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10月3日、フィギュアスケート近畿選手権ジュニア女子フリーで演技する本田紗来

 桃色を基調としたドレスは、胸元に花模様をあしらい、腰には帯のようなデザインが入って裾はふわりと揺れ、東洋的な装いの愛らしさがあった。

「SAYURI」

 フリーで使用したプログラム曲をイメージした衣装なのだろう。アメリカ人が創作した東洋人女性の踊り子を描いた映画「SAYURI」の曲だが、リンクの上ではひらりと華やぐような気配が漂った。それを着こなすだけの晴々しさが見えた。自身のジュニアデビュー戦を祝福するようにーー。

 しかし、演技後の表情は厳しかった。

「今日(4日)も、昨日のショート(の失敗)からの切り替えができなかったです。ショートは緊張と不安で(演技が)縮こまってしまったので。その失敗を引きずってしまったのか、フリーは思い切りいきすぎたというか、気持ちが強く出過ぎてしまった。緊張に負けてしまいました」

 13歳で、思った以上の重圧を受けていたのだろう。世界ジュニア女王でセンス抜群の長女、本田真凜、人気若手女優でシニアスケーターデビューする次女、本田望結の妹として、世間から否応なく注目を浴びる。競技者として、年端のいかない少女が、心身ともにバランスを取るのは簡単ではない。

 本田紗来は、スケートに向き合っていた。

 10月2日、大阪府立臨海スポーツセンター。近畿選手権で本田は、ジュニアデビューとなるショートプログラム(SP)のリンクに立った。その結果は、苦みを伴っていた。 



10月2日、SPで演技する本田紗来

 スコアは伸びず、37.03点で16位。冒頭のルッツでパンクし、3回転フリップ+2回転トーループは成功したものの、ダブルアクセルは着氷で詰まって減点されていた。練習でもジャンプが思うように決まらず、滑る前から表情は強張っていたが、全体的に硬さが抜けなかった。

「インタビューに答える状況ではない」

 ショート後は、関係者が気遣うほどの落ち込みようだった。インタビューを断ったというよりも、13歳に対する配慮だったのだろう。

 そして10月3日に行なわれたフリーも、本田は苦戦を強いられた。

 冒頭の3回転ルッツで、転倒することになった。難易度の高いルッツは、前日のショートでも失敗していた。ダブルアクセル、3回転ループは降りたが、3回転フリップは軸が乱れてしまう。2回転ルッツ+2回転トーループ、3回転フリップ+2回転トーループのコンビネーションジャンプは見事に成功したものの、最後のサルコウは回転できずに転倒した。

 スコアは、65.42点と14位に終わった。順位は挽回できず、総合で16位と低迷。演技後は落胆が表情ににじみ出ていた。西日本選手権に進めるのは、上位12人のみ。長男である本田太一も含め、本田一家全員で全日本へ、という夢には届かなった。

「兄ちゃん(本田太一)の引退シーズンだったので。気持ちが入りすぎてしまったのはあって。これからスケート人生とどう向き合うか。大きな壁があると思うので、それを自分の力で破れるように」

 本田は言う。13歳は、現実と対峙していた。

「去年からずっと成績が下がっていて...」

 リモート会見、込み上げてきそうになる涙を堪えることで、その声は微かに震えていた。

 2017年、本田はノービスBで華々しく優勝し、18年にはノービスAで2位になっている。そのポテンシャルの高さが、関係者の間でも評価されてきた。ただ、19年にはノービスAで4位と一歩後退。20年は、岐路に立っているのだろう。

「少しでも前に進めるようにしたいです」

 インタビューの最後に、本田は気丈にも言っている。

「『SAYURI』は振付師さんが選んでくれたんですが、これまで他のスケーターさんたちも滑ってきた有名な曲で。私はこれまで明るい曲調が多かったので、ジュニアで滑ることになった機会に、きれいな感じにしてもらって。ただ、今はジャンプに集中していて、踊りに気持ちを入れるところまでは追いつきませんでした。シーズンの終わりには、お客さんがストーリーに入り込めるような、きれいな踊りがしてみたいです」

 13歳は会見で誠実に答え、前を向いていた。考えていることをまとめ、発信するという点では、大人らしい落ち着きがあった。今回はジュニアデビュー戦、勝負はこれからだ。