F1第12戦ポルトガルGPの舞台、アルガルベ・インターナショナル・サーキットは起伏に富んだ斬新なコースレイアウトだが、その本来の魅力が最大限に引き出せたとは言えなかった。 9月に再舗装が完了したばかりの路面は、まだアスファルトからオイルや…

 F1第12戦ポルトガルGPの舞台、アルガルベ・インターナショナル・サーキットは起伏に富んだ斬新なコースレイアウトだが、その本来の魅力が最大限に引き出せたとは言えなかった。

 9月に再舗装が完了したばかりの路面は、まだアスファルトからオイルや化学薬品がにじみ、それによってグリップレベルは低かった。過去の再舗装直後に行なわれたソチ・アウトドロームやサーキット・オブ・ジ・アメリカズ、シルバーストンの時と同じように、レース週末を通してそれが改善されることはなかった。



アルガルベのコースに苦しんだレッドブル・ホンダ

「このグリップレベルだと、ドライビングを楽しめるような状態ではなかった。1月にGTマシンでここを走った時は『F1マシンで走ったらすばらしいだろうな』と思っていたけど、このグリップレベルではプッシュできない。氷の上を走っているような感じなんだ。ちょっと残念だよ」

 マックス・フェルスタッペンは予選で3位に入り、メルセデスAMGに0.252秒差と今季最少のギャップまで迫ったものの、メルセデスAMG勢はフィーリング優先でミディアムタイヤを履いてタイムアタックを行なったほどだった。

 路面コンディションが悪いのに加え、安全を期したピレリが最も硬いアロケーションのタイヤを持ち込んだため、熱が入らずグリップが引き出せない。さらには風が強く、マシン挙動を不安定にさせた。

 初開催のアルガルベだけに、金曜フリー走行でしっかりと走り込んでデータを収集し、タイヤの扱い方とセットアップを煮詰めておきたいところだった。だが、30分間に及ぶピレリのタイヤテストに加え、ピエール・ガスリーの配線不良による出火とフェルスタッペンのランス・ストロールとの接触による2度の赤旗で走行時間は失われ、どのチームも十分なデータがないなかで予選・決勝を迎えた。

 メルセデスAMGはミディアムでレースをスタートし、レッドブルはソフト。Q2敗退のリスクを冒したくなかったのと、ソフトがそこまで機能しないとは思っていなかった。

 しかし、土曜午前のフリー走行3回目で多くのチームが予選アタックの練習をするなか、メルセデスAMGは燃料をフルタンクにしてソフトタイヤの傾向をチェックし、決勝を戦うにはあまりに耐久性がなさ過ぎることを把握していた。だから彼らは、予選Q2をミディアムで通過し、さらにはそのフィーリングを信じてQ3でもソフトよりミディアムのほうが速く走れることを見抜いていた。

 決勝は雲が多くて路面温度が上がらず、小雨さえパラつくなかでのスタート直後は苦戦することも、メルセデスAMGは想定の範囲内だった。

 一時はソフトタイヤのマクラーレンにトップを奪われたが、タイヤに熱が入り安定すれば本来の速さで瞬く間に逆転。フェルスタッペンのソフトタイヤはメルセデスAMGの予想どおりグレイニング(表面がささくれ立つ状態)が悪化し、23周目にピットインするまでに15秒の差をつけられてしまった。

「僕の左フロントタイヤはあっという間に終わってしまった。グレイニングがひどくて、ピットインを余儀なくされたんだ。ミディアムに換えてからはペースも悪くなく問題なかったけど、その時にはすでにメルセデスAMGとのギャップは大きくなってしまっていて、どうすることもできなかったね」

 メルセデスAMG勢は40周目まで引っ張って余裕のピットイン。首位ルイス・ハミルトンとフェルスタッペンの差は20秒に広がってしまっていた。

「今日はタイヤがちょっとした魔法のような状態だった。ソフトタイヤはうまく機能させるのが難しく、今日の最良のタイヤはミディアムだった。もう一度予選からやり直せるなら、我々も決勝をミディアムでスタートする戦略を選んでいただろう」

 ミディアムタイヤが正解だったと、レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表はそう振り返った。終わってからでなら、何とでも言える。

 しかし、メルセデスAMGは限られた走行時間のなかでしっかりとデータを収集し、タイヤ選択と予選・レース戦略、マシンセットアップを仕上げていた。マシンパッケージの性能以前に、レース週末全体の運営面でレッドブルは負けてしまっていたのだ。

 また、予選で0.252秒差に迫ったとはいえ、マシンパッケージとしての速さも十分ではなかったと、フェルスタッペンは言う。

「今日は間違いなく、ミディアムがベストタイヤだったと思う。メルセデスAMG勢はハードタイヤに履き替えたけど、それもいいタイヤではなかったと思う。つまり、僕がミディアムでスタートしていたとしても、ハードタイヤに換えてから大きくペースを落としていただろう。いずれにしても、僕らのポジションはここ(3位)だったと思うよ」

 メルセデスAMGがダウンフォースを削って最高速重視のセットアップで挑んだのに対して、レッドブルは金曜から一貫してハンガリーGPと同じマキシマムダウンフォースで走り続けた。



F1史上最多の92勝目をマークしたルイス・ハミルトン

 コーナーの途中で突然スピンするマシンが多々見られたように、極端に路面がスリッパリーでリアのグリップが抜けやすいサーキットでは、リアの不安定なRB16の悪グセが出やすく、速く走るにはダウンフォースをつけるしかなかった。

「リアのグリップが必要とされるサーキットでは、僕らはマシン挙動がブレイクしやすい。一方、そういうところでは彼ら(メルセデスAMG)がとても強いんだ」

 コース特性と路面コンディションによるものもあったが、不確定要素が多い状況下でメルセデスAMGとルイス・ハミルトンは完璧な仕事をやってのけた。だからこそポールポジションを奪い、勝利を収めた。そのハミルトンの安定感が、92勝という史上最多勝記録につながっている。

「彼がものすごく速いドライバーだということは誰もが知っているけど、ものすごくコンシステント(一貫性のある状態)で、本当に滅多にミスを犯さないのも強さの要因だ。だからこそ、これだけの期間でこの結果を残すことができたんだと思う。本当にすごい」(フェルスタッペン)

 レッドブル・ホンダはアルガルベで、見た目以上に大きなメルセデスAMGとの差に打ちのめされた。

「今週は走り始めからタイヤのグリップがなく、とくに温度管理を含めてタイヤマネジメントが難しい週末でした。それをうまくセットアップやドライビングで詰め切れたチームとドライバーが強かったのかなと思います」(ホンダ・田辺豊治テクニカルディレクター)

 リアが不安定なマシン特性は改善されてきているものの、いまだにアレクサンダー・アルボンは大きく苦戦を強いられている。フェルスタッペンに比べてペースが遅いうえ、異常なタイヤ摩耗に苦しんだことを見ても、まだまだ改善が必要だといえる。ホーナー代表は言う。

「アルファタウリに比べて、我々のマシンが難しいクルマだというのもある。我々のクルマのリアはセンシティブで、ドライバーを怯えさせるようなマシンなんだ。マックスは信じられないくらいそれをうまく乗りこなしているが、ほかのドライバーは苦しむ。それは事実だ」

 ポルトガルGPでメルセデスAMGがレッドブルより40点多く獲得すれば2020年のコンストラクターズタイトルが決定するという状況下で、なんとか惨敗は阻止した。しかし、1週間後のイモラ(第13戦エミリア・ロマーニャGP)でメルセデスAMGよりも33点多く獲得できなければ、彼らの8年連続タイトル獲得が決まる。

 それが今、レッドブル・ホンダが直面している現実だ。