日本時間の10月25日、『UFC254』がアラブ首長国連邦・アブダビの「ファイトアイランド」で開催される。(写真左より)ハビブ・ヌルマゴメドフ、ジャスティン・ゲイジー/Getty Images メインイベントは、MMA(総合格闘技)28戦…

 日本時間の10月25日、『UFC254』がアラブ首長国連邦・アブダビの「ファイトアイランド」で開催される。


(写真左より)ハビブ・ヌルマゴメドフ、ジャスティン・ゲイジー/Getty Images

 メインイベントは、MMA(総合格闘技)28戦無敗の正規王者ハビブ・ヌルマゴメドフと暫定王者ジャスティン・ゲイジーによるライト級王座統一戦。

 この大一番の見どころを「世界のTK」髙阪剛に語ってもらった。

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ハビブ・ヌルマゴメドフ 写真:Getty Images


――無敗の王者ヌルマゴメドフと、今最も勢いのある暫定王者ゲイジーによるライト級王座統一戦がついに実現します。この試合は、今年最大の大一番と言っていいんじゃないですか?
「確かにそうですね。しかもライト級という階級は、スピードも技もフィジカルもすべてを兼ね揃えた階級ですから。この試合の結果や内容というのは、他のUFCファイターや、今後UFCを目指す選手に影響を与えるんじゃないかと思いますね。」

――最もMMAの要素が詰まった階級の頂上対決だからこそ、多くの人に影響を与えるんじゃないか、と。
「はい。二人のこれまでの試合映像をあらためて見返してみて、より一層、その思いを強くしました。」

――では、この試合のポイントはどの辺になりますか?
「第一のポイントは、すごくわかりやすいと思うんですよ。ヌルマゴメドフがタックルからのテイクダウン、ゲイジーは打撃と、やりたいことがハッキリしていますから。まず、ヌルマゴメドフのタックルをゲイジーが切れるかどうかが、大きなポイントになります。」

――たしかに、これまでヌルマゴメドフと対戦した選手はみんな、テイクダウンされてパウンドで削られて敗れています。
「ただ、ひとつ重要な点は、ヌルマゴメドフはたしかにテイクダウン能力が高いんですが、ほとんどが最終的にケージレスリングでテイクダウンしているんですよ。」

——オクタゴンの中央で綺麗にタックルを決めるというより、組みついてケージに押し付けて、そこから倒していく、と。
「そうですね。もしくは、中央でタックルに入ってケージまで押し込んでいって、テイクダウンをとることがすごく多い。ということは、ヌルマゴメドフのプレッシャーを受けてしまう=テイクダウンを取られてしまっているということなんです。だから今度の王座統一戦では、ゲイジーがヌルマゴメドフのプレッシャーを受けるかどうか。プレッシャーを感じてしまうかどうか、そこが根本的な部分で大きなポイントになるんじゃないかな。」

――髙阪さんは、ゲイジーはヌルマゴメドフのプレッシャーを受けてしまうと思いますか?
「それを考える上で重要になるのが、立ち技の技術の部分なんですよ。じつはヌルマゴメドフのパンチの技術は、正直そこまで高くないと思うんです。当然、UFCトップレベルの選手なんで、一定の基準は遥かにクリアしているんですけど、ちゃんと狙い澄まして当てるとか。相手の攻撃をかわしてカウンターを入れるとか、そこまで細かい技術ができるタイプじゃない。」

――ことストライキングの技術のみに限った話であればそうだと。
「あの(コナー・)マクレガーから右フックでダウンを奪った実績もありますけど、あれはタックルのフェイントが効いているから当たるんですよね。ヌルマゴメドフは、テイクダウンでグラウンドで漬ける能力がものすごく高いから、対戦相手は組まれることを嫌がるので、だからタックルの動きに反応してしまうんです。」

――相手が極度にタックルを警戒しているからこそ、フェイントがものすごく効果を発揮するわけですね。
「ここがすごく大事なところ。打撃がそれほどうまくないヌルマゴメドフがプレッシャーをかけるためには、相手がものすごくタックルを警戒してくれなければいけないのですが、自分は『はたして、ゲイジーがそこまで警戒するかな?』というところが疑問です。」

——ゲイジーはストライカーのイメージが強いですが、もともとはNCAAディヴィジョン1のオールアメリカンレスラーです。
「そこがベースにあるので、そこまでヌルマゴメドフのタックルを恐れないんじゃないか。実際にゲイジーはUFCの試合でもほとんどテイクダウンを取られていない。みんな切っているんですよ。また、スクランブルにも強く、相手の動きたい方向を潰してスタンドに戻すことができる。そうなると……ということですね。」

――ヌルマゴメドフにとっては、これまでのようにタックルの『脅し』が効かない相手なんじゃないか、と。
「だからヌルマゴメドフ目線でいえば、ゲイジー相手にどうやってプレッシャーをかけていくのか、ということが問われる。そしてゲイジーの強みといえば、やはり打撃のスキルがものすごく高いこと。だからこそ、あれだけのレスリング能力を持ちながら、わざわざタックルやる必要がないともいえるんです。」

――たしかに、あのトニー・ファーガソンに打ち勝つストライキングがあります。
「ゲイジーvsファーガソンの映像も今回あらためて見てみたんですけど、細かい部分でいうと、ゲイジーは打撃をもらったように見えても、微妙にヒットポイントをずらして、パンチの威力を逃しているんですよね。」


ジャスティン・ゲイジー 写真:Getty Images

——壮絶に殴り合っているように見えて、自分は相手のパンチの威力を逃している、と。
「そうなんです。殴り合いを展開して、ファーガソンは顔面が血だらけになりましけど、ゲイジーはほとんど傷ついてないんです。だから今度の試合も、最初の打撃のやり合いでゲイジーが主導権をにぎり、前進していくかたちが取れれば、ゲイジーの試合になると思うんですよ。逆にテイクダウンを奪われてしまうようなら、さすがのゲイジーといえども、ヌルマゴメドフの泥地獄にハマってしまう。それぐらいヌルマゴメドフの相手を立たせない技術は非常に高いものがあるので。」

――では、この試合はテイクダウンの成否が一番のキーになると思いますけど、その前段階のスタンドで、ヌルマゴメドフがプレッシャーをかけられるかどうかが、大きなポイントになりそうですね。
「だから始まりの部分が重要なんです。また、もうひとつのポイントとして、両者のメンタル面が挙げられると思うんです。ヌルマゴメドフって、じつは『競技』には強いけど『ケンカ』はあまり強いタイプじゃないんじゃないか、と思うんです。要は攻撃をしっかり仕掛けたりとか、それに対応してくる相手に対して、さらに攻撃を仕掛けたりとか、ヌルマゴメドフは『やりとりの試合』にすごく強いんです。それに対してゲイジーは、『やりとり』じゃなくて『やり合い』に強いんじゃないかと。」

――修羅場に強いのがゲイジーだ、と。
「普通、相手の攻撃をもらうと『まずいな』と思ってしまうものなんですけど、ゲイジーにはそこがないんですよね。フラッシュダウンとか食らっても、すぐに持ち直すんですよ。その辺はメンタルがすごく左右して、ケンカが強いタイプは、ああいうところ強いんですよ。」

――不利な状況になっても、弱気にならないわけですね。
「ヌルマゴメドフにはその部分がないので、ちょっと『まずいな』と思った場合、崩れる可能性がある。逆に言えば、そういう不利な体勢になりたくないから、必死に自分の庭であるグラウンドに持ち込もうとするんだと思うんです。実際、それで負けていないので、ヌルマゴメドフの戦い方は成功している。ただ、窮地に陥ったことがないので、もしそうなったら、モロい部分があるんじゃなかな、と思うんです。」

――じつはまだ、ヌルマゴメドフは修羅場を経験してないわけですね。
「だからポイントはヌルマゴメドフをその状況に追い込むことができるかどうか。もしUFCでそれができる選手がいるとしたら、自分はゲイジーなんじゃないかと思います。そして、もしそういうことが起こせたら、最初に言ったように、この試合はUFCの他の選手たちにも大きな影響を与えるんじゃないかなと思いますね。そういう意味でも楽しみな一戦です。」

[取材/文・堀江ガンツ、写真・Getty Images]


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