女子バレー稀代のオールラウンダー新鍋理沙が歩んだ道(3) 元女子バレー日本代表・新鍋理沙のバレー人生を、本人の言葉と共に辿る短期連載。第3回は、初招集された日本代表での「3大大会デビュー」と、ロンドン五輪への出場権をかけた最終予選を振り返る…

女子バレー稀代のオールラウンダー
新鍋理沙が歩んだ道(3)

 元女子バレー日本代表・新鍋理沙のバレー人生を、本人の言葉と共に辿る短期連載。第3回は、初招集された日本代表での「3大大会デビュー」と、ロンドン五輪への出場権をかけた最終予選を振り返る。

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2011年から長く日本代表で活躍した新鍋理沙

 photo by Kimura Masashi

 久光スプリングス(久光製薬スプリングス)入団2年目、2010-2011シーズンのVリーグで最優秀新人賞を獲得した新鍋理沙は、リーグ終了後に初めて日本代表に選出された。アンダーカテゴリーの代表に選ばれたことがなかった彼女が国際試合デビューを飾ったのは、同年の6月に開催されたモントルーバレーマスターズ(スイス)初戦。イタリア戦でいきなりスタメンを飾った。

「その試合はすごく緊張してミスも多かったんですけど、試合が進むにつれて楽しくなっていきました。変なプレッシャーはなかったです。メンバーには同期の(岩坂)名奈や、狩野(舞子)さんなど同世代の選手が多く、Vリーグの他チームの選手と一緒に戦うのも新鮮だったので。キャプテンの荒木(絵里香)さんも頼もしく、のびのびやることができましたね」

 この大会で活躍した新鍋は代表に定着し、同年11月に日本で行なわれたワールドカップバレーで3大大会(オリンピック、世界選手権、ワールドカップ)デビューを果たす。参加した12カ国中、上位3カ国に入れば翌2012年のロンドン五輪に出場できる大事な大会。新鍋は岩坂と共にチーム最年少(21歳)の「リサ・ナナ」コンビとして、その力を存分に発揮した。

 多くの試合にスタメンで出場し、岩坂は187cmの長身を生かしたブロック、サーブでも健闘。新鍋は攻守でスキルの高さを見せ、当時の絶対エース・木村沙織のサーブレシーブの負担を軽減させる役割も担った。


初めてのワールドカップでも活躍

 photo by Sakamoto Kiyoshi

 1勝1敗で迎えたアジア女王・中国戦では、新鍋の"負けず嫌い"を象徴する場面もあった。セットカウント2-2で迎えた第5セット、一時は8-4とリードするも、中国の強力なブロックなどで徐々に追いつめられて逆転負け。試合後、新鍋は悔しさを抑えきれずに大粒の涙を流した。

「中国戦で泣いてしまったのは......『私のせいで負けたのかも』と思ったからです。日本は前年の世界選手権で銅メダルを取っていますし、私が足を引っ張ってはいけないと思っていました。でも、この試合では周りに助けてもらってばかりで、自分は何ができたのか思い出せないくらい。勝ちきれなくて、『悔しい、不甲斐ない』という気持ちしかありませんでした」

 それでも気持ちを切り替えて出場を続け、迎えた10戦目のドイツ戦。新鍋は途中出場ながらチーム3位の16得点を挙げるなど、フルセットでの勝利に大きく貢献した。負ければこの大会での五輪出場権獲得がなくなる一戦だったが、「その時は『今さら緊張してもダメだ』と、何も考えずに試合に入りました」と振り返るように、無心で崖っぷちのチームを救った。

 日本は続く最終戦でアメリカにも勝利して3位中国と8勝で並んだが、1試合ごとに獲得したセット数によって変動する「勝ち点」の差で4位となり、あと一歩で五輪への出場権を逃した。3大大会デビューでいきなり激戦続きだったワールドカップは、新鍋にとってどんな大会だったのか。

「緊張と、『大丈夫かな』という不安が入り混じった大会でした。でも、終わってもホッとはしませんでしたね。Vリーグの開幕が迫っていましたし、何よりオリンピックの出場権が取れなかったので、すごく悔しさが残りました」

 熱戦の様子がテレビで放映されたことで、ファンの盛り上がりはすさまじく、最年少で活躍した「リサ・ナナ」の人気も急上昇した。しかし新鍋は、「当時はそれを気にする余裕がありませんでした。とにかく必死だったので、会場で応援してくれたファンの多さや、自分の人気ということまでは考えられなかったです」と振り返る。

 ワールドカップ後のリーグでは、「レシーブ賞」を受賞するなど、準優勝した久光スプリングスの主力として活躍。2012年5月に行なわれたオリンピック最終予選のメンバーにも選ばれた。

 8チームでの最後の出場権争いも熾烈を極め、日本の運命は最終戦のセルビア戦に委ねられた。勝敗に関わらず、2セットを取った時点で五輪出場が決定。試合はセットカウント1-1となり、日本が第3セットのセットポイントを握ると、最後は新鍋がスパイクを打ち抜いた。

 大きなプレッシャーがかかる一打だったろうと思いきや、「決めたあとは、『え、今ので(出場権が)取れたの?』と思いました」と照れ臭そうに笑った。

「記憶があいまいなんですが、2セットを取ったらオリンピックへの出場が決まるのを知らなかったのか、忘れていたのか......。でも、第3セットを取った時の会場の盛り上がりがいつもよりすごくて。旗のようなものを振っている方も多かったですし、それで『出場が決まったんだ』と気づいた感じです(笑)」

 普段はほんわかとした性格で"天然"な一面もある新鍋らしいエピソードとも言えるが、目の前の勝負に対するこだわりの強さの表れでもあった。

「それまでもセルビア戦は苦しい展開になることが多く、私にも苦手意識があったので、試合前は『どうやったらうまくいくのかな』ということで頭の中はいっぱいでした。出場権が取れたことは安心しましたけど、結局はその日の試合も負けてしまいましたし。それに、最終予選のメンバーがそのままオリンピックに出場できるわけではないので、試合後も『まだ気が抜けないな』と思っていましたね」

 実際に、新鍋はロンドン五輪メンバーの12人に残ったが、親友でもある岩坂は無念の落選となった。さまざまな思いを背負って海を渡った代表選手たちは、大きな歓喜を日本に届けることになる。

(第4回につづく)