チーム合流からわずか5日目。J1ガンバ大阪からJ2ジュビロ磐田へ期限付き移籍で加入した元日本代表MF遠藤保仁が、10月…
チーム合流からわずか5日目。J1ガンバ大阪からJ2ジュビロ磐田へ期限付き移籍で加入した元日本代表MF遠藤保仁が、10月10日アウェー長野・松本の地で早速ボランチとして先発フル出場した。2006年ドイツを皮切りに、2010年南アフリカ、2014年ブラジルとW杯に3大会連続出場し、日本代表史上最多の152キャップを誇るレジェンドは、2013年11月10日以来、2526日ぶりとなるJ2の舞台で異彩を放った。

ジュビロ磐田で存在感あるプレーを見せた遠藤保仁
キックオフ直後から、多くのボールが遠藤を経由した。預けたボールに信頼して前線へと走る磐田イレブンを、ピッチ中央から自在にコントロールしてビッグチャンスを演出した。前半15分にはフリーキック(FK)からMF山田大記が、後半19分にはコーナーキックからFWルキアンが放ったシュートはゴールポストとクロスバーに弾かれたが、ともにキッカー遠藤から生まれた。1年でのJ1復帰を目指しながらも、ここまで7戦連続勝ちなしで苦しむ名門のモヤモヤを払拭するかのような魔法の右足に、地元松本のファン、サポーターも酔いしれた。
そして極めつけは後半25分だった。ペナルティエリア左手前で倒され、自ら獲得したFKのチャンス。キッカー遠藤が右足を振り抜いたボールは低い弾道で相手選手のカベを超えたが、落ち切れず無情にもクロスバーを直撃した。結局ゴールはならなかったが90分間フル稼働し、新天地でのデビュー戦に手ごたえを掴んだ。
「(FKの位置が)左だし、角度もよかったので決めたかった。カベが近かったので、もう少し後ろなら決めることができたと思う。(G大阪でプレーした)DF今野(泰幸)とMF大森(晃太郎)以外は初めてだったけど、問題なくできたと思う」
巧みなゲームコントロールに加え、得意の直接FKからの一撃。主役を演じたベテランのプレーにもっとも驚いたのは、ピッチで戦うチームメイトだった。2014年から3シーズンを当時ドイツ・ブンデスリーガ2部だったカールスルーエSCでプレーし、この日トップ下に入った日本代表経験もある山田は、今後への大きな可能性も感じ始めている。
「(遠藤が入って)チームに落ち着きが出た。攻撃でタメができるし、前がいい動きをすればボールが出てくる。(試合後に)みんなで話したのは、自分たち前の選手がもっといい動きをすれば、もっとボールが引き出せるのではないかということ」
ベテランに期待を寄せているのはチームメイトだけではない。松本戦の1節前から指揮を執る鈴木政一新監督は、試合前日にその期待の大きさをこう口にしていた。
「高い経験値があるから、ゲームを読む力、落ち着かせる力、相手を見て攻撃する判断力やパスの精度がすごい。だから早く(周囲と)マッチしてくれればうれしい。とにかくいいパスが出てくるから、あとはそれを受けた前線がどうしっかりとコンビネーションでつないで(ゴールまで)持っていくかだと思う」
その期待に見事応えた遠藤に「初めての試合だったけど、ボールを失わないでゲームをコントロール、ラストパスの精度、すばらしいプレーが多かったと思っている」と、指揮官は期待通りのプレーぶりを絶賛した。
絶妙なプレーを連発する遠藤が、なぜカテゴリーを下げてまで移籍に至ったのか。それは、レジェンド遠藤の新しい挑戦だった。というのもG大阪では今季3度しか先発出場しておらず、さらなる出場機会を求めたところに、磐田からのオファーが届き、そのタイミングを逃したくないという強い思いから実現に至ったのだ。
「まだまだプレーで違いを生み出せるという自信もあるので、今回のチャンスを逃したくないと思った。いいモチベーションといいコンディションが維持できれば、まだまだできると思うので、期待に応えられるように頑張りたい」
加入会見で語ったその強い思いを見事に体現したデビュー戦をドローで終え、連敗を3で止め4戦ぶりに勝点を積み上げた。だが、ここ8戦連続勝ち無しで7勝10分8敗と14位に後退。この時点で17戦を残し、J1昇格条件となる2位との勝点差は18まで広がり、目標達成にはさらに厳しさを増した。
「勝点3が欲しい試合だった。チームが自信を持つためにも、次節長崎戦の勝点3は不可欠になる。勝っていい雰囲気で盛り返していきたい」
そんなレジェンドの必勝宣言に、結果で応えてくれそうなのが、J1屈指とも言われてきた強力FW陣だ。中でも五輪代表エース候補のFW小川航基は、25節終了時の8得点でランキング7位。遠藤が加入する前の24節京都戦では、フベロ監督の下ではあまり見られなかった中盤からの縦パスを受けてゴールを決めている。
「縦パスは攻撃を活性化するし、攻撃のスイッチも入る。新監督になって、自分たちが自由に考えてボールを動かせるので、個人的には楽しいし、やりやすい」
その縦パスこそが、遠藤の真骨頂の一つでもある。レジェンドが小川航のプレーの特徴をしっかりと把握し、さらに連係が深まることでゴール量産も可能になれば、結果的に勝利へと導くことになるはずだ。そんなチームのかじ取り役を任された遠藤が、新しい挑戦の第一歩となった松本戦後の取材をこんな言葉で締めた。
「初めてプレーした(磐田の)選手の特徴はだいたいわかった。試合も練習もいい雰囲気の中でできているし、ここから自分の役割や、やらなければいけないことが見えてくると思う。それを整理しながら、若い選手たちとともに自分の新たな1ページに加えていきたい」
加入直後の敵地での初戦に輝きを見せた40歳が、その経験と力で名門をどこまで復活、けん引できるのか。終盤に向かうJリーグに、大きな楽しみがひとつ加わったことは間違いない。