法大戦で連投、8回1死満塁で火消し「チームを勝ちに導きたかった」 東京六大学秋季リーグ戦は4日、早大が終盤に法大に追いつき、6-6で引き分けた。前日に112球を投げ、13奪三振で完封したドラフト1位候補左腕・早川隆久(4年)が救援で連投。2…

法大戦で連投、8回1死満塁で火消し「チームを勝ちに導きたかった」

 東京六大学秋季リーグ戦は4日、早大が終盤に法大に追いつき、6-6で引き分けた。前日に112球を投げ、13奪三振で完封したドラフト1位候補左腕・早川隆久(4年)が救援で連投。2点ビハインドの8回1死満塁でピンチを断つと、直後に打線が追いつき、価値ある勝ち点「0.5」をたぐり寄せた。

 早川の名前がコールされると、客席がどよめいた。前日に112球を投げたマウンド。8回1死満塁、しかも4-6とビハインドされた状況だ。しかし、早大のエース兼主将は「勝ちたい」という情熱とともに、もう一つ、気持ちを持っていた。

「抑えたら、絶対に流れが来る」

 対するのは、法大の主将・中村迅(4年)。最速155キロの直球がこの日は150キロに届かない。得意のカットボールを捨て、ストレート狙いでいることを感じていた。にもかかわらず、フルカウントから首を振って投じたのはストレート。その裏には、勝ち気な狙いがあった。

「カットボールを捨てている中で直球で三振を取れれば、勢いに乗れる。変化球で四球になったら後悔する。多少甘くても、強いボールを投げよう」

 敢えて、相手が狙っているストレートで演じた勝負。外角に投げ込んだ149キロに中村のバットは動かない。見逃し三振--。球場を沸かせると、次打者も初球の直球で遊邪飛に打ち取り、ピンチを脱出した。派手なガッツポーズで感情を爆発させた。

 そして、早川の「抑えたら」の言葉通り、風は“都の西北”に吹き始めた。

 先頭が四球で出塁すると、早川がきっちりとファーストストライクを犠打で送り、続く熊田任洋(1年)が適時三塁打。ここで、こちらも前日に先発し、138球を投げている法大のエース・鈴木昭汰(4年)が連投で救援したが、初球を代打の福本翔(3年)が同点の適時二塁打とした。

 9回もマウンドに上がった早川は四球を1つ出したが、25球で無失点。1回2/3を無安打3奪三振の内容で引き分けに持ち込んだ。

「負けたくなかった。あれ以上、追加点を与えてしまうと一気に法政の流れになってしまう。昨日も自分から打てていなくて『打ちたい』という法政の勢いをすごく感じた。点を取られていたら試合が終わると感じていたから受け身にならず、攻撃的に行けた。それが良かった」

小宮山監督が明かした起用のワケ「背に腹は代えられない」

 小宮山悟監督にとっては苦渋の決断だった。前日に112球を投げたドラフト1位候補の連投という采配には葛藤があったといい、起用の狙いを明かした。誤算だったのは、先発した徳山壮磨(3年)が4失点し、2回で降板したこと。

「投げる順番は学生コーチに伝えていたけど、4点も取られてプランがガタガタになった。3回以降はバタバタしながらの状況だった」

 徳山以降は西垣雅矢(3年)が4イニング無失点と好投したが、7回から救援した3番手の今西拓弥(4年)は2/3で2失点、バトンを受けた柴田迅(4年)もアップアップの状態で8回1死満塁のピンチを招き、「しのげるのは早川しかいない」と背番号10の起用を決断した。

「本来なら9回の1イニングだけ。もしくは投げずに済ませたかった。しかし、先発が2回で代わっているから、どうしても前倒しになった」

 早川は前日に「明日も準備する」と試合後の会見で宣言しており、それで「迷わず行けた」と言うものの、「スカウトの顔がちらついて、もしこれで何かあったらと思うと…というところはあったけど、背に腹は代えられなかった」と本音も覗かせた。

 しかし、主将がピンチを断つことで、攻撃に流れが生まれる狙いは「もちろん」あった。その想いに早川が応えた格好だ。

 何より、試合後半からブルペンに入り、出番をアピールしていたエースも「チームを勝ちに導きたいという想いが強かった。いつでも行ける準備をしていた」と明かし、「1点もあげられない状況で監督さんに託され、応えられたのは自信につながる」と掴んだものの大きさを語った。

 会見中、早川を終始褒めていた指揮官は「早川がなんとか抑えてくれたおかげで奇跡的に2点が入って追いつけた」とも言った。

 秋は2試合総当たりの10試合で行われるリーグ戦。従来のように1勝1敗で第3戦にもつれ込むことはなく、引き分けで「0.5」の勝ち点が与えられる。だからこそ、「勝つこと」の次に「負けないこと」の価値が大きい。

 ライバルだった春の王者・法大に1勝1分けとし、通算2勝2分けで勝ち点「3」に伸ばした早大。この日獲得した小さいようで大きいポイントが、優勝争いの分かれ目になるかもしれない。(神原英彰 / Hideaki Kanbara)