北田瑠衣に聞く女子ゴルフの疑問「もしイップスになったら」 活況を見せる女子ゴルフで浮かぶ様々な疑問に対し、ツアー通算6勝の北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」の取材に応じ、プロ目線の答えを語ってくれた。全3回に渡ってお届けする第3回…

北田瑠衣に聞く女子ゴルフの疑問「もしイップスになったら」

 活況を見せる女子ゴルフで浮かぶ様々な疑問に対し、ツアー通算6勝の北田瑠衣(フリー)が「THE ANSWER」の取材に応じ、プロ目線の答えを語ってくれた。全3回に渡ってお届けする第3回は「もしイップスになったら」。どんな一流選手でも突如なってしまう可能性のある“心の病”。そもそも、なぜ陥るのか。もし自分や周りの選手がイップスになったらどうすればいいのだろうか。

 ◇ ◇ ◇

 いったい、なぜ……。昨日まで打てていたショットが想像もつかない方向に飛んでいく。アプローチでウェッジを振り抜けない。わずか数十センチのパットを入れられなくなった。経験したことがあるアマチュアの一般ゴルファーも多いだろう。

「イップス」。精神的なことが原因で起こる“心の病”とされている。明確な治療法はなく、ゴルフ以外の競技でも度々聞かれる症状だ。

 北田も“経験者”だった。2002年にプロ転向し、04年に初優勝を含む年間3勝。05年2月には、第1回女子W杯で宮里藍さんとペアを組んで優勝した。しかし、この時くらいから違和感を抱えていた。

 1メートルのパットが入らない。プロなら“入れて当然”とされる近さ。「ただ入らないのではなく、手が動かなかったり、少し痺れたり、インパクトで勝手に変な動きをする。軽いイップスのような感じになりました」。この年は31試合のうち予選落ちが15回。前年3位だった賞金ランクは60位となり、シード権を失った。

 きっかけは何だったのか。「アレルギーや花粉症ではありませんが、不安要素がいっぱいいっぱいになって爆発しちゃったんでしょうね」と自己分析する。悪いパットの記憶が重なり「それを払拭できなくなった」という。

「いいショットはあまり記憶に残らないんですよね。悪いショットの方が残るんです。性格なのかもしれませんが『このシチュエーションでシャンクしたよね』『このホール、よく池に入るよな』とか、ネガティブなことは残像が消えにくい。私の場合は短いパットの時に思わず外れてしまったのが、どんどん積み重なって心に来たのだと思います」

 まだ23歳だった。以降は順手からクロスハンドに変えたり、ボールへの目線を変えたり試行錯誤。ボールを見ずに打つなんてこともやってみた。「いろいろ試しました。でも、周りに悟られたくないから普通にしてました」と表には出さなかった。

 どうやって克服したのか。この問いに「結局、克服できないままです」と今も治ってはいない。だが、06年から再びシード権を獲得すると10年連続で保持。3勝を積み上げて見事に復活した。「優勝した時は、ショットが特によかったです。もちろん最後はパットが必要ですが、難しいシチュエーションはほとんどなかった」。ピンそばにつけて伸ばした。ストレスの溜まる微妙な距離のパットが少なく、イップスと付き合いながら優勝したのだ。

「今もゴルフをする機会がありますが、それ(症状)が減ってきた感じです。プレッシャーなんでしょうね。『外しちゃだめ』『プロだったらこれくらい入るでしょ』という距離が怖い。心の病気ですよね」

指導者に求められることとは「精神安定剤的な優しい言葉もほしいけど…」

 症状を軽減させるのには苦労した。厄介だったのは「練習ではうまくいく」ということだ。選手は練習でトライ&エラーを繰り返し、試合に向けて調整していくもの。しかし、本番になると理由もなく崩れてしまう。

「おそらくイップスはそういうものだと思います。練習ではうまくいくけど、いざ試合でより集中している時に限って変なものが出てくる。だから、練習して練習してイップスが治るかというと、治らないんですよ」

 完治したと言い切れる人もいるかもしれないが、努力しても治すのは難しい。アスリートが多くの壁を乗り越えてきた「努力」という方法が通用しない。では、もしもイップスになったらどうすればいいのか。受け入れがたい事実に直面した時に大切なこと。北田は「最初は精神的に非常にきついと思います」と語り、持論を述べた。

「精神的にふっ切れるしかないのかなと。(自分はイップスだと)認めた方がいいと思います。選手は調子が悪くなって『イップスかな……』と思った時、過去の自分に戻ろうとするんですよ。選手には『この時はこうしたらいい』というよかった時の感覚が必ずある。それに戻ろうとしますが、やはり戻れないんですよね。また新しいポイントに気づいていくしかない。過去よりもこれから。いろいろと試すことが大切です」

 経験したからこそ、選手の心情を慮る。「でも、私のイップスはまだ軽い方だと思います。本当にイップスで悩んでいる選手は多いので」と、もがいている選手を何度も見てきた。そんな時、周囲はどうすればいいのだろうか。

「接点がある人ほど凄く気になります。でも、気にしていることを本人に伝えると、それがまた気になる。だから、そっと見守るしかないと思います。私だったらそうしてほしいです。いつかふっ切れた時に『あの時、こうだったよね』と話せるくらいがいいのかな。本人が何かのきっかけでまたよくなることがありますから」

 とはいえ、指導者に求めることは異なるという。周りの選手らは「そっと見守る」ことが望ましいが、一番近くにいるコーチは「ともに戦う」ことが大切だと説いた。

「言葉よりも技術的な話をしてほしい。コーチには一緒に戦ってほしいですよね。少しふっ切れると、いろいろ試そうかなという気持ちになります。その中でもちろん精神安定剤的な優しい言葉もほしいですが、やはりゴルフは結果。スイングを変えたらそれがボールに出ますし、調子の良し悪しもボールに出る。一緒に戦っているコーチなら試行錯誤して悩みながら、また一緒に組み立てていってほしいと私は思います」

 もしあなたがイップスになったら。あなたの教え子に、周りの選手にイップスで悩む人がいたら、一つの意見として参考にしてほしい。(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)