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10月3日、フィギュアスケート近畿選手権SPを滑る三原舞依

 リンクに飛び出した三原舞依(21歳、シスメックス)は、小さくはずむようだった。黒いジャージに黒い手袋、鮮やかなピンクのドレスの裾がひらひらと見える。すでに体は温まっていたのか、すぐにジャージを脱ぐと可憐な全身が露わになる。肩を動かし、風に前髪が揺れ、衣装についた石が小さな星のようにきらめいた。息遣いが荒くなり、手袋も脱ぐ。残り1分になった練習、氷の上に乗っている時間を愛おしむように彼女は跳ねていた。

「まず滑る前ですかね。自分の名前を(会場で)コールしてもらって、試合に戻ってきたなぁ、というのが嬉しくて。先生に『いってらっしゃい』と言われて、『ただいま』という気持ちで氷に乗れたのが嬉しかったです」

 三原は、朗らかな表情で語った。約1年半ぶりの公式戦。彼女はいるべき場所に戻ってきた。

 10月3日、大阪府立臨海スポーツセンター。三原は近畿選手権のショートプログラム(SP)に登場している。病気を患い、リンクから離れざるを得ない日々だった。久しぶりの実戦で、試合を戦う勘や肉体が戻っていないのは当然だろう。

 しかし、氷の上に立つ三原は笑みを漏らしていた。

「まず練習再開が嬉しくて」

 その日を待ち望んだ三原は言う。

「試合が近づくにつれ、エントリーシートとかが配布されて、これから試合があるという嬉しさを感じて。楽しみでしかなかったです。よし、行くぞ!って。それでリンクに入る前、中野(園子)コーチには、『絶対できる、最後まで笑顔で』って言われて。ああ、この瞬間を待っていたんだって思うと嬉しくて」

 スケートへの愛が弾けていた。その勢いが、彼女に味方をしたのかもしれない。

 三原は、眠りから覚めた妖精のように舞い始める。3回転ルッツ+2回転トーループのコンビネーションジャンプを危なげなく成功。ダブルアクセルもきれいに降りた。3回転ループはわずかに乱れたが、プログラム使用曲「イッツ・マジック」で魔法をかけられたような、その世界に誘う引力を持った演技だった。無観客でなかったら、万雷の拍手が降り注ぎ、会場は温かさに満ちていただろう。

 演技後、両腕を高く上げた三原は、素直に喜びを表現していた。リンクサイドで中野コーチに抱き着き、頭を撫でられ、顔をくしゃくしゃにする。子供のような無垢さで、花を咲かせるような笑顔だった。

 得点は59.69点で、3位につけた。スコア以上に、記憶に残る復活の瞬間だった。

「この舞台に立たせてもらった感謝の気持ちを、プログラムに込めました」

 その言葉は、真摯な三原らしい。

 そしてフリースケーティングも、地力を見せつけている。冒頭、3回転ルッツ+2回転トーループ+2回転ループの連続技で、高得点を叩き出す。ダブルアクセルも成功し、3回転フリップは回転不足がとられたが、3回転サルコウ+2回転トーループは3回転サルコウ、3回転ループも着氷した。 



フリーを滑る三原

 113.69点で、3位。総合でも3位になって、表彰台に立った。演技後、悪戯が成功したような茶目っ気と安堵したような透き通った笑顔を見せ、一つの成功と言えるだろう。ターコイズを基調にしたドレスに花の模様が描かれ、ストーンがきらめく衣装も、「フェアリー・オブ・ザ・フォレスト&ギャラクシー」の曲に合い、彼女の独特の世界観となっていた。

 フリーが終わった後、リモートでインタビューに答えた三原は、もう一つの彼女らしさも見せた。

「フリーは最後まで滑り切ることができてホッとしています。楽しんで滑れてよかったなと」

 三原はそう語った一方、自身の演技に満足していなかった。

「ダメだった点もたくさんあって。まだ、ジャンプに集中している状態で、構成のところは(ステップなど)レベルを取り戻さないといけないと思っています。いいプログラムなので、もっといい演技ができるはずで。振付師のローリー・ニコルさんには、『森の妖精、ティンカーベルのようにキラキラして』と言われて。たくさんアドバイスももらっているので、(本来の滑りを)1日でも早く取り戻せるようにしたいです」

 三原は、世界のトップを舞台に戦ってきた選手である。自らのスケートに求める要求は高い。その向上心が彼女を羽ばたかせてきた。現状では、体力は2年前の状態にはまだ戻っていないし、ジャンプも回転数を落として滑っていた。ルッツは降りられるようになったが、3回転の連続ジャンプは試合では今のところ封印。プログラムの構成を決めたのも実は直前で、ジャンプの順番やコースを間違えないか、心配だったという。

 この日、飛び抜けたスコアで優勝した"盟友"坂本花織の演技を、彼女はじっと見つめていた。

「かおちゃん(坂本花織)とは練習の時からですが、今日見ても、迫力が違って。また、一緒のグループで滑れるように戻りたいですね。(近畿選手権では)かおちゃんには笑顔で、『良かったね』って言ってもらえて。まだライバルと言えるような状況ではないですけど、同じ舞台に立てるように頑張りたいです!」

 三原は復活しただけでは満足していなかった。彼女のスケート愛は、むしろ氷の上に立ったことで、むしろ巨大になっていた。

「一つ一つ、大切に確実に滑れるように。(11月の)西日本選手権までに戻し切るようにやっていきたい」

 彼女は彼女のスタンスでスケートに向かう。今後はグランプリシリーズのNHK杯、全日本選手権出場も見込まれる。生命力をほとばしらせる妖精が舞う。