「明日へのエールプロジェクト」の一環で、学生とアスリートが今とこれからを一緒に語り合う「オンラインエール授業」。

第33回目の講師は、日本体育大学教授で相撲部監督を務める斎藤一雄さんだ。アマチュア相撲界で選手として1992年世界相撲選手権大会個人優勝(無差別級)など多くのタイトルを獲得し、指導者としては日体大を学生日本一に導いた。全国高校相撲部の現役部員約75名や顧問の教員が集まり、今のリアルな悩みや質問に答えた。

「押さば引け、引かば押せ」

小学生の時から相撲を始めた齋藤さん。高校時代は「相撲漬けの毎日だった」と振り返った。1年365日、休みも少なく、合宿の時は午前4時間、午後4時間、1日8時間稽古していたとのこと。「インターハイで個人優勝、団体優勝を目標に毎日を必死に生きてました(笑)」と話すと「1日が終わり、寝る時だけが幸せだったが、今、思い返せば幸せな時間だったと思う」と続けた。

そして「正直、相撲は好きでなかった(笑)」と当時に心境を明かすと「負けたくない」。その気持ち一つで稽古に明け暮れていた。

まず技術面に関する質疑応答からスタートした。

「自分より10キロ、軽い相手にもっていかれてしまう。相手とぶつかった時に技をかけられない方法を教えて欲しい?」と訊かれると「相撲の基本は押し。相撲には『押さば押せ、引かば押せ』という格言がある。柔道であれば『押さば引け、引かば押せ』と相手の動きに自分の動きを合わせるが、相撲は『押しは相撲の極意なり』という言葉があり、相手が押そうが、引こうがどんどん押せというもの。まずは基本として押しを学ばないと通用はしない」と答えると「技をかけられない方法、防御を学ぶのであれば、相撲の場合は攻撃が最大の防御になる」と続けた。

また「(10キロ軽い相手については)おそらく体の使い方が相手の方が上手だと思うので、四股、鉄砲、すり足など、ぶつかり稽古でしっかりと学んで欲しい」とアドバイスを送った。

そして会話を続ける中で「土俵際で押しが弱く粘られてしまうことがある」と高校生が口にすると、齊藤さんは「それは土俵際で重心が高くなってしまうことで逆転技をされてしまっている。重心を上げないようにして相手に力を伝える技術を覚えて欲しい」と助言。

「心は足し算ではなく、掛け算で影響するもの」

終盤には、メンタルを中心としたコーナーへ移った。

「試合や稽古で勝てない時は、気持ちをどう切り替えればいいのか?」という悩みに対して「勝つことは難しい。私も結果を残せない時期もあった。強い選手も、いつも勝っている訳ではないし、勝った時はどこか良かったのか、負けた時はどこが悪かったのかを考えて行動することが大事になる。プロ野球界で活躍をされた野村克也元監督が『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』という言葉を残しているが、負けることには必ず理由があるからこそ、私は、この言葉を大切にしている」と悪い時こそ、自分と向き合うことの重要性を説いた。

次に「気持ちを強くもつには、どうしたらいいのか?」という悩みには「これは非常に大きなテーマで、『心技体』という言葉があるが、私の考え方は、心は足し算ではなく、掛け算で影響するものだと思っている。なぜかと言えば、心がゼロだと全部ゼロになってしまうから。それだけ心の充実は大切になる。具体例としては、大相撲で何十連勝を重ねた力士がいるが、彼らは一度負けると連敗をしてしまったり、一度、勝っても次に負けてしまったりする。そこには数学でいう確率論は通用しない。それだけメンタルが大切」と言葉に力を込めた。

誰もが勝ちたいと思う気持ちは一緒だが、大きな大会になればなるほど「技術よりも、勝ちたい気持ちが(勝敗を)左右すると思っている」と勝負にかける思いや自分の目標に向かって努力することが相撲道において重要になることを示した。

また、将来の夢や進路に関する質問が届く。「将来、中学校の先生になりたいが、そのためにはどういった勉強をすればいいのか?」。齊藤さんは「勉強は座学のイメージがあるが、自分が置かれている環境でどうする必要があるのかを考えて行動することが一番の勉強だと思う。学生時代は記憶する能力が良い人や物事を吸収する能力が高い人が頭が良いと言われるが、社会に出ると、それを使える能力が高い人ほど頭が良いと言われる。今、できることを続けることが大切になる。誰かのおかげで相撲ができる環境で生活ができていることや学校にこさせてもらっていることに、感謝の気持ちをもって1日1日を大切にして欲しい。人生というのは1枚1枚の紙を積み重ねていくようなもの、その積み重ねで人生は大きく変わってくるので相撲を通じて勉強を重ねれば、きっと良い中学校の先生になると思う」と感謝の心を持つこと、そして毎日の積み重ねの大切さを伝えた。

齋藤さんの言葉に、新しい明日へと立ち向かう高校生は表情を引き締めながらしっかりと聞き入っていた。

齋藤一雄さんが語る“明日へのエール”

最後に“明日へのエール”を求められた斎藤さんは「自分を支えてくれる人に感謝の気持ちをもつことを忘れず、1日1日を大切に過ごして欲しい。コロナ禍でも学べることはたくさんあると思う。後々の人生で『コロナがあったから今の自分があるんだ』と言えるような時間を過ごせるように頑張って欲しい」とエールを送ると、参加者それぞれが笑顔でガッツポーズを取り記念撮影をし、オンラインエール授業は終了した。

今後もさまざまな競技によって配信される「オンラインエール授業」。

これからも、全国の同世代の仲間と想いを共有しながら、「今とこれから」を少しでも前向きにしていけるエールを送り続ける。