超大型投手ならではの悩み…日本球界に参考になる投手がいない 身長2メートルの大型左腕が来たる10月26日のドラフト会議を待っている。昨春のセンバツに出場した札幌大谷の阿部剣友投手(3年)は今季最速142キロをマークし、プロ志望届の提出を決断…

超大型投手ならではの悩み…日本球界に参考になる投手がいない

 身長2メートルの大型左腕が来たる10月26日のドラフト会議を待っている。昨春のセンバツに出場した札幌大谷の阿部剣友投手(3年)は今季最速142キロをマークし、プロ志望届の提出を決断した。プロ入りが実現すれば、現役日本人最長身選手になる。

 ビッグな体には可能性が詰まっている。身長は昨秋から2センチ伸びて、2メートルの大台に乗り、体重も最近100キロになった。「ほかの投手にはない角度からボールが出るところが長所だと思っています」と阿部は長身を武器にした投球スタイルを追い求める。

 日本球界に参考になる投手がいないことが悩みの種だった。「(ボールの)出所の感覚など参考にする選手がいないので、どうしても自己流が入ります」と試行錯誤してきた。船尾隆広監督は「あれだけ大きい左腕と言えば、ランディ・ジョンソンですよね。僕らも打者目線でどこが一番打ちにくいか考えて、腕を少し下げさせたこともあります。一番腕が振れるということで今の位置になりました」と説明する。

 フォーム作りと同時に筋力アップにも励んだ。入学時は体重83キロ。ベンチプレスは50キロしか上げられなかったが、今では80キロを楽々上げられるまでになった。球速は軟式でプレーしていた北斗大野中時代の130キロから142キロまでアップした。

 高校でやることはほかにもたくさんあった。「バント処理など小さい動作に苦労しました」と苦笑いしながら振り返る。船尾監督は「今ではフィールディングができるようになりました。あの手足の長さですから、扱うのは大変だと思いますよ」と語る。

 社会人のNTT北海道時代に日本代表も経験した船尾監督は、中学3年の春から追いかけてきた阿部の成長について、ある程度長い時間が必要だと考えていた。「プロを目指そう」と励まし寄り添ってきた指揮官は「野球人としては20歳を超えてからだろうなと思っていました。高校でも(体が)成長していたので、それが止まるまで、なかなか感覚をつかむのは難しい。まっさらな土地に種を撒いて、今は葉っぱが出てきたあたりですかね。10年後どうなっているかが大事だと思っています。そういう目で見てくれるところに行ってほしいですね」と親心をのぞかせる。

春までは大学進学を目指すも「冬のトレーニングの成果でだいぶ伸びた」

 ダイナミックなフォームだけに、制球にバラつきがあるように見られがちだが「元々、コントールは悪くないんです」と船尾監督は言う。変化球もスライダー、カーブ、フォークを操る。直球に関しては3年間、右打者への内角を徹底して練習してきた。阿部は「インコースには投げられるのですが、それだけでは上では通じないので、今は外のストレートの精度を高めることを目指しています」と次のステップに入り、現在も週3回ブルペンに入っている。

 指揮官が阿部の成長を実感するのは、ランニングする姿だという。「最初は走っている姿が左右にブレて不格好だったんですよ。今見ると、成長したなって。うちの学校は練習時間が2時間半と私立では短い方。それでもここまで成長できたんだから、朝から野球ができる環境になれば、成長のスピードは速いと思います」と将来の大化けを期待する。

 高校で150キロ到達を目指していた阿部は、今春まで大学進学も視野に入れていた。「コロナの前までは進学しようと思っていました。(コロナによる部活動)自粛中にキャッチボールをした時に、冬のトレーニングの成果でだいぶ伸びたと実感し、志望届を出そうと決めました」という。今夏の甲子園に出場して自信をつけてから志望届提出という思い描いていたストーリーは実現しなかったが、今夏の南北海道大会では北海戦で5回6安打1失点と好投するなど、上の舞台でやっていくための手応えをつかんだ。

 地元の日本ハムなど4球団から調査書が届いている。「指名されるか分かりませんが、それを前提に毎日練習しています。期待と不安両方ありますが、待つだけです」と阿部。育成でも指名されれば、迷わずプロの世界に飛び込むつもりだ。

「今はしっかり制球力をつけて、スピードも速くなるように頑張っているところです。筋力的にまだ弱いので、スクワットやランジやメディシンボールで下半身を中心に鍛えています」。将来を見据えながら、2009年に創部した同校から初の指名を静かに待つ。(石川加奈子 / Kanako Ishikawa)