10月26に開催されるプロ野球ドラフト会議。今年は佐藤輝明(近畿大)や早川隆久(早稲田大)のような重複1位候補の逸材が…

 10月26に開催されるプロ野球ドラフト会議。今年は佐藤輝明(近畿大)や早川隆久(早稲田大)のような重複1位候補の逸材がいる。

 現段階では各球団とも検討段階であり、明確に誰を1位指名するか公言しているチームはない。編成陣としては、「できるだけ競合をせず、いい選手を獲りたい」というのが本音だろう。もし1位指名が重複してクジ引きで外してしまえば、ランクの落ちる「外れ1位」の選手を指名せざるを得ないからだ。

 しかし、歴史を紐解けば、今にして思えばよく外れ1位で獲れたな......というスター選手もいる。ここでは、「実は大当たりだった外れ1位」を振り返ってみよう。

 首位を独走する巨人の二遊間は、「外れ1位コンビ」である。



巨人から指名を受けて、チームメイトに胴上げされる坂本勇人

 坂本勇人のドラフト時のエピソードはあまりに有名だ。2006年高校生ドラフトに臨むにあたって、当時の東北地区担当の大森剛スカウト(現・統括スカウト)が自身の進退をかけてまで、光星学院(現・八戸学院光星)の坂本を猛プッシュする。結果的に1位は愛工大名電の堂上直倫でいくことが決まったものの、堂上のクジを外した場合は坂本を1位指名することになった。

 結果的に堂上は地元・中日が当たりクジを引き当て、交渉権を獲得。外れ1位で巨人に入団した坂本は、その後チームの看板に君臨することになる。

 大森スカウトは選手を見る際に「3振1球」を重視していると語っていたことがある。打者なら3スイング、投手なら1球見ただけでピンとくるものがなければいけないということだ。坂本の場合は、2年夏に青森山田・柳田将利(元ロッテ)からバックスクリーンに放り込んだ一打を見て、「いけると確信した」という。坂本の能力に懐疑的だったスカウトにも、大森スカウトは「大丈夫ですから」と説得した。

 そして現在、坂本と二遊間を組む吉川尚輝に至っては、2016年ドラフトの「外れ外れ1位」の選手である。

 巨人はこの年のドラフトの目玉だった創価大の田中正義に1位入札。5球団が競合した末に、当たりクジを引いたのはソフトバンクだった。

 ところが、ここで大きなハプニングが発生する。ドラフト会議前には田中とともにドラフトの目玉格とされ、競合必至と見られた桜美林大の佐々木千隼にどの球団も入札していなかったのだ。

 外れ1位で目玉クラスが獲れればもうけもの。おそらく、1位クジを外した全球団がそう考えたのだろう。入札を外した5球団すべてが外れ1位で佐々木を指名する、異様な事態になった。巨人はここでもクジを外し、佐々木の交渉権はロッテへ。そして3度目の1位入札で指名したのが、中京学院大の吉川だった。

 吉川は身体能力の高さとプレーの華にかけては天下一品で、4年時には主力として大学を日本一に導いた遊撃手だった。ポテンシャルを高く評価される一方で、進学予定だった亜細亜大を入学前に辞退したように、内面を懸念する声もあった。

 それでも、巨人入団後は井端弘和コーチ(現・侍ジャパン内野守備・走塁コーチ)に内野守備のイロハを徹底的に叩き込まれた。「スピードは荒木雅博(元中日)より上」という井端コーチのお墨付きを得て、故障の癒えた今季は攻守に一皮剥けたところを見せている。

 ヤクルトの山田哲人、村上宗隆の主軸コンビも「外れ1位組」である。

 2010年ドラフトで早稲田大の斎藤佑樹(現・日本ハム)、八戸大(現・八戸学院大)の塩見貴洋(現・楽天)と大学生投手のクジを続けて外したヤクルトは、履正社の遊撃手・山田を1位指名する。

 当時の山田は絶対的な評価を受けていたわけではなかった。スラッガーとしては高校の5年先輩のT−岡田(オリックス)ほどのインパクトはなく、内野手としても同じ大阪の高校生だったPL学園・吉川大幾(現・巨人)のほうが知名度は高かった。

 そんな選手が前人未到の三度のトリプルスリーを達成してしまう大スターになるのだから、人生はわからない。

 村上は2017年ドラフトの主役だった早稲田実・清宮幸太郎(現・日本ハム)の外れ1位だった。とはいえ、村上もヤクルト以外に巨人、楽天と3球団から外れ1位入札を受けているように、その潜在能力は高く評価されていた。

 この年は、ほかにも履正社の安田尚憲(現・ロッテ)と高校生スラッガーの当たり年。「粒ぞろいだから外れ1位にもいい選手が残っているだろう」と各球団は考えたのだろう。スター性と高い能力を併せ持つ清宮に7球団の指名が集中した要因は、ここにある。

 村上は2年目に早くも台頭し、36本塁打をマーク。今季は好打率を維持して、大打者へのステップを着実に踏んでいる。なお、村上は幼少期から3兄弟(宗隆は次男)揃ってヤクルトを愛飲していたという縁もあった。

 DeNAは2014年に山﨑康晃、2016年に濱口遥大と、外れ1位で非常に意義深い投手補強をしている。

 2014年はドラフトの目玉だった早稲田大の有原航平(現・日本ハム)にチャレンジするも、4球団競合の末に失敗。再入札で亜細亜大の山﨑を指名する。2016年は明治大の柳裕也(現・中日)、桜美林大の佐々木と相次いでクジを外して、神奈川大の濱口を獲得した。

 山﨑は大学時代からリリーフとしては快刀乱麻の投球を見せる一方、先発すると球速が落ち、物足りなさを感じさせた。プロでも首脳陣がその適性を見抜き、1年目から守護神として起用したことが吉と出た。

 濱口は球威のある速球と落差のあるチェンジアップを武器に大学球界で活躍していたものの、不安定な制球力が不安視されていた。マウンドに立つと温厚な人柄から豹変して激情型の投手になるメンタリティーが、マイナスに見られることもあったようだ。

 近年、ドラフト1位で活躍した投手がことごとく成功したことが、低迷を極めたベイスターズ浮上の一因になった。外れ1位でもランクが落ちないどころか、大活躍した山﨑と濱口の貢献は大きい。

 パ・リーグで目立つのは、2013年ドラフト会議で3度の抽選に失敗した日本ハムが「外れ外れ外れ1位」で指名した渡邉諒(日本ハム)である。

 同年の目玉だった桐光学園の松井裕樹(現・楽天)を皮切りに、日本生命の柿田裕太(元DeNA)、横浜商科大の岩貞祐太(現・阪神)とすべてクジを外してしまう。3連続で重複すること自体が珍しく、ほかには2010年のオリックスから外れ外れ外れ1位指名を受けた後藤駿太の例がある。

 渡邉は6年目の昨季に規定打席に到達して二塁のレギュラーの地位を獲得すると、今季は「直球破壊王子」という異名を手に入れ、速球に強いイメージが浸透しつつある。

 最後に番外的に「変わり種」として紹介したいのは、2002年に今はなき、近鉄から外れ1巡目指名を受けた坂口智隆(現・ヤクルト)である。近鉄はその年、高校ナンバーワン左腕と評判の東北・高井雄平(現在の登録名は雄平)を1巡目指名。ヤクルトとの一騎打ちの末に、クジを外している。直後に外れ1巡目指名を受けたのが、神戸国際大付の坂口だった。

 そんなふたりが巡り巡って、18年経った今では同じヤクルトで野手としてプレーしているのだから不思議だ。背番号も1つ違いで、雄平は41、坂口は42をつけている。

 今回は「飛躍した外れドラフト1位」をピックアップしたため、「外れ1位は成功例が多いじゃないか」と感じた読者も多いかもしれない。だが、全体を通してみると、むしろ活躍していない外れ1位の例が圧倒的に多い。

 重複1位指名確実の超目玉選手を獲得できるかは運次第。だが、外れ1位で有力な選手を獲得できるかは、スカウトの眼力と調査力が問われるのかもしれない。

 おそらく、今年のドラフト会議でも「外れ1位」と呼ばれる存在は出てくるはずだ。そのときにどんな選手の名前が呼ばれるのか。各球団の外れ1位に、球団のスカウティングの実力が透けて見えてくる。