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 10月9日、フィギュアスケート東京選手権。ショート・プログラム(SP)が終わった後、リモート会見に出た本田望結(16歳、プリンスホテル)は、取材者一人一人と対話するかのようだった。柔らかな表情で気さくに応対し、聞こえているかどうかを気遣い、聞こえていなかったら言い直し、質問者の名前を確認し、質問ありますか、と自らが手を挙げた。その手厚さは、演じているわけではないだろう。 



東京選手権SPの演技をする本田望結

 人との関わり方において、明朗で誠実なのだ。

 それはスケートとの向き合い方にもつながる。

 昨年11月の西日本ジュニア選手権で、本田は全日本に進むことができなかった。憔悴(しょうすい)し、悔しさをにじませていた。しかし、取材エリアでは毅然と自らのスケーティングを分析、説明。その態度は真摯で、何よりプロフェッショナルだった。その後、彼女は隅にある長椅子に座り、スケート道具を丁寧に拭いて磨き、大事にしまっていた。それは次の戦いへ向けた準備だった。

 東京選手権、そのシニアデビューを振り返るーー。

 SPの6分間練習、本田の動きは悪くなかった。ダブルアクセルが決まって、やや硬かった表情も和らぐ。手をぶらぶらとさせ、緊張を解いた。リンクを去るときは、振り返って軽く一礼。その実直さが、本田らしい。

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 再びリンクに入った時、その顔は明るく輝いていた。「独自の世界がある」とは本田武史コーチの言葉だが、それは表現者としての女優の要素も多分に含んでいるだろう。一瞬で引き込まれるような華やかさを放つのだ。

 会場に「My dilemma(マイ・ジレンマ)」が鳴る。好きになった人を忘れたいが、忘れられない、そのジレンマを歌った曲だが、にぎやかなアップテンポで、本田はその音に上半身を揺らした。世界観に入って、冒頭の3回転サルコウ+2回転トーループを成功している。

「(試合では)悲しい曲、静かな曲を(多く)やってきたんですが、お客さんと一緒に楽しめる曲の方が、私には合っているのかな、と思うようになりました。アイスショーのような感じというか。まだ、ジャンプ、ステップに集中して滑っている(段階な)ので、(音に)自然に体がついてくるようなるまで、練習で仕上げていきたいです」

 本田は明るい声を出した。

 その後、ループは2回転になって得点にならず、ダブルアクセルも着氷が乱れた。しかしスピンはレベル4を取って、最後まで滑り切った。43.91点で12位。技術要素点は苦しんだが、演技構成点は7番目に高い得点だった。

「2本目のジャンプのミスを引きずらず、最後まで諦めずに滑れたのはよかったです。公式の6分間練習ではノーミスだったので、悔しいですけど。まずは東京選手権を通過し、東日本選手権に進めるように。通過します、とは言えないですけど、その意気込みで。明日も落ち着いて楽しみながら」

 18位までが東日本選手権に進めるだけに、悪くないスタートを切っていた。

 そしてフリープログラム、本田は姉の真凛と同じグループで滑っている。 



フリー演技をする本田

「私にとって、(リンクでは)お姉ちゃんというより『本田真凛』という憧れの選手というのがあって。単純に、トップスケーターと同じ舞台で滑っているのが嬉しいです。その背中を見て、できるだけ近づいて、お姉ちゃんを越えると言えるような選手になりたい」

 本田はその心境を語っていた。

 ドレスは、青を基調に白いラインが入った、浮世絵の白波のようなデザインだった。長く束ねた黒髪を留めていたリボンを外し、再び結びなおし、演技に向かう。プログラム曲は「鼓動・道・華」と、3曲を合わせたものだ。

 冒頭、3回転サルコウ+2回転トーループの連続ジャンプ、3回転ループを成功。両手を大きく広げながら、三味線のリズムに乗って、スピードを上げる。ダブルアクセルは回転不足になるも、2回転ループ+オイラー+2回転サルコウの連続ジャンプを決めた。足換えコンビネーションスピン、レイバックスピンはレベル4を取った。

 結果は79.40点で、ショートと同じ12位。総合でも12位で、7位に入った姉と一緒に、東日本選手権進出が決まった。ジャンプのグレードを下げても、確実に目標を達成した。

「いつもはしないのですが。今回は、東日本に通過することが目的だったので、何点出せばいいのか、何位ならいいのかを確認しながら滑りました」

 本田は言う。

「小さなときから、点数よりも試合に出て滑るのが楽しくて。でも、大きくなるにつれ、ジュニア、シニアでは構成を落としても、まずは通過しないと次の大会を戦えないので。東日本では、全日本出場が頭をよぎると思いますが、まずは落としている構成を元に戻し、これだけ練習をしたから失敗してもいい、と吹っ切れるまで練習したいです」

 本田は意気込んだ。

 女優とスケートの両立。

 それによって、彼女は否応なしに世間の注目を浴びる。当然、そこには嫉妬ややっかみも含まれる。しかし、二刀流で戦うことは簡単ではなく、自らを鍛錬しているのかもしれない。その姿が、16歳には見えない大人びた肖像に映る。

「望結は頑張り屋さん。忙しいはずですが、スケートをしたいという気持ちが強い。練習には、たとえ30分でも時間が空けばやって来て、黙々とやっている」

 本田コーチの言葉である。

「まずはもう一回、お姉ちゃんと一緒の舞台で戦えるのが嬉しいです!」

 会見の最後、本田は少女の快活さで言った。

 11月5日、山梨県の小瀬スポーツ公園アイスアリーナ。全日本出場をかけ、東日本選手権が火ぶたを切る。