安が英語ペラペラであることを「通訳不要だ」と伝え、「日本人にはおとなしい選手が多いが、彼は珍しく明るくて陽気だ」と紹介している。英語でコミュニケーションが取れるということで、一気にとっつきやすい存在となり、評価も高まった。
同記事は、一時期ドルトムントが香川真司の後継者として堂安を補強リストにピックアップしていたことや、2018年にはマンチェスター・シティも冬の移籍での獲得を考えていたこと、ジョゼップ・グアルディオラが「エキサイティングなプレーヤー」と話したことなどを紹介している。
さらにビーレフェルトへの移籍については、今季からPSVを指揮するロジャー・シュミットがプレッシングを多用するサッカーを志向しており、堂安には不向きだと判断したようだとしている。
「PSVには若くて才能豊かな選手が多いため、堂安は居場所を失った。そこでエージェントから、堂安の獲得など考えもつかなかったビーレフェルトに連絡がきた。その後はあっという間にレンタル移籍が決定。しかも"一桁台半ばミリオン"(おそらくは400万~600万ユーロ/約4億8000万~7億2000万円)の移籍金での完全移籍のオプションつきだ」と、ビーレフェルトが好条件で堂安を獲得できたことに触れている。
堂安自身は今回の移籍についてこう語っている。
「試合に出られるかどうかでビーレフェルトを選んだわけでないです。リーグ的なことでいくとブンデスのほうが上ですが、クラブではPSVのほうが上です。一見、ファンから見るとPSVにいるほうが将来的なビッグクラブへの近道に見えるかもしれないけれど、最近はその考え方に、少し違和感を感じていました。少し遠回りのような道でも、そこが逆に近道だと思います。ビーレフェルトを選んだのは試合に出られるかではなく、強くなれると考えたからです」
もちろん、PSVよりも出場機会が多くなることは想定済みだろう。だがそれよりも、リーグのレベルや環境が変われば、自分自身が向上できると考えたうえでの前向きな選択だったことを強調した。
そしてクラブでの成長の先には、日本代表でのレギュラー定着を見据える。同じ攻撃的MFのポジションには多くのライバルがいることは自覚している。
「競争はウェルカム。いいことですよね。全選手がそう思っていると思います。以前から(同じポジションのライバルには)負けてないと思っているし、代表って、それくらい自信がみなぎっている選手が集まる組織なので」
ここまで"熱さ"を口にする選手はそう多くない。
『フランクフルター・アルゲマイネ』の特集記事は、堂安自身のツイートを紹介して終わっている。
「彼(堂安)はビーレフェルトでの冒険が始まる前にこうツイートしている。『This is the beginning of my new story』(僕の新しいストーリーの始まりだ)」
確かに、堂安のドイツでのチャレンジはまだ始まったばかりである。