西日本選手権フリー演技をする本郷 全日本選手権は、すべてのフィギュアスケーターにとって特別な舞台なのだろう。10月30日から11月1日まで、京都アクアアリーナで開催された西日本選手権。そこには、全日本進出をかけた白熱があった。「(フリースケ…
西日本選手権フリー演技をする本郷
全日本選手権は、すべてのフィギュアスケーターにとって特別な舞台なのだろう。10月30日から11月1日まで、京都アクアアリーナで開催された西日本選手権。そこには、全日本進出をかけた白熱があった。
「(フリースケーティングの)本番前に、よくないイメージがあって。もう無理かもって思うと、泣いてしまいそうだった」
昨シーズン、全日本でシニアデビュー5位だった横井ゆは菜(中京大学)だが、西日本選手権のフリー演技後に、その胸中を吐露していた。ショートプログラム(SP)で14位と低迷。11位までが全日本進出枠で、「(西日本で)落ちてしまうかも(全日本に出られない)」と不安になった。
結局、横井はフリーで乾坤一擲(けんこんいってき)の戦いに挑み、3回転ルッツ+2回転トーループ、ダブルアクセル+3回転トーループの連続ジャンプを決め、7位と巻き返した。総合でも7位に順位を上げ、無事に全日本へ進むことになった。リモートの記者会見に臨んだ表情からは、喜びと安堵が伝わってきた。
また、16歳の河辺愛菜(木下アカデミー)は今シーズンがシニアデビューで、西日本は3位に躍進した新田谷凜(中京大学)に続いて、4位と健闘している。初めての全日本出場を決めた。
「(西日本のフリー)公式練習でトリプルアクセルは調子が悪くて、直前にダブルに決めました。トリプルアクセルは最近、全然跳べていなくて。これから確率を上げていきたいです」
そう語る河辺は、トリプルアクセルを武器にすることができれば、全日本でも上位に食い込むだろう。
「昨シーズンの(ジュニアで参加した)全日本は、全日本ジュニア(優勝)の後で、(安心したのか)13位とボロボロだったんですが。今シーズンは自己ベストを出して、表彰台に乗りたいです! 今はジャンプのミスだけでなく、スピン、ステップも(最高)レベルを取れていないので、細かいところを改善していきたいです」
少女は野心的に語った。
一方、昨年は足のケガで全日本出場を棒に振った白岩優奈(関西大学)も、SPはその思いがスタンドにまで届く万感の演技で、3位に入っている。そしてフリーも、冒頭の3回転ルッツ+3回転トーループをどうにか降り、5位。総合5位で、今年の全日本出場を決めた。
「練習から百発百中にして、ショートでもフリーでもクリーンな演技をしたい」
全日本に照準を合わせ、白岩はその意気込みを明るく語っている。
「(ケガ後の復帰で)完成度は、まだまだ半分もいっていません。近畿から西日本と戦って、細かい、小さな技術を磨いていかないといけないと気付きました。全日本まで、もっと表現を磨いていきたいです。ケガの影響もあって、練習時間を多く確保することはできないんですが、何が一番大事か、考えながら練習していきたい」
彼女たちは、今のすべてをかけている。全日本が人生の基軸になっているのだ。
「一番の目標だった全日本に出場できることが決まって、ホッとしています」
西日本選手権SPを滑る本郷
そう語ったのは、昨シーズンは休養し、今シーズン1年半ぶりに復帰して中部選手権を戦い、西日本で2戦目となった本郷理華(中京大学)だ。休養の流れで、「引退」も考えていたが、もう一度リンクで、という衝動があったという。
「一回(競技を)休んで、試合って考えた時に、もう一度、全日本に出たいと思いました。それが(現役を)続けるきっかけの一つになっていて。今までは、全日本でいい演技をして上位に進んで、他にもいろんな試合に出られるように、と思っていました。でも、今はそういう目標よりも、ただただ全日本でいい演技をしたい。滑れるだけでもうれしくて、その感覚が今までとは違うところです」
24歳になる本郷は、過去7シーズン連続で全日本に出場している。2014年には2位で表彰台に上がった。国際大会にも数多く出場し、世界選手権は3度連続出場、四大陸選手権では2年連続で表彰台に立っている。それでも、全日本出場は格別だという。
「(西日本のフリーは)最初、思い切っていけず、ジャンプ(3回転フリップ)も失敗して。中部ブロックよりも緊張していたと思います。でも、次のルッツを飛べたので、流れに乗ることができました」
終盤に艶やかなスピンを見せた本郷は、フリー10位だった。総合9位で、全日本出場に滑り込んだ。
失敗も成功も、その一瞬に凝縮された高揚感を、彼女たちは手放せない。それは強烈な引力なのだろう。リンクの上にたった一人で立ち、すべてを背負い、限られた時間で自己表現し、それに数字で評価を下される。そこで体験する勝負の興奮は、彼女たちにしかわからない。今は無観客だが、会場に人が入った時の熱はたまらないものがある。それは、普通の人生ではなかなか味わえない瞬間だ。
そのスケーターたちの頂点にあるのが、全日本なのだろう。
「全日本に出たかった......」
無念さを噛み締めるスケーターたちの思いは、生々しくも切実だった。その影も、光を輝かせることになるのだ。