川口能活インタビュー@後編 日本代表として4度のW杯メンバー入りを果たし、2大会でゴールマウスを守った。世界の強豪と戦っ…
川口能活インタビュー@後編
日本代表として4度のW杯メンバー入りを果たし、2大会でゴールマウスを守った。世界の強豪と戦ってきた実績もあれば、欧州でプレーしたこともある。43歳まで現役を続け、J1優勝はもちろんのこと、J2、J3でもプレーした経験がある。
日本人GKのパイオニアとして牽引してきた川口能活が現役を引退して、まもなく2年が経とうとしている。引退後は指導者に転身すると、今年7月には東京五輪に臨む日本代表のGKコーチ就任が発表された。
リモート取材なため画面越しではあるが、現役時代に発していたギラギラ感が少しだけ和らぎ、その分、指導者としての包容力がにじみ出ている感じがした。
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指導者として川口能活はどんなGKを育てるのか
「まだまだ指導者として勉強しなければならないことは多いですけど、慣れてはきましたね。GKのところだけではなく、全体を見られるように、練習メニューもそうですけど、コーチング、試合に向けた選手のコンディション作りも含め、毎日試行錯誤しながらやっています」
東京五輪に臨む代表チームの活動は頻繁にあるわけではない。そのため、普段はJFAアカデミーのユースチームを指導しているという。
「週末には試合が行なわれるので、その試合に向けて選手のコンディションをどう持っていくか。練習の組み立てを含めてやっているのですが、選手時代とはまた違った充実感があります」
東京五輪代表のGKコーチとして、時間が許すかぎり、Jリーグの視察にも赴いている。指導者として多忙な日々を過ごしている川口の目に、今シーズンのJリーグは、今の日本サッカーは、さらにはGKの育成はどう映っているのだろうか。
「今シーズンは新型コロナウイルス感染症による影響もあって、Jリーグはどのカテゴリーも降格がないことから、GKのポジションにも変化が起こっていますよね。これまでは、1シーズンにGKは2人起用されればいいほうだったのが、今シーズンは3人ないしは4人が出場機会を得ているチームもある。
10代、20代前半の選手たちには期待していますし、若い選手たちが出てくることでリーグも活性化します。GKというポジションにとって、競争が活発になるのはいいことだと思います」
J1チームでは、鹿島アントラーズの沖悠哉(21歳)、湘南ベルマーレの谷晃生(19歳)、ベガルタ仙台の小畑裕馬(18歳)、清水エスパルスの梅田透吾(20歳)といった若い世代が出場機会を掴んだ。
J2まで視野を広げれば、アルビレックス新潟の小島亨介(23歳)もそのひとりだ。昨シーズン頭角を現し、すでにA代表も経験しているサンフレッチェ広島の大迫敬介(21歳)も含め、いわゆる東京五輪世代のGKの台頭は、コロナ禍におけるトピックのひとつだろう。
一方で、川口は厳しい目も持っている。
「年齢の若いGKも試合に出ているように、どのGKにもチャンスがあるということではありますけど、最終的には実力のある選手がゴールを守る、ということに変わりはないと思います。リーグ戦も折り返しを迎えましたけど、全体を見渡せば現実的にはそうなっていますから」
事実、仙台の小畑にしても、清水の梅田にしても、正GKの座を掴んだとは言えない。仙台はヤクブ・スウォビィクが、清水も大久保択生がスタメンに返り咲いている。広島にしても、38歳のベテラン林卓人が経験と存在感を武器にポジションを奪い返している。
一方で、川崎フロンターレのチョン・ソンリョンやセレッソ大阪のキム・ジンヒョンを筆頭に、韓国人GKがゴールマウスを守っているチームも多い。Jリーグの複数クラブが彼らに頼っている傾向を、川口はどのように見ているのか。
「韓国籍のGKは、もちろん技術的なものやフィジカル的なものも高いと思うんですけど、一番は絶対にゴールを割らせないという気迫がありますよね。Jリーグで韓国籍のGKが活躍するようになってきた背景には、サイズが理由のひとつにあると思いますけど、僕はそれ以上に、彼らがゴールを守っていることで得られる安心感や信頼感が大きいように思います。
GKはサイズだけでは完結できない、技術・戦術・フィジカルというのがある。そして、何より信頼感が大切。プレーはもちろんのこと、プラスアルファであるチームを勝たせられる力。結局のところ、そこが大きいと思うんです。だから、若いGKが少しずつ試合に出てきていますけど、そこも競争ですよね」
では、チャンスを積みつつある若手GKたちが次のステージに行くためには、何が必要なのか。聞けば、川口はきっぱりと「勝ち続けるしかない」と語った。
「誰しもターニングポイントになる試合があると思うんです。そこで勝つことによって、『この選手に任せれば大丈夫』という信頼を勝ち取れる。アスリートでありながら、勝負師でもなければならない。だから、そのポイントを逃さないということもすごく大切だと思うんです。
結局のところ、ポジションはひとつしかない。やっぱり戦いなんです。これはGKを選んだ選手の宿命。だから、若い選手たちにしてみれば、出場機会を掴んだ毎試合がターニングポイントだと思いますし、それを1年、2年、そして3年と続けて、ようやく正GKと呼ばれる立場になっていくんじゃないかと思います」
思い起こせば、川口自身もそうだった。横浜F・マリノスでプロになった1年目は、出場機会を得ることすらできなかった。プロ2年目で掴んだチャンスを活かしたこと、その1995年にJ1優勝という結果に貢献したことで、一歩ずつ地位を築いていった。
ただし、GKの先達として、指導者のひとりとして、こうもメッセージを送る。
「それでも、ミスを恐れずにプレーしてほしいですよね。自分の可能性を広げるためには、チャレンジするしかない。だから、現時点でできる自分のプレーに収まるのではなく、さらに自分の可能性を広げるプレーをしてほしいなと。
さらに言えば、ミスをしたとしても、そのあとが大事になる。変わらず続けることで、失敗を成功へと結びつける。その成功体験を掴むことを、僕は指導者としても望んでいますし、期待してもいます。
だからといって、ミスをしていいって言っているわけではないですけどね(笑)。成功するにはチャレンジし続けるしかない、ということを伝えたいんです」
それは、43歳まで現役を続けてきた川口が最後まで見せていた姿でもあったように記憶している。彼がプロになった時から25年が過ぎ、今ではGKに求められる役割も大きく変わった。それは現代サッカーにおいて、最も変化したところと言えるかもしれない。
「僕が若かった時は、まったく足もとの技術は求められていなかったですし、ただゴールを守っていればよかった。でも、今のGKは足もとの技術も含め、本当にやることが増えているので大変だとは思います。GKがCBのような動きを求められていますし、CBはボランチのような役割を求められていますからね。
だからこそ、積極的にプレーに関わっていくようなGKが、これからは求められていく。ゴールを守ることは大前提。とくに1対1のシュートストップは、より求められるようになっていると思います。そのうえで、戦術理解度に加え、フィールドプレーヤーと関わっていけるGKが重用されていくと思いますし、そういうGKを育てていかなければいけないとも思っています」
再び川口の現役時代を思い起こせば、当時は積極的に前に出て守ることから、「前に出すぎだ」と揶揄されることもあった。だが、それから時間が過ぎ、GKに足もとの技術が求められるようになれば、ペナルティエリアを飛び出して広いエリアをカバーすることが求められるようになった。
「Jリーグで出場機会を得ているように、U−23世代、さらにはU−19の世代には非常に優秀なGKが揃っています。GKはフィールドプレーヤー以上に、育成に時間のかかるポジションでもあると思うんです。
これまではJリーグでも外国籍のGKが起用される傾向にありましたけど、今シーズン多くの若手が出場機会を得ているように、10代、20代前半の選手たちが活躍する時代は来ると思いますよ。彼らはスタンバイできている状態なので、じきに台頭してきてくれるという期待感はあります」
求められているのは、きっと、川口能活のようなGKなのかもしれない。ミスを恐れず、信頼感があり、かつ積極性を持ち合わせたGK。指導者になった彼が、そんなGKを育ててくれることを待ち望んでいる。
【profile】
川口能活(かわぐち・よしかつ)
1975年8月15日生まれ、静岡県富士市出身。1994年、清水商高から横浜マリノス(現F・マリノス)に入団。2年目には正GKとなりJリーグ新人王を獲得する。1996年のアトランタ五輪では「マイアミの奇跡」の立役者となり、1997年から2008年まで国際Aマッチ116試合に出場。2001年からポーツマス→ノアシェランと海外に挑戦し、2005年にジュビロ磐田へ。その後、FC岐阜→SC相模原を経て2018年に引退。現在は東京五輪代表GKコーチを務める。