「明日へのエールプロジェクト」の一環で、学生とアスリートが今とこれからを一緒に語り合う「オンラインエール授業」。第35回目の講師は、幼少の頃から地元・六甲山で登山に親しみ、大学在学中には標高7035メートルのヒマラヤのラトナチュリ峰を初登頂。以来、国内はもとより、ヒマラヤをはじめネパール、インド、中国、南米、欧州、アラスカなどの海外登山に挑戦。2013年には登山界のアカデミー賞といわれる第21回ピオレドール賞、第8回ピオレドールアジア賞を受賞した花谷泰広さんだ。現在は、八ヶ岳の麓、山梨県北杜市をベースに山岳ガイドのほか、各種イベントや講演会を通して、山の魅力を伝えることに力を入れている。

全国高校登山部の現役部員や顧問の教員が約10集まり、今のリアルな悩みや質問に答えた。

「高校時代は泥臭いことを一杯した」

早速、花谷さんの高校時代を振り返っていく。

生まれ育った神戸の街は、自然も豊かで街から山も近く市民ハイキングの文化があった。「祖父や両親もハイキングをしていて、小さい頃からついていっていた。山登りが身近だった」と言う。そして山に登り出したのは「小学5年生の時で、少年団の登山教室の入会案内を新聞で見つけ両親に相談した」ことが始まりだった。神戸高校時代、2つ上の学年には十数名の先輩がいたが、登山が下火になっていたことで、学年で唯一の部員だった。「勉強は、そっちのけで山登り(笑)。高校の裏が登山口で、毎日、走るか、重い荷物を担ぐなどの体力トレーニングをしていた。土曜日の学校帰りに山にいっていた」と振り返った。

神戸高校から信州大学に進学した理由も『山がある』からだ。「学部はどこでもよくて、山岳部に入りたかった」と明かした。高校時代と現在の花谷さんが、ひとつなぎでつながっていることが分かるエピソードだ。

山岳競技を通し培ったものは、大人になった今、どう生きているのか?

「高校時代は泥臭いことを一杯した。その下積みが大学に入っても、現在でも生きている」とのこと。

また、高校時代に抱いていた目標は「日本を代表する探検家・植村直己さんの本を読んで育ったので憧れていた。将来、ヒマラヤに行くこと」だったが、その目標をしっかりと達成。夢を追い続けたことが、叶えることにつながっていた。

技術面についての質問では、「天気図に興味があるが、時間(20分)内に書くことが難しい。どうしたら早く書けるようになるのか?」、そしてもう1つ「山で持久力を鍛えるトレーニングを教えて欲しい」というものだった。

花谷さんは柔和な笑顔で答える。「僕も高校時代に天気図を担当した。等圧線(大気中のある面で気圧の等しい点を結んだ線)を含めて、それを追えるようになると一気にスピードは上がるようになる。綺麗に書くことより、20分間で簡潔に書くことが大事。そこができると等圧線を引くことができる。これは反復しかないので自主的にやって欲しい。それと持久力については、僕は陸上的なトレーニングもしていたが、体力的に身になったのは、山の中で、走ったり、歩荷をしたことでついたと思っている。山の持久力と麓の持久力は違うので、山中のトレーニングは大事になる」とアドバイス。山岳競技らしい質問からスタートした。

高校時代に学ぶ技術は基礎の基礎だが自分の幹になる」

終盤になると、将来の夢や進路、生涯スポーツとしての山岳に関する質問コーナーへと移った。「花谷さんが山を仕事場にしようと思ったきっかけは?」と訊かれると「僕の場合は大学を卒業しても、ただ単に山登りを続けたかった(笑)。当時、仕事はハッキリ言って何でもよくて、効率良くお金を稼ぎ時間を作っては海外の山に登りにいくという20代を過ごしていた。30歳に入り山岳ガイドになったが、その頃から自分の山に登りたい、山のことや魅力を多くの人に知ってもらいたいという気持ちが湧いてきた」。それが現在の花谷さんの活動につながっている。

また生涯スポーツとしての登山に関する質問も寄せられた。

「高校卒業後も登山を続けたい。もっと知識と技術をつけたら冬の雪山もやってみたいと思っているのですが?」という相談に対しては「今までを振り返って思うのは、高校時代に鍛えた貯金が残っている。それだけ高校時代のトレーニングや過ごした時間は貴重なものだった。今日の参加者に話をしたいのは『技術は後付けでも大丈夫。体力は若いうちにどれだけ追い込んだか』。そこに尽きる。泥臭いけどやって欲しい」と、若いうちに体力のキャパを広げる大切さを説いた。

そして、花谷さんは競技登山に取り組んで得た財産についてを語る。「インターハイの競技は体力だけではなく、天気図やテントを立てるなど地味なことがベースになっているが基礎をもっている人はどんどん伸びる気がしている。高校時代に学ぶ技術は基礎の基礎だが、そこは自分の幹になる重要な部分だと思うので、しっかり過ごして欲しい」とアドバイス。参加した高校生は、「今後のインターハイや、その後、人生の中で生かしたい」と目標を立てた。

花谷泰広さんが語る“明日へのエール”

最後に“明日へのエール”を求められた花谷さんは「インターハイは中止となり、思うような部活動ができずにいるが、それは高校生だけではなく、みんなが辛い状況を過ごしている。ただ、これがずっと続く訳ではないし、イレギュラーなことは山登りをしていると常に起こるもの。山登りをしている人は『次はどう動こう』と考える判断力は高いと思う。めげずに前を向いて過ごしてもらいたい。みんなで前を向いていこう!」とエールを送ると、花谷さんを囲んで、山頂に辿り着いたことをイメージ。拳を上げて「やったぜ」ポーズを取り記念撮影をし、オンラインエール授業は終了した。

今後もさまざまな競技によって配信される「オンラインエール授業」。

これからも、全国の同世代の仲間と想いを共有しながら、「今とこれから」を少しでも前向きにしていけるエールを送り続ける。