相手が激しく来ても、冷静でスマートなプレーを貫くブレックスアリーナはB1の中でも1、2を争う『熱い』会場だ。ブーイングと地団駄は強烈で、アウェー側のフリースロー成功率は総じて低くなる。しかし3日のリンク栃木ブレックス戦で、3591名の観客が…

相手が激しく来ても、冷静でスマートなプレーを貫く

ブレックスアリーナはB1の中でも1、2を争う『熱い』会場だ。ブーイングと地団駄は強烈で、アウェー側のフリースロー成功率は総じて低くなる。しかし3日のリンク栃木ブレックス戦で、3591名の観客が『邪魔』をする中、金丸晃輔は10本のフリースローをすべて成功させた。

金丸はほとんど表情を変えずにこう言う。「栃木さんは(応援の圧力が)ずば抜けていると思うんですけれど、特には気にならないです」

そして彼はこんなことを言い出した。「熱くなったら負けだと思うんですよ。一人熱くなると歯車が狂ってしまう。冷静にやることがチームとしても大事なことだと思います」

金丸が冷静だったことは、スタッツが証明している。3日の栃木戦では24点を決めて、74-71という接戦をシーホース三河が制する立役者になった。

特に三河が25-14と上回り試合をひっくり返した第3クォーターで、彼は12点を記録。3ポイントシュートも2本決めている。「時間帯によって誰が良いとか、あるじゃないですか。僕だったら第3クォーターの出だしだとか、第4クォーターだったら比江島とか。ポイントガードの橋本選手がそういうのを見極めて、それぞれの時間帯でしっかり仕事ができた」と彼は振り返る。

金丸に24点は取られすぎでは? 10本のフリースローは与え過ぎでは? そう尋ねた記者に対して、栃木のヘッドコーチ、トーマス・ウィスマンはこう答えた。

「彼に対してのディフェンスは悪くなかった。第3クォーターは彼に持たせないことをやるべきだったのだけど、三河の方が上手で、彼に持たせてしまった。しかし2ポイントのフィールドゴールでは(確率を)13分の4に落とした。その点でDFのやるべきことはしっかりできたと思う」

敵将が言及するように、特別に金丸が「当たっていた」という試合ではない。彼は1試合平均18.3得点を記録している。これはB1全体の7位で日本人最多だ。そんなキーマンに対して、栃木の守備は当然ながら厳しく来る。では、金丸はどう考えてプレーしていたのか?

「シュートを打てばいつか入るだろうなというのが、僕自身の感覚ではあります。僕の役割はそれなので。リバウンドの強いギャビン(エドワーズ)やバッツがいるので、安心して打てていますね。入らなくても打ち続けるのがチームのスタイルですし、僕のスタイルでもあります。拾ってくれると信じているので、落としても全然気にしていなかった」

仮にシュートがリングやボードを叩いても、味方がリバウンドを確保してもう一度攻められる。そんな支えを感じながら彼はプレーしている。そして金丸は何を狙ってプレーしていたのか?

「相手が激しくやってくる分、それに乗ってタフショットを打つのではなくて、まずはそれを生かしてどうやってファウルをもらおうかなということを考えていました。相手が激しくやってきた時、それに乗ってタフショットを、いつものリズムじゃないようなシュートを打つことが一番ダメ。激しくやってきているからこそ、シュートをスマートに決めることが大切だと思いますね。チームのリズムも良くなると思うので、僕はそれを選択します」

相手が熱くても激しくても、金丸は冷静でスマートなプレーを貫く。無茶なプレーやシュートでの打開を試みず、チームのためにも実利を取る。そんな金丸と三河の流儀が奏功した一戦だった。

バスケはお互いが得失を計算した上で、戦略的にファウルを使う競技。ファウルを取りに行くことは断じて『卑怯な』プレーでない。ウィスマンヘッドコーチも「彼はファウルをもらう部分に関しても技術の高い選手」と説明するように、金丸のスキルがあるから、栃木もファウルをせざるを得なかった。

金丸と比江島はチームの屋台骨を背負う存在

27歳の金丸と、26歳の比江島慎は三河だけでなく日本バスケの未来を担う人材だ。2020年の東京五輪に向けて、もう一伸び二伸びが必要になる。

キャプテンの橋本は彼らについてこう口にする。「能力は素晴らしいモノを持ってるけれど、それを毎回出せるようにならないと、飛び抜けた選手にはならないと思う。そういうことを言っていかないといけないなと思います。ただそれを素直に聞いてくれる2人なので、そういう意味ではやりやすい」

金丸についても橋本はこう言う。「攻め気じゃない時の彼は好きじゃないので、ボールを持ったらゴール、シュートを狙ってくれというのを常々言っている。でも最近はそういう時間帯が全くないので、注文はしていません」

三河は40歳の帰化選手である桜木ジェイアール、34歳の柏木真介と、キャリア豊富なベテランを擁するチームだ。ただそんな中でも金丸と比江島が屋台骨を背負う存在になっているし、もっとそうなる必要がある。鈴木貴美一ヘッドコーチは外国籍選手のオン・ザ・コート数に絡めてこんなことを言う。

「今のルールだと、帰化選手のいるチームはマイナス面もある。今日は「1-2-1-2」で、第1クォーターと第3クォーターの(帰化選手が)いる時は有利だけど、帰化選手がいないチームは3種類の外国籍選手を獲れるので、そこが少しマイナスになってしまう。ジェイアールは長年うちにいて、彼を頼りにした試合も過去にはあった。それでは相手が分かってしまうし、守るのも簡単になる。ジェイアール対策はどのチームもしてくる」

「だから他の選手たちが活躍できるようにチーム作りをしていかないと、勝ち続けていけない。比江島選手や金丸選手や(橋本)竜馬くんに、勝負どころでシュートを決めてほしい。ブレックスさんも遠藤選手が頑張って、勝負どころで決めていた。そういう若い選手がチームを担う状況は、お互いのチームにとって非常に良いことだと思っています」

あの熱狂の中で冷静さ、スマートさを保てた彼の真価は、舞台が大きくなればなるほど生きるだろう。192cmのオールラウンダー金丸からそんな内面的な頼もしさも感じた、ブレックスアリーナでの活躍だった。