チーム事情から見るドラフト戦略2020〜中日編 10月6日、中京大中京(愛知)のエース・高橋宏斗(右投右打)が大学進学か…
チーム事情から見るドラフト戦略2020〜中日編
10月6日、中京大中京(愛知)のエース・高橋宏斗(右投右打)が大学進学から一転、プロ志望届を提出して、中日はドラフト戦略の変更を余儀なくされたに違いない。
過去2年、根尾昂(大阪桐蔭/岐阜出身)、石川昂弥(東邦)という地元・東海地区出身の選手を競合の末に獲得した。今年も根尾、石川に引けをとらない逸材で、しかも今のチームに手薄な先発タイプ。競合覚悟で挑むしかない。
2年続けて重複選手を引き当てたのだから、確率的にも「今年はどうかな......」と思わざるを得ないが、それでも果敢に指名したくなるのは、高橋という投手に魅力が詰まっているからだ。
150キロのボールを続けて狙ったポイントに投げられて、140キロ近いカットボール、スプリット、ツーシームの精度も高い。さらに、スローカーブもある。
技術も一級品だが、僅差の試合終盤にその日の"最速"をマークできる心身の強靭さもある。ルーキーイヤーはプロで1年間投げ続けられる体力を養うとして、2年目からはローテーションの一角を担う投手になると見ている。
チームは首位の巨人に11ゲーム差をつけられているものの、ここまで(10月18日現在/以下同)リーグ2位と健闘している。大野雄大という絶対エースの存在が大きいのは明白だ。
その一方で、攻撃陣は目を覆いたくなるような数字がならぶ。得点374(リーグ6位)、チーム打率.250(リーグ4位タイ)、チーム本塁打59本(リーグ6位)、盗塁数26(リーグ5位)。乱暴な言い方をすれば、これだけ打てない、走れないで、よく2位にいるものだ。
来季は石川の台頭が期待できる。ファームの4番に固定されるなど英才教育を受け、ウエスタンリーグで3割近い打率を挙げるなど、着実に成長を遂げている。そこにもうひとり、打てて走れる野手を獲りたい。

大学1年からレギュラーとして活躍する五十幡亮汰
毎年コンスタントに3割を打ち続ける偉大なリードオフマン・大島洋平のあとを打ち、送りバントを使わずにチャンスを広げられる"2番打者"がほしい。そのポジションにピタリとはまりそうな選手がいる。
中央大・五十幡亮汰(右投左打/外野手)は、今や「サニブラウンに勝った男」の肩書きが不要なほど、野球人として高い評価を得ており、大阪ガス時代の近本光司(現・阪神)に匹敵するレベルまで達している。
五十幡の場合、仮に送りバントをしたとしてもただの犠打ではない。その足の速さゆえ守る側からすれば、ファンブル、握り損ないなど、ひとつのミスも許されない。こういう存在がひとり加わるだけで、急に打線が活発になるなど、劇的に変わるものだ。
現在、ファームで根尾が「2番打者」として徐々に頭角を現し始めているが、根尾の2番はただの通過点であって、本来ならクリーンアップを打てるだけの素養があると見ている。ここは中・長期的に2番打者の育成に取り組んでみてもいいのではないか。
五十幡のように「チャンスを広げられる2番」もいいが、「得点を奪える2番」も面白いのではないか。1番打者とふたりで得点すれば、相手チームのショックは大きいだろうし、ファンだって楽しいに違いない。
社会人ですでにそうした"攻撃的2番"を体現している選手がいる。JFE東日本の今川優馬(右投右打/外野手)だ。昨年夏、社会人1年目の都市対抗で"2番打者"として長打、強打を連発。優勝の立役者のひとりとして新人王にあたる「若獅子賞」を獲得した。
今川のバッティングは、2ストライクまでは思う存分のフルスイングをするのだが、ただ思い切り振っているわけではないため、ヘッドアップはなく、タイミングの取り方も秀逸である。
レフト方向への豪快なアーチも魅力だが、逆方向にも長打が打てるのもたくましい。追い込まれればそれまでのフルスイングから一転、ミート中心で一、二塁間へ強烈な打球を放つ。しっかり状況に応じたバッティングができる頭脳と技術を兼ね備えた選手である。
そして地元・愛知にもうひとり、とんでもない逸材を見つけた。名古屋学院大の外野手・宮本ジョセフ拳(右投右打)だ。こんな選手が隠れていたなんて、あらためて勉強不足を思い知らされた。
少々タイミングがずれた打球でも、あっという間にフェンスに到達。しかもセンター方向にも大きい打球が打てるのがいい。練習でも試合でもいつも笑顔で、心から野球を楽しんでいる姿がなにより好感を持てる。
一昨年亡くなったコンゴ人のお父さんの血を受け継いでいるのだろう。走攻守においてのプレーのスピード感がすばらしい。相手が放ったライト前ヒットを猛チャージして捕球し、一塁へ投げるまでのスピードと球の速さ。ベースランニングの際の躍動感......どれをとっても一級品だ。
今秋のリーグ戦では2試合連続先頭打者ホームラン。これだけの素材でありながら、調査書はわずか2球団だけだという。こういう選手こそ、じっくりプロの世界で育ててもらいたいものだ。