久保建英(ビジャレアル)は少年時代、青とえんじのユニフォームを身にまとい、カンプノウのピッチに立つ日を夢見ていた。バル…
久保建英(ビジャレアル)は少年時代、青とえんじのユニフォームを身にまとい、カンプノウのピッチに立つ日を夢見ていた。バルセロナの選手としての薫陶を受け、精神とプレースタイルを叩き込まれる。それは特別な体験だったはずだ。
そこで敵として立ち向かう--。久保はノスタルジーに酔うタイプではない。しかし、それはひとつのドラマだろう。
9月27日、バルサは開幕戦をビジャレアルと戦う。コロナ禍の影響で8月まで昨シーズンを戦っていたことで、特例で第3節からの開幕になった。新たにチームを率いることになったロナルド・クーマン監督の新体制では、リオネル・メッシの退団騒動もあり、その初陣は注目される。
そして、久保は古巣を相手にどのように戦うのか。

前節エイバル戦は84分から途中出場した久保建英(ビジャレアル)
久保は第1節、第2節と途中出場が続いている。バルサ戦も交代出場になる可能性は高いだろう。ただ、それは他の攻撃的選手が昨シーズンもともに戦ったメンバーであり、その完成度を考慮したもので、実力が劣っているわけではない。
「タケ(久保)は、準備はできていた。サム(サムエル・チュクウェゼ)は前半かなりハードワークし、ガソリンが切れかかっていたので、そこでタケを投入することにした。右サイドでよく働いて、ゴールチャンスを作ったし、あと一歩のところだった」
エイバル戦後、ビジャレアルのウナイ・エメリは84分に投入した久保の交代起用について、そう説明している。
久保は右サイドだけでなく、トップや左サイドでも、違いを見せられる。事実、第1節のウエスカ戦はトップ下で交代出場。適応力が高く、どんなシステムでも求められるプレーができる。その点ではチーム屈指と言えるだろう。試合展開がオープンになった時、ラインを破るようなプレーでカオスを与えられる。特筆すべきはそのふてぶてしさで、交代で入ってもすぐに試合のリズムに入り、ビッグプレーをやってのける。
エイバル戦も、10分に満たない出場ながら、いくつもチャンスを作った。
右サイドの縦パスをディフェンスの背後で受けると、追走してきた相手に対し、いったんスピードを緩めてから加速する緩急差で置き去りにし、シュート性クロスで決定機を作り出していた。ポルトガル代表のケビン・ロドリゲスを手玉に取った形で、ワンプレーで非凡さを証明した。
ポジティブに考えれば、ジョーカーになっている。バルサ戦も十分に脅威になるだろう。
バルサの左サイドバック、ジョルディ・アルバは、攻撃に関しては今も欧州屈指の技量を誇るが、ディフェンスは衰えも指摘されている。受け身になった時のバルサのバックラインは脆く、右サイドバックのセルジ・ロベルトも本職ではないだけに、守備面で対応が後手に回ることがある。GKも、守護神マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンは膝のケガで不在の状況だ。
ビジャレアルの攻撃力は侮れない。
エースであるスペイン代表FWジェラール・モレノは、エイバル戦でも鮮やかなゴールを決めている。昨シーズンはサラ賞(スペイン人得点王)を受賞。バルサのジェラール・ピケ、クレマン・ラングレと対峙しても一歩も引けを取らないだろう。終盤、スクランブルになった時間帯で、切り札として投入された久保と絡むことができたら--。
新たにビジャレアルに移籍した久保には、途中出場が続いていることで懐疑的な意見もあるだろう。しかし、右サイド、左サイド、トップ下という3つのポジションで交代の1、2番手となっている状況は、少しも悲観する必要はない。
右サイドで久保とポジションを争うチュクウェゼは、ナイジェリア代表でも昨シーズンからのレギュラー。昨季リーグ戦5位だったチーム内の競争は激しく、準レギュラーだったハビエル・オンティベロスは、久保に押し出される形で、レンタル移籍が濃厚になっている。フェルナンド・ニーニョ、アレックス・バエナという生え抜きの若手や、まもなく復帰予定のコロンビア代表FWカルロス・バッカなど有力選手は多く、ピッチに立つだけでも簡単ではない状況なのだ。
なにより、久保は高いレベルの選手とプレーすることで、刺激を受けている。マジョルカ時代ではありえない水準で、モレノを筆頭にパコ・アルカセル、ダニエル・パレホ、パウ・トーレスの4人は、スペイン国内トップクラスの選手だ。今は、さらに成長するためのプロセスと言える。
先発であれ途中出場であれ、久保のプレーは変わらない。そのメンタルは、エイバルの敵将ホセ・ルイス・メンディリバルが激賞していたように、特別なものである。明朗闊達だが、ふてぶてしく、泰然自若とし、大舞台になるほど強さを見せるタイプだろう。
古巣バルサとの一戦は、久保が覚醒するための触媒になるかもしれない。