「オープン球話」連載第35回【近鉄歴代ベスト投手は、鈴木啓示か野茂英雄か】――八重樫さんが選ぶ「球団別歴代ベストナイン」…

「オープン球話」連載第35回
【近鉄歴代ベスト投手は、鈴木啓示か野茂英雄か】
――八重樫さんが選ぶ「球団別歴代ベストナイン」も、前回までで12球団すべてが終了しました。でも、「この球団を忘れてはいけない」「大事な球団がもうひとつあるだろう」ということで、今回は超特別編として「近鉄バファローズベストナイン」を選んでいただきたいと思います。
八重樫 面白そうだね。近鉄にもいい選手はたくさんいたから。

1993年、勝利した野茂英雄と握手する鈴木啓示監督
――1949年の球団誕生から、2004年の球団消滅まで。歴代近鉄戦士たちを振り返ってください。まずはピッチャーからお願いします!
八重樫 ピッチャーで真っ先に浮かぶのは鈴木啓示さんなんですよね。近鉄の大エースといえば、やっぱり鈴木さんになるんじゃないのかな? 弱小時代からずっとひとりで頑張っていた。一度マウンドに上がったら、打たれても抑えても「絶対に代わらない」という姿勢が、いかにもピッチャーらしいピッチャーだったという印象があるんです。チーム内ではいろいろあったらしいんだけど、詳しい事情は僕は知らないから、やっぱり鈴木さんがベストですね。
――確かに鈴木さんには大エースの風格がありますが、一方で野茂英雄さんも忘れてはいけない存在だと思いますが......。
八重樫 もちろん、野茂も大投手ですよ。阿波野秀幸もいいピッチャーだった。特に野茂は捨てがたいんだけど、近鉄での活動年数を考えると野茂はわずか5年。でも、鈴木さんは20年もの間、近鉄ひと筋で317勝(238敗)という偉大な成績を残したわけだから、鈴木さんを推したいんです。
――わかりました。では、キャッチャーは?
八重樫 キャッチャーは梨田昌孝かな? 有田修三ともさんざん迷ったけど、梨田でいきたい。有田の場合は鈴木さんとのコンビで評価されたけど、多くの投手とコンビを組んで長い間マスクをかぶったのは梨田でしたから。
――「ありなしコンビ」と称されていた有田さんと梨田さんは、キャッチャーとしてのタイプは全然違うんですか?
八重樫 有田は内角主体の強気なリードが目立ったよね。梨田の場合はオーソドックスで、ピッチャーの特徴を生かしたリードだったかな? 彼の大きな特徴はスローイングなんです。肩を入れた独特な投げ方だったよね。最初から左肩を入れて、半身で構えているんです。あれは梨田特有のもので、彼だからできたもの。少年野球では決してマネしてはいけないものですけどね(笑)。
【大石大二郎、吉田剛の二遊間コンビ】
――続いて、内野陣をお願いします。
八重樫 ファーストは石井浩郎。小川亨さんと迷ったんだけど、個人的に石井のプレースタイルが好きなので彼にします。藤井寺球場のオープン戦で最初に見た時に、「いいバッターだな」って思ったんだよね。「右の和製大砲」でありながら、右投手の対応がすごく上手で、右方向への打球が見事だった。「いてまえ打線」を代表するひとりと言っていいと思うよ。
――では、二遊間は誰でしょう?
八重樫 セカンドは大石大二郎で、ショートは吉田剛かな? 大石は走攻守、満遍なく高いレベルだったからね。僕とはリーグが違ったけど、いつも一生懸命プレーしている印象があるんです。悪く言えば「遊びがない」んだけど、がむしゃらな全力プレーは、見ていて応援したくなる選手でした。
昔の選手はプレーに余裕があるから表情に変化がなかったけど、今の選手は余裕がない分、表情でごまかしている気がするんですよ。その点、大石のプレースタイルは全力だけど淡々としていてよかったな。
――なるほど。かつては「グラウンドで白い歯を見せるな」という考えが主流でしたけど、最近ではそうではないですからね。
八重樫 バッテリーの立場からしたら、「エラーしたのに笑うなよ」と腹が立ちますよ。ショボンとしていたら「次は頑張れよ」って思えるけど、ヘラヘラしていたら「反省しろ!」という気持ちになるから(笑)。何でもかんでも「昔はよかった」と言うつもりはないけど、その点は以前のスタイルのほうがよかったと思いますね。
――では、ショート・吉田さんの理由は?
八重樫 内外野をこなすユーティリティープレーヤーの印象が強いんだけど、僕は「いいショートだな」と思った記憶があるんです。「いてまえ打線」の中では目立たない存在だったかもしれないけど、シュアな打撃もよかった。これは迷いなく決まったね。
【個性的な選手たちがのびのびプレーする集団】
――では、サードは?
八重樫 羽田耕一、金村義明も浮かんだけど、中村紀洋でしょう。バッティングはもちろんだけど、守備もうまかったし。石井浩郎と同じように、中村も「いてまえ打線」の象徴的存在だったよね。2001年の近鉄最後の優勝にも欠かせないメンバーだったし、ファンも異存はないんじゃないかな?
――わかりました。外野手3人の発表をお願いします。
八重樫 外野手は悩んだんだよね。栗橋茂、新井宏昌、ラルフ・ブライアント、鈴木貴久、村上隆行、大村直之......。でも、新井はすでに「ホークスベストナイン」で選んでいる。一瞬、「二球団同時選出もアリかな?」って思ったけど、どうせなら多くの選手を紹介したいから、ここは泣く泣く選外にしたんです。
――新井さんの打撃について大絶賛していましたもんね。では、外野手部門の最終結果はどうなりましたか?
八重樫 レフト・栗橋茂、センター・平野光泰、ライト・鈴木貴久という布陣にしようかな。栗橋、平野さんは西本幸雄監督時代の中心選手。平野さんは、すごくヤンチャな印象があったんだけど、グラウンドでは黙々とプレーしてプロらしい選手だったね。鈴木は若くして亡くなってしまったけど好きな選手でしたよ。北海道出身らしいというか、感情を表に出さず、でも内心では熱いものを持っていたいい選手だったよね。
――最後に、「歴代ベスト指名打者」を教えてください。
八重樫 タフィ・ローズと迷った末にブライアントにしました。僕はまだ現役だったけど、1988年、1989年の大活躍は、ひとりの野球ファンとして興奮したからね。一度、オープン戦で僕がファーストを守っている時にブライアントの打球を捕球したことがあるんだけど、ものすごい当たりでビックリしたよ(笑)。打球を「怖い」と思ったのは、野球をやってきて初めてだったね。ということで、今回はこんな打順を考えてみました。
1.平野光泰(中)
2.大石大二郎(二)
3.ブライアント(指)
4.石井浩郎(一)
5.中村紀洋(三)
6.栗橋茂(左)
7.鈴木貴久(右)
8.梨田昌孝(捕)
9.吉田剛(遊)
P.鈴木啓示
――冒頭でお話ししたように、2004年限りで近鉄バファローズを消滅してしまいました。あらためて、「近鉄」とはどんな球団だった印象がありますか?
八重樫 三原脩さんや仰木彬さんが監督をやったからなのか、昔の西鉄ライオンズの雰囲気というのか、個性的な「野武士軍団」というイメージが強いんですよ。西本幸雄監督時代も強いチームだったし、「いてまえ打線」は見ていて面白かったし、個性的な選手が集った集団だった。そんな印象ですね。