西日本選手権フリー演技の坂本花織「6分間練習の時から(ジャンプが)ハマっていなかったんですけど、前半はいつもどおりにスピードに乗れて。でも、ステップ、スピンが終わった途端に、"雑念"が湧いてきたんです」 試合後の会見、坂本花織(シスメックス…



西日本選手権フリー演技の坂本花織

「6分間練習の時から(ジャンプが)ハマっていなかったんですけど、前半はいつもどおりにスピードに乗れて。でも、ステップ、スピンが終わった途端に、"雑念"が湧いてきたんです」

 試合後の会見、坂本花織(シスメックス、20歳)はその心中を明かしている。

「いつもなら考えなくていいようなことを考えてしまった。スピードを落として確実に跳べるように、すっ飛ばさないようにって。いつもは、スピードに乗って飛んでいこう、という感じなのに、今日に限って......あかんな」

 坂本は、言葉に悔しさをにじませた。

 10月末の西日本選手権で、彼女は優勝を飾っている。しかし、フリースケーティングは後半に失速し、フリップも、ループも失敗。129.83点と振るわずに2位だった。復帰3戦目の三原舞依の猛追を受けたが、ショートプログラム(SP)の貯金がものをいって(70.40点で首位)、どうにか逃げ切った形だ。

「この演技は情けない」

 優勝が決まったキス・アンド・クライでも、坂本は暗い表情をしていた。



西日本選手権SPを滑る坂本

 雑念の正体とは、何だったのか?

「(雑念とは)なんやろ......。練習でノーミスで滑れることが多くなっていて......えー、んー、わかんない」

 坂本は、途切れ途切れに言葉を継いだ。慎重さか、弱気の虫が騒いだか。

「突然、それ(スピードを落として確実に跳ぶこと)を考えたら、止まらなくなってしまって。ほんま、よーわからん。ケガ? ケガではないし、後半の疲れ具合も練習と同じだったので、余裕でいけたはずなのに。どこかで集中が切れてしまった」

 彼女自身、要領を得ていない。

 しかし、それにつながる質疑応答があった。

「(三原)舞依ちゃんは、練習だけでなく、試合でもノーミスでそろえられる選手。(試合を)見ていて、不安にならない」

 坂本は、ノービス時代からの友人でライバルである三原について語っている。三原の復帰後も、ふたりは切磋琢磨してきた。

「ノービスから一緒に戦ってきて、こんなに身近に(同じ中野園子コーチの指導を受ける)ずっといるライバルはいなくて。舞依ちゃんのおかげで、ここまで成長することができました。舞依ちゃんの安定感は、自分に欠けているもので。もっと安定した演技をしないと、負けてしまう。舞依ちゃんが復帰したことで、負けたくない、という気持ちがまた芽生えてきました」

 坂本のフリー演技直前、三原が予想を上回るハイスコアを叩き出していた。ジャンプはまだレベルを落としているものの、全て完璧に着氷。スピンもレベル4を獲得し、暫定的に首位に立っていた。

〈負けたくない〉

 その思いが、演技にブレーキをかけたのか。少なくとも、競技者としての自負心を刺激したのだろう。

 ふたりの仲の良さは、外野から見ても際立っている。お互いが認め合い、まるで「対」のようにも映る。三原は一見か弱そうに映るが、非常に芯が強く、坂本は爛漫(らんまん)に見えるが、繊細さを潜ませている。スケーターとしても違うキャラクターのふたりが、表裏一体で共鳴し合っているのだ。

「(坂本)花織ちゃんのスピード感だったり、(スケートの)ダイナミックさはピカイチだと思っていて」

 三原自身が、坂本についてこう評している。

「花織ちゃんのようなパワーのあるジャンプは、私にはできません。復帰した直後、自分は貸切(練習)に参加せずに、しばらく一般営業で滑っていたんですが、中野先生から『貸切で滑ってみたら』と言ってもらえて。そこから花織ちゃんと一緒に滑る機会が増えてきました。それであらためて、昔からいい演技を間近で見られていたんだなって。私も頑張らないとって思いました。まだまだライバルとは言えないレベルですけど、花織ちゃんを見習って一緒にトップで滑れるように」

 最高のライバルは、その輝きを肌で感じていた。

 誰にもない個性をもつ坂本は、ひるむ必要などないのだろう。闊達(かったつ)で雄壮なスケーティングは比類がない。事実、2018年の平昌五輪では6位に入賞し、同年の全日本選手権では優勝した実力者だ。

 西日本選手権後、坂本は表彰台の一番高い所に立って、ピースサインで写真に収まっていた。生来的な明るさで、周りが華やぐ。それは彼女の真骨頂だろう。

「前の試合の自分に勝つ」

 それは今シーズンの目標だと言うが、もし彼女が自分を信じ切って変身を遂げることができたら、時代の旗手になれるだろう。そのジャンプは高く、スピンも豪快で、ステップは力強い。事実、フリーの前半に見せた演技は非凡だった。

「(次に向けては)自分らしい滑りをして、ショートもフリーも自己ベストの更新をしたいです」

 坂本は言う。次の舞台は、11月のNHK杯、12月の全日本選手権だ。