【ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」】ドイツで共有されている他のスポーツを楽しむ大切さ ドイツでは子供たちは…
【ドイツ在住日本人コーチの「サッカーと子育て論」】ドイツで共有されている他のスポーツを楽しむ大切さ
ドイツでは子供たちは一つのスポーツに絞らず、いろんなスポーツを楽しんでいるのが一般的だ。
筆者の長男は幼稚園の頃からサッカーをしているが、最近になって野球も始めた。ドイツにおいて野球はマイナースポーツの一つではあるが、フライブルクには市が管理している野球グラウンドもあり、野球クラブがある。大人のトップチームから育成チームを持つスポーツクラブだ。息子は夏の短期体験教室に参加したことで興味を持ち、日本に一時帰国した際にプロ野球の試合を観戦したことで、自分でもやってみたいと思ったようだ。
早速何度か練習にテスト参加し、チームの雰囲気も気に入ったことで入団を決断。ただ、ここで問題になったのが練習日だ。当初、サッカーの練習が月曜日と水曜日、野球が火曜日と木曜日と別れていたので、スケジュール的に大変にはなるができなくはない感じだったのだが、新シーズン前に行われたコーチ会議でサッカーの練習が火曜日と木曜日になってしまったのだ。どかぶりだ。
「曜日変更で都合が悪い子がいたら教えてほしい」と監督から連絡がきたので、「ちょっとそれだと困る」という旨を伝えたが、曜日変更に反対なのはうち一件だけ。
さてどうしようかと思って監督に相談したら、こんな返事が返ってきた。
「野球もやってみるというのは素敵なことだね。いろんなスポーツをやるのは、子供の成長に大事なことだと僕も思うんだ。実はうちの息子も最近キックボクシングを始めてね。それが火曜日に練習日で、上手く調整できないか考えているところなんだ。
例えばだけど、火曜日に野球の練習、木曜日にうちの練習、あと月曜か水曜日に一つ上か、下の学年で練習するというのはどうだろう? そうすれば週に2回はサッカーの練習には来れる。週末の試合にはもちろん、うちのチームで帯同する。どうかな?」
「なんで他のスポーツをするんだ?」というリアクションではないし、「それで練習に来れないなら、試合には連れていかないぞ」というアプローチでもない。子供にとって、子供の成長にとって、他のスポーツも楽しむことは大切ということを知ってくれていた。
子供たちの行動を制限しすぎると想像力を育む機会が失われる
冒頭で紹介したように、ドイツでは掛け持ちしている子供は少なくない。テニスやハンドボール、バスケットボール、卓球……。日程がずれていたら助かるけど、どこもそんな上手くいくわけでもない。そんな時に指導者側が理解を示してくれると、子供にとっても、親にとってもありがたい。
指導者講習会に参加した時、元SCフライブルクキャプテンのユリアン・シュスターは、「子供のころ、僕は地元クラブでずっとプレーしていたけど、友だちと他のスポーツをしたり、遊んだりする時間が十分にあった。あの時間がその後の僕の大事なベースになっているよ」というコメントを残していたことがあるが、我々大人は、そんな子供の生活圏を守りながら、自分の好きなスポーツに取り組める関係性を作り上げることが大切なのだと思うのだ。
一つのスポーツが大好きで、夢中になって、一生懸命に取り組むことは素敵だ。ただそうであることを強制してしまうのは、また違う。子供時代に育んでおくべき何よりも大事なものを置き忘れてしまったら、悲しいではないか。
子供たちは自分たちの行動を制限されすぎると、自分でその状況からどんなプレーができるかという想像力を育む機会が失われ、新しいアイデアを生み出しにくくなると、指導者ライセンス講習会で話を聞いたことがある。大人発信による“よかれと思って”の押し売りが、子供たちを縮こまらせる追加のストレスにならないように気をつけたいものだ。(中野 吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野 吉之伴
1977年生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで様々なレベルのU-12からU-19チームで監督を歴任。2009年7月にドイツ・サッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA-Aレベル)。SCフライブルクU-15チームで研修を積み、2016-17シーズンからドイツU-15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。『ドイツ流タテの突破力』(池田書店)監修、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)執筆。最近はオフシーズンを利用して、日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。