山形県酒田市にある東北公益文科大。2001年に開学した若い大学だが、ここにプロ注目の本格派右腕がいる。同大学初のプロ野…
山形県酒田市にある東北公益文科大。2001年に開学した若い大学だが、ここにプロ注目の本格派右腕がいる。同大学初のプロ野球選手誕生に大きな期待を寄せられているのが、赤上優人(あかがみ・ゆうと)だ。

最速153キロを誇る東北公益文科大の赤上優人
東北公益文科大野球部の全国大会出場はなし。そんな無名の新興野球部で最も豊富な実績を誇るのが横田謙人監督、50歳である。
横田監督は湘南で生まれ、小学生の時にアメリカ・サンタモニカに移り住み、大学まで過ごした。帰国後は社会人野球のローソンでプレー。指導者としては羽黒高校の監督として2004年の明治神宮大会でベスト4進出、2005年春のセンバツ大会にも出場し、山形県勢初の4強に導いた。
2013年から現職となり、山形の大学として初の全国大会出場とNPB選手輩出を目指している。
アメリカでの生活が長かったためか、練習メニューはすべて英語。「プリゲ」「メッジ」といった言葉が自然と選手たちから出る。ちなみに、「プリゲ」はプリゲームのことでシートノック、「メッジ」はスクリメージのことで紅白戦を意味する。
神奈川・瀬谷高校からやってきた齊藤虎太朗主務によると、新入生はまずこれらの用語を覚えることから始めるという。
鮮やかなオレンジとホワイトのツートンカラーのユニフォームは、横田監督がファンであるNFLのデンバー・ブロンコスを模している。
そんな異色のチームに現れた本格派右腕・赤上だが、角館高校(秋田)時代は遊撃手。1年夏に甲子園に出場し、3年夏は主力として県大会準優勝。チームメイトにプロ注目の投手・小木田敦也(現・TDK)がいたこともあり、中学時代までやっていた投手に重きを置かなかった。
大学でも遊撃手として入部した赤上だったが、横田監督が強肩を見込んで投手に転向させた。すると、球速はいきなり140キロを超え、ブランクを感じさせないピッチングを見せる。もともと内野手だっただけに「ピッチャーインフィールド(投内連携)やけん制はうまいです」と横田監督は言う。そんな赤上を下級生時から我慢強く起用し続けてきた。
そんななか、大きな転機となったのが2年春。南東北大学リーグで最大のライバルである東日本国際大との試合だ。赤上は延長タイブレークで片岡奨人(現・日本ハム)に満塁本塁打を浴び優勝を逃した。
「(春で引退する)先輩たちの野球を終わらせてしまった」と悔し涙を流した赤上だったが、その時、横田監督からハンカチを手渡され、「次は優勝して嬉し涙にしよう」と声をかけられた。この一戦がターニングポイントとなり、その後の成長の大きな糧となった。
赤上が東北公益文科大に進んだ理由は「公務員試験に強く、公務員講座も安く受けられるから」だったが、「あの試合からより本気で野球に取り組むようになりました」と振り返る。そうして翌春には、最速153キロをマークするまでになった。
急成長の要因には、横田監督の"型にはめない指導"も大きい。
「日本の(指導の)イメージとしては全員を型にはめがちですが、僕は基本的なポイントさえ間違っていなければ直しません。結果を残しているんだったら、直す必要はないでしょう。いい種に水を与えて成長させる。そのためにメンタルとフィジカルを強くしようという考えです。(全員に)『これが正しい指導法だ』というのはありません」
赤上の場合は、投球を始めた当初から肩が強いとわかっていたので「(トレーニングや食事で)球は自然と速くなると思いました」と球種を増やすことを課題にし、登板機会を多く与えて投手としての経験を積ませた。また、深呼吸を使ったビジュアライゼーション(イメージトレーニング)も教えた。
今年は大学野球の集大成として、全国の舞台でそのピッチングを披露するつもりだった。3月のオープン戦ではスカウトの前で150キロ超のストレートを連発するなど、調整は順調に進んでいた。
しかし、コロナ禍の影響によりリーグ戦と大学野球選手権が中止に。赤上は「みんな一緒なので仕方ないです」と悔しさを押し殺し、バーベルを使ったトレーニングや坂道ダッシュに励むなど、一から体づくりに励んだ。
ところが、秋のリーグ戦が決まっても全体練習や対外試合の許可がおりず、解禁になったのはリーグ戦前日。ぶっつけ本番で挑んだが、開幕週に血マメができるアクシデントに見舞われ、3周目には肩甲骨に違和感を覚えるなど本来の投球ができず、チームも2敗を喫した。
最終週の東日本国際大戦は優勝に向けてもう1敗も許されないなか、1回戦から気迫の投球を見せた。
「マウンド傾斜が低く、なかなか合いませんでした」と球速は140キロ台前半がほとんどだったが、それでもこの大一番に向けて隠していたというカーブを有効に使い好投。中盤のピンチでは一気にギアを上げ、この日最速となる146キロのストレートを投じるなど、7回を4安打1失点7奪三振でチームに勝利をもたらした。
だが、翌日の2回戦では6回から登板して2失点。逆転負けを喫し、優勝を逃す結果になったが、横田監督は「想像以上に成長してくれました」と赤上をねぎらい、こう続けた。
「こんなに伸びた子は初めてです。理解力があって、理屈っぽくなく素直です。聞く耳がある一方で、自分というものもしっかり持っている。次のステップでは力を出し切って、活躍してもらいたいです」
入学時には想像もしなかった運命の時が、刻一刻と迫っている。