国内最大の自動車レースSUPER GTで活躍する「au TOM’S RC F」のドライバー伊藤大輔選手とニック・キャシディ選手。インタビューでは生い立ちから、レーサーのトレーニング方法、そして普段の生活まで幅広く答えていただきました。 モ…

国内最大の自動車レースSUPER GTで活躍する「au TOM’S RC F」のドライバー伊藤大輔選手とニック・キャシディ選手。インタビューでは生い立ちから、レーサーのトレーニング方法、そして普段の生活まで幅広く答えていただきました。

モータースポーツをはじめたきっかけを教えてください。

(Nick選手)父親や叔父がモータースポーツ好きで、いつしか自分としてもレーサーになることが夢になり、7歳のときにゴーカートをはじめたのがきっかけです。そこからどんどん興味が深くなり、現在に至ります。ニュージーランドはクレイジーな国で、国民のモータースポーツへの関心度が世界でも最も高い国のひとつだと思います。わずか400万人の人口に対して国際レベルのレーストラックが8カ所もあり、私が育った家から1時間以内の場所にも2カ所ありました。

(伊藤選手)中学のときにクラスメートがF1好きで、その影響でF1のテレビ放送を見るようになったのが最初の出会いです。私は東京生まれですが3歳のときに三重県に移り住んでいて、親戚が遊びに来たときには鈴鹿サーキットに遊びに行っていました。当時の自分にとってはサーキットというよりはゴーカートがあって遊園地に行っているイメージでしたね。

そのときにサーキット場ものぞきに行ったところ練習走行をしているところだったのですが、グループCいう当時人気の車をみて、そのスピード、音、振動、匂いに一気に惹き込まれました。こんなにすごい迫力のものがあるのかと。自分にはこれしかないと思いましたね。とはいえ当時は中学生で周りにつながりのある人もいなかったので、ラジコンばかりやっていました。高校生になってアルバイトができるようになって、ガソリンスタンドで働きながらお金を貯めてゴーカートを買ったのが始まりです。

本当は学校の規則で長期休みしかアルバイトをしてはいけなかったのですが、こっそり毎日アルバイトにいって、高校1年生から2年生になる頃にやっとゴーカートを買うことができたんです。最近はレーサーになる場合に10歳くらいから始めるのが一般的なので、自分はかなり遅かったと思います。

お二人のエピソードはとても対照的ですね!その後どのように上達していったのでしょうか?

(Nick選手)上達していくには直感と努力が大事だと思います。私は小さい頃から始めていますが、特に他のチームの観察をしながら自分のアプローチを固めていきました。

その中でも今年は一番努力したと思っています。どこへ行っても車を観察したり、様々な人の話を聞いたり、ビデオを研究したり、データ分析をしたり、本当にいろいろなことをやりました。SUPER GTは初めてだったので、入念な準備をしないといけないと思っていたからです。過去3年分のレースをみて、コツを学びながらレーンやスタイル、他のマシンのことなどを研究して自分のものにしていこうとしました。昨年から今年にかけてSUPER GTに出場して学べたことが多いので、これからもっと成果を出せるようにしていきたいと思っています。

(伊藤選手)根拠はありませんが、ゴーカートを始める前に自分なりにこれならできるという自信がありました。当時中学生で自転車通学をしているときにも、前の車の動きを見ながら自分の自転車のライン取りを考えるということをしていました(笑)。野球やサッカーは上手な人にかなわないなという感覚があったのですが、テレビでレースをみているときはこれなら自分でもできると思っていました。ゴーカートに初めてのったときはもちろん下手でしたが、その感覚があったので上達スピードも早かったと思います。

実は上達よりもいちばんきつかったのは必要な資金集め。エンジンなどを買うときは親のサポートがなければ難しかったです。鈴鹿のレーシングスクールにはいるときも借金をし、その後フォーミュラートヨタを1年、F3を3年やっていたときも借金をしたので、20歳そこそこで数千万円の借金がありました。

ただ、ひたむきにレーサーになりたいとやっている中でサポートしてくれた人がたくさんいたのも事実です。高校を卒業して車の金型の会社に入ったのですが、その会社の社長もレースで休むことを理解して下さったし、F3で優勝したときには社長が本屋で自分の記事をみて津市の市議会や企業をまわって後援会をつくってサポートしてくれたりしました。このような感じでプロになるまでの過程はスキルの向上より資金集めの方が大変でした。

憧れのドライバーはいますか?

(Nick選手)憧れのドライバーは特定の人はいないです。レースの中で個別の技術としてそこまで到達したいと思うことはありますが、その人になりたいということは思わないですね。いろいろな人のスタイルを参考にしながら、自分のスタイルを形成したいと考えています。

(伊藤選手)好きなのはナイジェル・マンセルです。セナ選手は勝ちすぎてつまらないという感じだったので(笑)、マンセル選手のレースを暴れて盛り上げるスタイルが好きでした。自分のスタイルとは真逆なんですけれどね(笑)。

肉体トレーニングについての考え方を教えて下さい。

(Nick選手)トレーニングは熱心にやっています。特に2009年から2013年はヨーロッパにいて、F1レーサーの夢を追いながら集中的にトレーニングに励んでいました。2014年以降現在も続けていますが、徐々に理想型になりつつあると思っています。今年は遠征ばかりであまりトレーニングの時間をとれなかったので、年末にかけて力を入れていきたいです。

(伊藤選手)プロに転向してから最初はそこまで熱心にトレーニングをしておらず、マシンに乗ることがいちばんのトレーニングだと思っていました。近年だんだんマシンのスピードが速くなり身体への負担が大きくなってきたこと、また数年前まではマシンにエアコンがない場合は暑さで体力勝負だったことから、若い頃よりも最近の方が熱心にトレーニングに取り組んでいます。

マシンに乗っていないときにいかに乗っているときと近い状況でトレーニングをするかを見つけるのが重要です。次のレースに向けてどういう体力が必要かをトレーナーと相談して身体づくりをしています。

ベンチプレスの重さの最高値はいくつですか?

(伊藤選手)方針として重さのチャレンジはしません。最近のトレーニングでは25キロくらいで20秒間繰り返して休憩は10秒というのを8セットやります。筋量を増やして体重を増やすことはレーサーにとってマシンが重たくなるのであまりよくないです。それよりは筋肉を大きくせずに筋持久力をあげるトレーニングをしています。

(Nick選手)伊藤選手と同じように筋肉量を増やして体重を増やすことはレーサーにとって良いことではありません。ベンチプレスのバーに10キロを2つつけて60秒で60回というトレーニングをしています。今のところは60秒で68回が自己ベスト。ウェイトトレーニングは楽しくて好きです。やり過ぎると筋肉がついてしまいますが…。トレーニングは繰り返し行うことが重要だと思います。

(伊藤選手)レーサーは見た目としてはハンドルを操作する腕力が必要なイメージかもしれませんが、実は体幹で支える力が重要です。フィットしたシートで5〜6点固定されているので身体は動かないように見えますが、3〜4Gかかるので実際はシートとの隙間が開くぐらい身体が動きます。1000分の1秒を争うレースの中でブレーキのタイミングやアクセルの丁寧さなどの操作が少しでも狂うとタイムロスになりますので、それを支える体幹の方が大事になります。

メンタルトレーニングについてはどうお考えでしょうか?またレースにおいて恐怖を感じることはありますか?

(伊藤選手)メンタルトレーニングはしていません。レースの前はできるだけ良いイメージをもったり、ネガティブなことを考えないようにしたりはしています。車を運転するうえでの怖さは基本的にないです。まったく恐怖心がなくなると事故につながって大変なことになるので、まったく怖くないというわけではないのですが。それよりもメーカー、スポンサー、チームの大きな看板を背負ってレースをしているので、どれだけ成績を残せるか、ファンの前で良いレースができるか、成績をあげるためにチームとどう動くかを考えています。プレッシャーに負けないようにどう成果を出せるかはコントロールしていますね。

(Nick選手)ニュージーランドでレーシングのアカデミーがあり、そこでメンタルトレーニングを受けたことがあります。そのときに教えてもらったのをいまも活用していますね。レースを初めて16年ですが、詳細は覚えていないものの1度だけレース中に怖いと思ったことがあります。

現在、オフシーズンだと思いますが、どのような生活を送っていますか?また今シーズンはどうでしたか?

(Nick選手)今年は100回くらい飛行機に乗り、そのうち40回は12時間以上のフライトでした。それでなかなか今シーズンはトレーニングができていませんでした。今はオフシーズンになって1週間以上同じところにいられるのが嬉しいです(笑)。これから6〜7週間オフがあるので、集中して身体づくりに励みたいと思います。来年に備えてコンディションを整える大事な時期ですね。

(伊藤選手)オフシーズンだから休むというわけではなく、来年のための車のテストがあったり、トレーニングをしたりとやることは多いですね。シーズン中はレースで戦うために気を張っていますが、個人的には最終戦が近づくと来季の契約のことがあるので気になります(笑)。自分が楽しんでレースをしているのは開幕から夏場がピークで、それ以降は次の年のことがあるのであまり居心地がよくないですね(笑)。

今後に向けての抱負をお願いします。

(Nick選手)昨年2位でトロフィーがシルバーなので、ぜひゴールドがほしいです!チャンピオンになりたい。実現できると思うし、それをめざしたいです。

(伊藤選手)昨年は2位だった鈴鹿1000キロでもやはり優勝したいですね。レースが始まって注目されるのはドライバーだったり車だったりしますが、車をつくっているのも人間です。レースはものすごい数の人間が携わってチーム一丸、みんなの心をひとつにして戦います。今年はポイントが取れなかったり、トラブルで落としてしまったレースもあるので、それをなくせばチャンピオンがとれるはずです。今後もチーム一丸となってできるように頑張ります。

 

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