かつて型の演舞で世界一となった空手家の宇佐美里香さんが、9月29日に配信された「オンラインエール授業」に登場した。「イ…
かつて型の演舞で世界一となった空手家の宇佐美里香さんが、9月29日に配信された「オンラインエール授業」に登場した。「インハイ.tv」と全国高体連が「明日へのエールプロジェクト」の一環として展開するこの企画。宇佐美さんはインターハイ中止という経験から前を向く全国の高校空手道部員を対象に授業を行い、空手道で培ったもの、そして色褪せない空手への情熱を伝えた。
宇佐美さんが登場した「オンラインエール授業」はインターハイ実施30競技の部活に励む高校生をトップ選手らが激励し、「いまとこれから」を話し合おうという企画。ボクシングの村田諒太、柔道の井上康生さん、バドミントンの福島由紀と廣田彩花、バレーボールの大山加奈さん、サッカーの仲川輝人ら、現役、OBのアスリートが各部活の生徒たちを対象に講師を務めてきた。
第34回の講師は空手家の宇佐美里香さん。宇佐美さんは東京・帝京高校3年時にインターハイで優勝。全日本空手道選手権大会では2009年から4連覇を達成した。また、2010年の世界空手道選手権大会・女子形の種目で、初出場で3位に。2012年には同大会で見事に優勝を決め、翌年に現役を引退した。現在は全日本空手道連盟強化委員として、空手道の普及活動や後進の指導にあたっている。
動画サイトに上がっている宇佐美さんの世界選手権優勝時の映像は、これまでになんと1400万回以上も再生。『世界一美しい型』と評され、今もなお世界中の人々を魅了している。
10歳で空手を始めた宇佐美さんが、競技として空手に取り組み始めたのは、帝京高校入学後のことだった。一つ上の先輩に憧れ、「彼女のようになりたい」という想いで、日々、練習に励んだという。
「当時、部活先輩たちは皆、後輩に道着の洗濯を頼んでいました。でも、その先輩は自分のことは自分でしたいと、後輩にやらせなかった。その姿を見て私も、道着は自分で洗うことにしました。
また、授業の合間にも道場にいき、一人で黙々と練習をやっている先輩の姿を見て、努力の仕方を学ばせてもらった。高校時代は、本当に成長できたと思います」
高校2年生の時、憧れの先輩にとって最後のインターハイとなる試合を観に行った。結果は6位。宇佐美さんは試合後、影で一人、悔し泣きをする先輩の姿を見た。「私も悔しかった。そのときに、1年間頑張って、来年は私が出場する、と目標を立てました」。
その後、インターハイを前に、全国選抜大会出場を決める。宇佐美さんにとって初めての大きな大会となったが、「すごく辛い思い出がある」と振り返る。
「決勝が始まる前、怖くて震えてしまい、“決勝に出たくない!”と、トイレで泣きました。あぁ、これでは型はできないな、震えて舞台に立ってもいられないな、というなかで、涙を拭き、舞台に出ていったことが思い出として残っています」
結果は5位。満足のいく出来ではなかったが、だからこそ気持ちを入れ替え、一層、練習に励んだ。そして、目標だったインターハイに出場。見事、優勝を決める。
「部活漬けの毎日だったが、空手への熱い想いがあったからこそ、3年間続けられた」と宇佐美さん。
「高校時代の3年間は、自分の成長を感じられて楽しかったし、だから大学でも空手を続けた。そして、憧れの先輩の存在が、自分のなかでいちばん大きい。努力の仕方、自分のことは自分でするということ、そして礼儀の正しさ。高校時代に培ったそれらのことは、今でも生きていると思います」
世界選手権での優勝は「あっけなかった。でも大事なのは…」
続いて授業は、参加する空手部員たちとの質疑応答のコーナーへ。『技術』『メンタル』『進路』の3テーマから質問が寄せられた。
まずは『技術』。「いつもは実演してみせるので、口頭で説明するのは難しい!」と言いつつ、一人ひとりと積極的に言葉を交わしながら、自作のイラストなども使い丁寧に回答。「蹴りのスピードを速くするには?」「練習メニューを組む際の重要なポイントは?」などの質問に対し、具体的な練習方法を伝えつつ、「技術を支える体力」「基本動作」、そして「反復練習」の重要性を繰り返し説いた。
続く『メンタル』では「プレッシャーに弱く、技がうまく出せない、自分だけうまく出来ないとすぐに泣いてしまう」という女子選手に対し、「私もインターハイの試合前に泣いたことがあるし、引退する日まで、自分に自信が持てないタイプだったよ」と、宇佐美さん。
「自信が持てない私を支えたのが練習です。私は世界大会で3位になったことがあります。型は日本のお家芸。優勝するのが当たり前というなかで出場し、最終的にプレッシャーに押しつぶされて負けました。その後、自分の心が弱かったと思い、負けた原因を細かく探り、どんな大会であろうと同じ気持ちで臨み、同じ演舞が出来るよう、日ごろからトレーニングをしよう、と思いました。
それから、うまくできない悔しさってすごく大事です。私も学生時代、“10言わないとイチがわからない”ような選手で、先生からすごく手のかかった、と言われます。でも、悔しくて、悔しくて、練習を重ねた。悔しさは勝負心につながると思う。その心を大事にしてください」
生徒からの逆質問も飛び出した。「世界選手権で優勝した後、空手に対する目標や向き合い方は変わりましたか?」という問いに、「すごくいい質問」と当時の心のうちを話した。
「優勝した瞬間は、あっけなかった。何万時間、何百日も練習し、世界を目指してきたのに、たった2分半の演舞で、こんなにもあっという間に終わってしまうのか、と。
でも大事なのはそれまでの過程です。(その2年前の世界選手権で3位に終わってから)毎日、どれだけの悔しさをバネにして、どれだけの(強い)気持ちでやってきたのか。それを皆さんには知って欲しいし大事にして欲しい。金メダルを獲ったという結果はキラキラして見えるけれど、笑顔の裏には泣いたり苦しんだりすることのほうが多い。だから私はいろんな選手に対しても、乗り越えてきた過程に拍手を送りたいと思います。
世界選手権優勝後ですが、空手をやめる気持ちはまったくなく、空手を通して何かを伝えていきたいという想いを今も持ち続けています。私は空手を通して自分を表現出来てきたこと、空手に出会えたことに感謝をしていますし、空手がなければ自分ではない、とも思っている。だから今でも、空手の感覚を忘れないように、当時よりも技術が上がるようにと、毎日のようにしっかり練習をして、自分自身を鍛えていますよ」
進路に悩む高校生には「迷いの道は一生続きます」
最後のテーマは『進路』。「高校卒業後のことはまだ何も決めていない」という生徒には、自身の学生時代をなぞりつつ言葉を送った。
「人生には、色々な分かれ道があります。例えば私は中学から高校に進学するとき、2つの道で迷いました。制服も髪もおしゃれを楽しむ高校生活か、毎日、空手漬けの高校生活か。泣くほど悩みましたが(笑)、空手が好きだったから、後者に決めました。
大学進学のときも、また2つの道で悩みました。その時は、空手を続けるうえで自分に足りなかった部分を考え、精神的に強くなりたいと思い、国士舘大学を選びました。
迷いの道は一生続きます。その時は大事な人に相談すること。でも、人の意見を鵜呑みにするのではなく、自分の意志を大事にしながら、やりたいことをしっかりと見極め、道を選ぶとよいと思います」
授業の最後に、いつまでも新鮮な気持ち、キレイな気持ちを持って、空手を続けてほしい。目標を持って一つひとつ前進してほしい、と言葉を送った宇佐美さん。
「高校生活、悔いの残らないように過ごしていけば、必ず、将来役に立ついい経験になると思います。そして、自分の道を自分の意志で、しっかり歩んでいってほしい。応援しています!」
宇佐美さんの世界に通じる道は、高校時代にスタートした。この事実は高校生活を送るすべての空手家にとって、これ以上ない心強いエールとなっただろう。
■オンラインエール授業 「インハイ.tv」と全国高体連がインターハイ全30競技の部活生に向けた「明日へのエールプロジェクト」の一環。アスリート、指導者らが高校生の「いまとこれから」をオンラインで話し合う。授業は「インハイ.tv」で配信され、誰でも視聴できる。(長島 恭子 / Kyoko Nagashima)
長島 恭子
編集・ライター。サッカー専門誌を経てフリーランスに。インタビューや健康・ダイエット・トレーニング記事を軸に雑誌、書籍、会員誌などで編集・執筆を行う。担当書籍に『世界一やせる走り方』『世界一伸びるストレッチ』(共に中野ジェームズ修一著、サンマーク出版)、『つけたいところに最速で筋肉をつける技術』(岡田隆著、サンマーク出版)、『カチコチ体が10秒でみるみるやわらかくなるストレッチ』(永井峻著、高橋書店)など。