いつも冷静なクリストフ・ルメール騎手が、目を潤ませながら「喋れない......」と言葉に詰まった。 GI天皇賞・秋(1…

 いつも冷静なクリストフ・ルメール騎手が、目を潤ませながら「喋れない......」と言葉に詰まった。

 GI天皇賞・秋(11月1日/東京・芝2000m)終了後の勝利ジョッキーインタビューでのことだ。

「毎回(アーモンドアイに)乗る時は、プレッシャーがすごいです」と、思わず本音も漏れた。

 日頃から穏やかで、メディアに対応する際にも人懐っこい笑顔を絶やさずに受け答えするが、その笑顔の裏で、実は相当なプレッシャーを感じていたのだ。

 その事実を知って、GIを8つも勝つことがいかに大変か、多くの人々が改めて痛感させられたに違いない。

 シンボリルドルフが芝GI通算7勝を挙げたのは、もう35年も前のこと。以来、時代を代表する名馬たちが、GI7勝をマークしてきた。だが、あと1つが勝てなかった。テイエムオペラオー、ディープインパクト、ウオッカ、ジェンティルドンナ、キタサンブラックらが、GI8勝の壁に阻まれてきた。

 しかし今回、アーモンドアイ(牝5歳)が天皇賞・秋を勝って、ついにその壁を越えた。やはり、アーモンドアイは歴史に残る"スーパー"な馬だ。



天皇賞・秋を制して、JRA史上最多となる芝GI8勝をマークしたアーモンドアイ

 おそらく、彼女ほどのスーパーホースでなければ、その高い壁を越えることはできなかったはずだ。今回の天皇賞・秋を見て、心からそう思った。

 レース前、一番の課題とされたのは、スタートだった。前走のGI安田記念では、出遅れて位置取りが悪くなり、先にスパートした勝ち馬グランアレグリアを最後まで捉えられなかったからだ。

 それは、彼女自身の競走馬としての"衰え"ともリンクして捉えられ、天皇賞・秋でも同じようなことが起こるのではないか、と懸念されていた。

 だが、アーモンドアイはゲートが開くや、抜群の反応を見せて、前から3、4番手という絶好の位置をキープした。そのスタートと、直後の道中の位置取りを見て、早くも「(アーモンドアイの)勝利を確信した」という人も少なくなかったのではないか。

 ただ、その道中は余りにも平穏すぎた。こういう時は何かが起こる......。

 直線を向いて、他の馬の騎手たちは手綱を激しく動かしていた。にもかかわらず、ルメール騎手は手綱を持ったまま。泰然と構えて、追い出すタイミングを待っていた。

 直線の坂を越えた辺りで、逃げるダノンプレミアムをとらえにかかる。ここでも、さしたる労力を必要とせず、あっさりとかわした。もはや勝利は目前だったが、その刹那、ルメール騎手は肝を冷やすことになる。

 残り200mを切って、あっけなく前を捕まえたため、アーモンドアイの気持ちにも隙のようなものが生まれたのかもしれない。そこに、後方に待機していたフィエールマンとクロノジェネシスが猛然と襲い掛かってきたのだ。

 これには、ルメール騎手も正直に「怖かった」と話している。

 フィエールマンが使った終(しま)いの脚は、上がり32秒7。クロノジェネシスのそれは、32秒8。2頭の、アーモンドアイを追い詰めた脚は、凄まじいものだった。

 並みのGI馬であったなら、おそらくかわされていたかもしれない。だが、それを凌ぐのが、スーパーホースである。

 後方から迫りくる蹄の音を捉えると、ルメール騎手の懸命な追い出しに応えてアーモンドアイが再び末脚を伸ばす。結果、2頭の追撃を2分の1馬身凌いでゴール板を通過した。

 最後の踏ん張りには、「アーモンドアイはめちゃくちゃ強かった」とルメール騎手も感嘆した。そして、前人未踏の芝GI通算8勝を記録したのである。

 次なる目標は、GI9勝。所属するクラブの規定で、来年3月いっぱいでの引退は決まっている。出走可能なGIは、あと1つか、2つ。

 ルメール騎手は「決めるのはオーナーと調教師」と前置きしながらも、「彼女は走りたい」と証言。アーモンドアイの"本音"を、彼女に代わって公言した。

 できることなら、歴史を塗り替えたアーモンドアイと、これまた歴史に刻まれる快挙を成し遂げた3歳の無敗の三冠馬たちとの、対決が見てみたい。

 それは間違いなく、多くのファンも望んでいることだ。もちろん、そう、ライブで見られれば、なおさらいい。