「たった1試合でここまで雰囲気が変わるとはね」そんな風に私が戸惑っていたのはクラシコ(伝統の一戦、バルサvsマドリー戦のこと)を翌日に控えた金曜日、とても楽観的にはなれない自分に気がついた時のことでした。いやあ、本来であれば、毎シーズン、リ…

「たった1試合でここまで雰囲気が変わるとはね」そんな風に私が戸惑っていたのはクラシコ(伝統の一戦、バルサvsマドリー戦のこと)を翌日に控えた金曜日、とても楽観的にはなれない自分に気がついた時のことでした。いやあ、本来であれば、毎シーズン、リーガの目玉である2強の対戦前となれば、もっとファンの間にワクワク感があるのが普通なんですけどね。

先週末のリーガではレアル・マドリー、バルサが揃って敗れていたものの、後者は代表戦によるparon(パロン/リーガの中断期間)直前にもセビージャと引分け。それが土曜にはマドリッド勢弟分のヘタフェに1-0で屈して、2試合連続で白星がなかったため、昇格組と侮ったか、油断したカディス戦で負け、首位の座を失ったとはいえ、世間にはまだ、マドリー優位という意見もあったんですが…いよいよ開幕したCLグループリーグの初戦で全てがひっくり返ってしまうとは、これ如何に。

そう、一足先の火曜、カンプ・ノウにフェレンツバーロシュ(ハンガリー)を迎えたバルサはグループ最弱の相手を前に容赦なし。メッシのPKに始まり、アンス・ファティ、コウチーニョ、ペドリ、デンベレが次々ゴールを挙げ、途中、ピケをレッドカードで失い、10人になりながら、敵をPKによる1点に抑えて、5-1の完勝をしているんですが、それとまったくの正反対だったのがマドリーなんですよ。こちらも水曜にシャフタール(ウクライナ)とエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)で対戦したんですが、悪夢のような前半に我が目を疑ってしまったのはきっと、私だけではなかったかと。

だってえ、13分には早くもマルロスと1対1のシュートを弾かないといけなかったGKクルトワも28分、コルニエンコからのパスから、テテが撃ったシュートには成す術がなし。ほんのその4分後にも、今度はテテの一撃を阻止しながら、落ちたボールをデンチーニョが蹴る前にクリアしようとしたバランがオウンゴールにしてしまうのですから、これではクルトワも泣くに泣けない?更には、もう少しでハーフタイムという42分にもコルニレンコがtaconazo(タコナソ/ヒールキック)で送ったボールをソロモンに決められ、3失点って、これって、何かの冗談ですかあ?

うーん、カディス戦の時も前半、何度もチャンスを作られていたのは同じなんですが、何せ、この日のシャフタールはコロナ陽性者が大量8人も発生し、控え選手中心のスタメンだったんですけどねえ。同チームが長らく、リクルートを続けているブラジル人選手たちのパワーが炸裂したのに加え、とりわけ、キャプテンのセルヒオ・ラモスがヒザの打撲により、スタンド観戦だったのが大きかったかと。さすがにこれにはクラシコに向けての温存策を取っていたジダン監督もたまらず、ハーフタイムにはまず、ロドリゴに代えてベンゼマを投入。後半8分、モドリッチのミドルシュートが決まった後には、この日ももらったチャンスを生かせなかったヨビッチをベンゼマに代え、逆転を狙っていったところ…。

はい、やる気というのはこういうところに表れるんですね。14分、ピッチに入ったばかりのビニシウスがDFの出したパスを自陣エリア近くで受け取ったマルロスを急襲。鬼のようにボールを奪うと、そのままドリブル突進して、2点目のゴールを挙げてくれたから、驚いたの何のって。その瞬間、シャフタールのルイス・カストロ監督も「一刻も早く、試合が終わってくれと願った」そうですが、いやいや。カウンターから決まったマルロスのゴールがオフサイドでなければ、彼らは再び点差を広げられていましたしね。運も味方したか、ロスタイム、CKからのボールをバルベルデがエリア外からシュート、マドリーの伝統、土壇場のremontada(レモンターダ/同点劇)発現かと思われたものの、ビニシウスがGKトルビンの前に立っていたため、オフサイドで同点にはなりませんでしたっけ。

結局、2-3で試合は終わり、奇しくもホームで2連敗となってしまったマドリーなんですが、いえ、CLグループリーグについては、昨季もラモスが出場停止だったPSG戦で3-0と黒星スタートし、続くクラブ・ブルージュ戦もホームで2-2の引き分けとしながら、3節目から巻き返して、最後は2位で決勝トーナメント進出を果たしていますから、まだ、来週のボルシア・メンヘングラッドバッハ戦、3節のインテル戦ぐらいまで、そんなに心配することはないんですけどね。やはり気になるのは、これまではクルトワが必死に失点を喰い止めてはいたものの、簡単に敵にシュートを撃たれてしまう守備の脆弱さ。

まあ、カルハバルとオドリオソラの両右SBが負傷中の現在、ナチョやメンディで代用しないといけないせいもありますが、昨季のCL16強マンチェスター・シティ戦2ndレグのように、ラモスがいないと、途端にバランが頼りなくなるのも困りものかと。いえ、ジダン監督は「Hay que pensar que hoy es gris y que mañana va a salir el sol/アイ・ケ・ペンサール・ケ・オイ・エス・グリス・イ・ケ・マニャーナ・バ・ア・サリール・エル・ソル(今日はグレーの日だったが、明日はお日様が出ると考えないといけない)。自分は選手たちを信頼している」と言っていましたけどね。

少なくともラモスが金曜には回復し、バルセロナ遠征のメンバーに入ったのは良かったんですが、いざ、撃ち合いとなってもこちら、アザールの太もものケガが思ったより長引いているのもあって、ベンゼマに頼りきりの前線では心もとないことしきり。それこそ、この夏は経営陣とイロイロあって、機嫌は悪いながらもゴールは入れているメッシ、そしてアンス・ファティとペドリのティーンエイジャーFWの活躍やコウチーニョの好調もあって、グリーズマンを控えにしてもまったく、影響しないバルサの前線にはとにかく羨ましさしか感じませんが、ま、それでもクラシコはクラシコ。マドリーの選手たちもこのカードだけはモチベーションに欠けることはないため、土曜午後4時(日本時間午後11時)からの一戦では、昨季序盤、マジョルカに負けた後も同様に沸いて出てきた、監督交代論を払拭するような、いいプレーを期待しています。

え、実のところ、悪夢の水曜はそれだけで終わりではなかったんだろうって?その通りで最近、お馴染みになったバル(スペインの喫茶店兼バー)で続けて、お隣さんが昨季の何でも王者、バイエルンにアリアンツ・アレナで挑むのを見ていた私なんですが、こちらはモロに実力差が出てしまったというしかないんですよ。というのも開始直後、ロディのラストパスをゴール前、あと一歩のところでルイス・スアレスが届かずという惜しいチャンスがあった時にはそんな実感はなかったんですが、前半14分、ズーレのシュートはゴールポストが守ってくれたものの、28分にはキミッヒのクロスでトリピアーがコマンに裏を取られ、先制ゴールを許してしまってはねえ。

更に41分にもコマンにエリア内侵入され、そこからゴレツカのシュートが決まって、早くも2点差にされてしまったアトレティコだったんですが、後半開始直後にはキミッヒにボールを奪われ、先制点のキッカケを作ったジョアン・フェリックスが発奮。敵DFのクリアを拾って、撃ったシュートがGKノイアーを破ったんですが、マドリー同様、間の悪いところに立っていたルイス・スアレスとコケのオフサイドでスコアボードには上がりません。それでも気落ちせず、果敢に攻めていった彼らだったものの、21分にはFKからトリソに弾丸シュートを決められ、27分にはカウンターから、コマンの独走を招いて、あの奇跡の守護神、オブラクが4失点って、あまりに気の毒すぎでは?

いえ、実はCLで4-0のgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らうのは彼も初めてではなく、2018年グループリーグのアウェイ戦でもドルトムントに同じスコアでやられているんですけどね。その時も他の試合で挽回し、2位突破を果たしているため、その後はすぐ、シメオネ監督も土曜午後9時(日本時間翌午前4時)からのベティス戦を見据え、ルイス・スアレス、カラスコ、コケ、マルコス・ジョレンテらをビトロ、コレア、トレイラ、レマルへと入れ替えて温存を図ることに。とはいえ、ジエゴ・コスタが負傷中の今、CFがここ5年間、CLアウェイ戦22試合で無得点記録更新中のスアレスしかいないというのは、来週火曜のワンダ・メトロポリターノでのザルツブルク戦はともかく、無観客ではなさそうなロシアでの3節、ロコモティブ・モスクワ戦など、とても苦労しそうな予感が。

ちなみに試合後のシメオネ監督は、「最後までゴールを求めたチームの態度は良かった。Pudo aparecer si hubiéramos estado más lúcido/プド・アパレセル・シー・ウビエラモス・エスタードー・マス・ルシドー(もっとウチが冴えていたら、入っていたかもしれない)」と選手たちの頑張りを褒めていましたが、まあ、今回はヒメネスやサウールが負傷でいなかったのもありますし、代わりに抜擢された4人のカンテラーノ(アトレティコBの選手)たちが遠征前のPCR検査ではっきり陰性を出せず、お留守番になってしまったという逆境もありましたからね。バイエルンの方もナブリがコロナ陽性で出られず、試合当日まで開催が危ぶまれたなんて経緯もあったんですが、ここは素直に完敗を認めて、11月のホームゲームでは見返してやるぐらいの覇気を持ってくれればいい?そうそう、ベティス戦ではヒメネスが戻って来られるという朗報もありますよ。

そして木曜にはEL組のグループリーグ初戦を迎えたんですが、リエカ(クロアチア)に0-1で勝利したレアル・ソシエダ、PSV(オランダ)にホルヘ・モリーナとマチスのゴールで1-2と逆転勝ちしたグラナダ、初先発となった久保建英選手が先制点、更に2アシストと活躍し、5-3の撃ち合いでシバススポル(トルコ)に勝利したビジャレルと皆、白星発進。中でも恐るべしは、予選3試合を突破してのEL初出場ながら、リーガでも勝ち点10で2番手グループにいるグラナダなんですが、実はこの週末、彼らと日曜に対戦するのが前節はバルサを破り、波に乗っているヘタフェなんですよ。

ええ、彼ら自身も同勝ち点で並んでいるんですが、何せ、昨季は一時、兄貴分のアトレティコをも差し置いて、CL出場圏にいたこともありながら、コロナ禍によるリーガ中断後はさっぱり。最終節ではとうとう、2年連続となるはずだったEL出場権まで、グラナダに奪われてしまったという因縁がありますからね。丁度、エースのソルダードが感染による自宅隔離中なのを利用して、古巣訪問となるモリーナには悪いものの、ここはミッドウィークフリーのあり余る体力を見せつけて欲しいかと。

ちなみに先週末のマドリッドでは2部の弟分、アルコルコンで陽性者が複数発生し、ミッドウィーク節も含め、2試合連続でリーガ戦を延期させられたものの、2度目の検査結果が実は間違い。全員、陰性だったなんていう事件もあり、コロナ関連では全然、予断を許さない今日この頃なんですけどね。土曜からは再び、全土がEstado de Alarma(エスタードー・デ・アラルマ/警戒事態)に入るという報もあり、私も憂鬱極まりないんですが、せめてどこのチームもいいサッカーを披露して、TVを通してしか、応援できないファンを楽しませてくれるとありがたいです。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。