サッカースターの技術・戦術解剖第29回 カイ・ハフェルツ<エジル+バラックの評価> カイ・ハフェルツ(ドイツ)は今季、レ…

サッカースターの技術・戦術解剖
第29回 カイ・ハフェルツ

<エジル+バラックの評価>

 カイ・ハフェルツ(ドイツ)は今季、レバークーゼンからチェルシーに移籍。移籍金は約100億円、5年契約。移籍金額で言えば、ティモ・ヴェルナー(ドイツ)、ハキム・ジエク(モロッコ)より高かった。プレミアリーグ開幕から先発で起用されている。



巨額な移籍金でチェルシー入りした、カイ・ハフェルツ

 サッカーを始めたのは4歳、祖父が会長のアレマニア・マリアドルフというクラブだった。10歳の時にアレマニア・アーヘンの下部組織で1シーズンだけプレーして、すぐにレバークーゼンのユースチームに移っている。

 トップチームデビューは17歳、レバークーゼンの最年少記録だった。18歳で50試合出場を果たし、19歳で年間MVPの投票でマルコ・ロイスに次ぐ2位に選出されるまでになった。20歳でブンデスリーガ100試合出場を達成。トップリーグ100試合というと、中堅の経験値だが、20歳でもうそこに到達していたわけだ。

 ドイツのメディアは「メスト・エジル+ミヒャエル・バラック」と評した。左利きで飄々としたゲームメークはエジルを思わせるものがあり、189㎝の長身とオールマイティな資質はバラック風でもある。

 ポジションはトップ下か右サイドが多いが、攻撃的なポジションならどこでもこなせる。ただ、適性はサイドよりも中央だろう。ゲーム展開が読めて、どこへパスするか、どこへ動けばいいかがわかっている。攻撃をオーガナイズできる能力がある。

 そうかと思えば、するするとゴール前へ出て行って、長身を利したヘディングシュートを狙う。得点力もハフェルツの魅力だ。リーチがあるので、こぼれ球もけっこう決めている。柔らかいスルーパスにも定評がある。

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 チェルシーは今季、かなり積極的な補強をした。昨季、補強禁止措置をとられていた反動というわけではないだろうが、ハフェルツ、ヴェルナー、ジエクのほかにもベン・チルウェル(イングランド)、チアゴ・シウバ(ブラジル)、エドゥアルド・メンディ(セネガル)を獲った。昨季ブレイクさせた若手もいる。プレミアリーグは補強が成績に直結する傾向のあるリーグだけに、チェルシーへの期待は大きい。

 フランク・ランパード監督は21歳のハフェルツを信用しているようで、先発で使いつづけている。開幕戦こそ存在感が薄かったが、第4節のクリスタル・パレス戦では早くも中心選手になっていた。

 ハフェルツのプレースタイルにはアグレッシブさがない。ハードワークしている印象がないので、この点は英国のファンからのウケはよくないかもしれない。比較されているエジルもアーセナルで大活躍していた時でさえ、「怠惰」という批判はつきまとっていた。また、これは長身の技巧派につきものの批判とも言える。

<長身の技巧派はじっくり理解される>

 ハフェルツはあまりスプリントしないし、鋭いプレーがない。けっこう動いているのだが、一生懸命やっているように見えない。同じトップ下でも、マンチェスター・ユナイテッドのブルーノ・フェルナンデス(ポルトガル)とは対照的だ。

 ブルーノ・フェルナンデスは「やってる感」が凄い。実際、運動量も多く、攻守のあらゆる場面に顔を出して解決していくし、タックルもバンバンやる。うまいだけでなく、闘うプレーヤーであり、英国人はこういう選手が大好きだ。

 それに比べると、ハフェルツはあまりにも淡々としている。怠けているわけではないのだが、プレースタイル的に「やってる感」を出しにくいタイプと言える。190㎝近い長身なので、クイックな動作が少ないのも淡泊な印象を与える。足は速いほうだと思うし、リーチがあるので球際もけっこう強いのだが、いかんせん力闘型ではない。

 ジネディーヌ・ジダンがユベントスに移籍した時、最初は同時期にインテルに移籍したユーリ・ジョルカエフのほうが現地での評価が高かった。どちらもフランスを代表するアタッカーだったが、ジョルカエフのほうが俊敏でアグレッシブなので、たぶんジダンよりわかりやすかったのだ。

 少しすると、ジダンへの評価が変わってきている。「これはどうもモノが違うぞ」という理解がだんだん定着してきた。ジダンは大柄で、ボールがない時の動きはもっさりしている。「やってる感」は出にくいタイプだった。

 パリ・サンジェルマンで長年プレーしたライー(ブラジル)も、最初のシーズンは酷評されていた。こちらも理解されるまで時間がかかっていた。

 ハフェルツの場合も真価を発揮するまで、というか真価を理解されるまで、多少時間がかかると思う。ランパード監督が辛抱強く使いつづけるかどうかではないか。まだ体ができあがっている感じもないので、あと2シーズンぐらいで大きく変わる可能性は高い。

 今のところ「大きなエジル」だが、やがてバラック的な要素も増えていくのだろう。