連載「Sports From USA」―今回は「米国の中学で進む『部活参加』の流れ」「THE ANSWER」がお届けする…
連載「Sports From USA」―今回は「米国の中学で進む『部活参加』の流れ」
「THE ANSWER」がお届けする、在米スポーツジャーナリスト・谷口輝世子氏の連載「Sports From USA」。米国ならではのスポーツ文化を紹介し、日本のスポーツの未来を考える上で新たな視点を探る。今回のテーマは「米国の中学で進む『部活参加』の流れ」について。
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10月中旬、米国の人文科学研究非営利団体のアスペンが子どものスポーツに関するサミットを開催した。
そこでのプログラムにこのようなものがあった。「素晴らしいスポーツプログラムを展開している米国の中学校を探索する」というテーマで、全米各地から自薦応募してきた学校の事例が紹介された。中学校で行われている課外のスポーツ活動、運動部活動のうち、誰もが参加できるように包括的に運営されているかなどを選考基準に、各賞も選んだ。
この連載でも何度か紹介してきたが、米国の学校運動部、子どものスポーツはトライアウト制。一部の種目で例外はあるが、希望者全員を受け入れるわけではなく、入部テストをして、運動能力、競技能力を評価し、試合に登録できる人数を目安に入部させる。
入部すれば、試合に出られる可能性は高い。日本のようにベンチに入ることもできず、3年間、スタンドで応援するだけで終わるということはあまりない。
しかし、中学校や高校運動部がトライアウト制であるために、それまでスポーツ経験のない子どもが入部することや、未経験種目の運動部に挑戦することは難しい。小学生時代から学校外のチームなどで、そのスポーツの経験がなければ、中学校や高校の運動部に入部することは厳しい。
日本でも同じだろうが、子どもが、学校外でスポーツ活動しようと思えば、親に負担がかかる。参加費や月謝、用具代など経済的な負担もあれば、送迎のほか、何らかの役員や当番を求められることもある。こういった家庭の事情により、学校外でスポーツをする経験のなかった子どもは、繰り返しになるが、トライアウトのある中学校や高校の運動部活動に参加することが難しい。前回の連載でレポートしたように「お金の壁」で、運動部入部にたどりつけない子どももいる。
アスペンは、「子どもを(11歳、12歳で)スポーツから引退させない」をテーマに挙げている。米国では、多くの研究から、スポーツ活動は健康的な生活を送り、学業成績の向上や、高校中退率を抑えるのに関連がある、という結果が出ている。アスペンの主張は、これらの恩恵を、できるだけ多くの子どもに与えたい、というもの。だから、包括的な運動部活動をしている中学を募ったのだ。
アスペンが選んだ中学校の運動部活動をいくつか紹介したい。(米国の中学校は2年制のところも多く、日本の中1、中2に相当する学年。また、米国では一般的に中学運動部の規模は小さく、高校運動部のほうが種目数、活動量も多く、盛んである)
シカゴのジャマーソン中学校は、69%の子どもが昼食代の減免措置を受けており、低所得者世帯の子どもが多いことを示している。この学校の運動部は、トライアウトを行わず、希望者全員を受け入れている。スペースの問題があるので、始業前に「朝練」するなど工夫。日本の朝練とは違い、この運動部は朝に活動した場合は、放課後は活動していない。また、初心者歓迎のカルチャー、雰囲気づくりをし、勝敗ではなく、スポーツ活動の楽しさを優先している。
また、筆者がワークショップで同じグループになったハワイのキング中学校でも、できる限り多くの生徒が運動部活動に参加できるようにしている。担当する教員によると。今では全生徒の6~7割が何らかの部活動に参加しているそうだ。多くの子どもを集めると、一部の生徒しか試合に出られないという問題が起きるが、同じ部内でさらにチーム分けをしている。バレーボール部は6チームあるそうだが、6チームが一度に学校で練習や試合をするのは難しいので、学校外の放課後プログラムを展開する非営利団体と提携。3チームはその非営利団体のプログラム下で活動するなどしている。
抱えている問題の根本は同じ、「お金」と「見守る大人」の不足にどう対応?
他にノミネートされた中学校では、対外試合ではなく、学校内でチームを編成して、試合形式を楽しんでいるもの。また、農村部の学校区では、農業の繁忙期を避けて運動部活動のシーズンを組み、家業の手伝いのために参加できない子どもを減らせるように対応している。
日本では、運動部活動を指導する教員や参加している生徒の負担が大きいことが問題になっている。生徒を部活動から解放しよう。教員が、何らかの部活動の指導を半ば強制的に押し付けられることをなくそうという動きが活発になっている。できるだけ多くの生徒が運動部に参加できるようにという今回のアスペンのノミネート基準は、日本とは正反対のベクトルのようにも見える。
しかし、抱えている問題の根本は同じだ。できるだけ多くの生徒に運動部での活動の機会を与えるためには「お金」と「見守る大人」が必要になる。その不足にどのように対応するか、だ。日本ではお金と見守る大人の問題に、これまでは学校の教員が仕事の一部として支えてきたが、無償での長時間労働につながっていると指摘されている。
アスペンがノミネートした学校の事例でも、財源と人をどのように確保するのかが紹介されている。
正攻法は各州政府や地方自治体から補助金や助成金を得ること。多くの研究結果で明らかになっている運動部活動の恩恵を提示し、いかに子どもの教育や成長に役立つのかを交渉と説得の材料にし、お金の支援をしてもらう。
昨年、このサミットで、学校運動部に参加した生徒のほうが、そうでない子どもよりも罪を犯す率が低いというデータを見せ、「将来的に刑務所にかかるコストを削減できる」と助成金や金銭的支援を申請することもあると聞いた。
前述したハワイのキング中学校では、より多くの生徒に運動部活動に入ってもらえるようプログラムをスタートしたが、当初、活動を見守る教員やスタッフは無償のボランティアだった。しかし、子どもたちの教育、健康、成長に必要な活動であるとして、州政府などに働きかけ、現在は見守る教員にも手当が支払われるようになったという。
日本では不可能だろうが、米国では公立学校でも寄付やスポンサーを募っているケースもある。また、地域の非営利団体の放課後活動との連携、他校の運動部と統合などで乗り切っているケースもある。関心を持っている保護者や地域の人にボランティアで活動の見守り、指導をしてもらいやすくするのには、どうしたらよいか、も工夫している。
今回のサミットでもいろいろな策が共有されたが、「お金」と「信頼できる大人」を手配することは、米国でも簡単にはいかない。
米国では、一部ではあるが、トライアウトを廃止するなどで、できるだけ多くの生徒が運動部活動に参加してほしいという動きがある。ただし、日本の一部の学校のように正規の授業終了後、全生徒に何らかの部活動に参加することを義務づける、というのは「禁じ手」だ。今回、紹介された学校では、子どもたちが自然と足を向けたくなるような雰囲気づくりに努め、活動内容についても新しい試みをしている。(谷口 輝世子 / Kiyoko Taniguchi)
谷口 輝世子
デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情を深く取材。著書『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)。分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店)。