バルセロナのロナルド・クーマン新監督は、極めて現実的な志向の持ち主である。勝つためにはいくらでも非情になれる。スペクタ…

 バルセロナのロナルド・クーマン新監督は、極めて現実的な志向の持ち主である。勝つためにはいくらでも非情になれる。スペクタクルに酔うようなタイプではない。

「近年のバルサとは、違ったチームになるだろう。ボールを回し、スペースを見つけ、ライン間でプレーし、敵ボランチの背後に侵入することを狙うのは同じだが、よりディフェンシブな戦いに見えるかもしれない。このチームは、そうやって戦えるだけの選手がいる」

 クーマンはそう断言している。新生バルサの戦いは、大きく変わることになりそうだ。

 9月19日、バルサはシーズン開幕を前に、恒例の前哨戦・ガンペール杯を戦っている。昇格組のエルチェに対し、1-0の勝利。ジムナスティック・タラゴナ戦、ジローナ戦に続き、格下相手とは言え3連勝でスタートを切ることになった。
 
 この3試合で、採用するシステムや選手のポジションが見えてきた。 現実主義者のクーマンは、主にバランスに優れる4-2-3-1を採用している。つまり、バルサの伝統である4-3-3を捨てることになったわけだが、すでにその影響は出ている。

「構想に入っていないので、レンタル移籍で出たほうがいい」

 クーマンは、ラ・マシア育ちの若手リキ・プッチにそう伝えたという。

 プッチは小柄だがボールプレーに優れるインサイドハーフで、シャビ・エルナンデス、アンドレス・イニエスタの系譜を継ぐMFである。しかし、パワーや高さ、守備力も求められるダブルボランチでは、先発の見込みは低い。移籍先としてアヤックスなどが浮上したが、プッチ本人は厳しい状況を承知で、チームに残る意思を伝えたという。

 ボランチは、フレンキー・デヨング、セルヒオ・ブスケッツ、ミラレム・ピャニッチの3人が使いまわされることになるが、未知数だ。

 そして前線には、大きな変動があった。



バルセロナからアトレティコ・マドリードへの移籍が発表されたルイス・スアレス

 ここ数年、チームのエースストライカーを務めてきたルイス・スアレスが、自由契約でアトレティコ・マドリードへ移籍することが決まったのだ。

 クーマンからは電話で戦力外を通告されていた。タイトル獲得など条件をクリアした場合、移籍金600万ユーロ(約7億2000万円)が支払われる規定だ(バルセロナは当初、移籍金1000万ユーロを要求したが、はねつけられ、高額の給料支払いを回避するため、折れることにした)。

 はたして、リーグ優勝を争うチームにエースをプレゼントすべきだったのか。2015-16シーズン、スアレスはリーグ戦40ゴールでリーガ得点王に輝いている。昨シーズンも、ケガにもかかわらず、カップ戦を含めて21得点を記録。彼以上のストライカーを探すのは至難の業だろう。昨シーズン途中で加入のFWマルティン・ブライスワイトなど、とっくに構想外だ。

 とは言え、クーマン監督は代役のFWは考えていない。

 右にアントワーヌ・グリーズマン、0トップにリオネル・メッシ、トップ下にコウチーニョ、左にアンス・ファティもしくはウスマン・デンベレ。いわゆるストライカーは起用しない、4人のアタッカーで攻撃を仕掛ける布陣になるだろう。

 退団騒動で渦中の人になったメッシは、ジョゼップ・マリア・バルトメウ会長とは決裂しても、プレーに集中しているように映る。レンタル先のバイエルン・ミュンヘンから復帰したコウチーニョも好調で、どうやらクーマンの信頼が厚いようだ。また、ファティは17歳でスペイン代表デビューゴールを挙げるなど、覚醒のシーズンとなる予感はある。

 他に台頭著しいのが、ポルトガル1部リーグのブラガから獲得した20歳の左利きアタッカー、フランシスコ・トリンコンだろう。ポルトガル代表のルーキーは、3試合で計134分プレー。右サイド、もしくはトップ下でバックアッパーの地位を勝ち取りつつある。スペインU―21代表、17歳のペドリも、0トップかトップ下で食い込んでいるが、移籍の噂があるオランダ代表FWメンフィス・デパイ(リヨン)を獲得した場合、レンタルで出されるだろう。

 現時点で、悪くない陣容にも見える。しかしながら、リーグ戦やチャンピオンズリーグで上位のクラブと対戦したときはどうなるか。

 バックラインは、右からセルジ・ロベルト、ジェラール・ピケ、ラングレ、ジョルディ・アルバ。GKはノルベルト・ムラーラ・ネトが基本になるだろう。マルク=アンドレ・テア・シュテーゲンは、膝のケガで序盤戦は棒に振ることになる。ネウソン・セメドは3500万ユーロ(約42億円)でウルバーハンプトンへの移籍が決定的で、そこで得た移籍金をアヤックスの19歳、アメリカ代表の右SBセルジーニョ・デストの獲得に回す手はずになっている。他にジュニオール・フィルポ、ムサ・ワゲ、ジャン=クレール・トディポを売却し、マンチェスター・シティの19歳、スペイン代表CBエリック・ガルシアを狙う格好だ。

 いずれにせよ、守りに入って強い面子ではない。インテンシティの勝負では劣る。あくまでボールを支配し、「攻撃こそ最大の防御なり」の陣容だ。これでクーマンの言う「ディフェンシブな戦い」は成り立つのか。守りが耐え切れないと攻撃陣は孤立し、前線の選手はグリーズマン以外、守備を持ち味にしていない。昨シーズン、バイエルン戦で力勝負を挑み、2-8と惨敗した悪夢がよぎる。

「あの試合は忘れられない。試合直後、もうサッカーがしたくなくなったほどで、最低の夏を過ごすことになった」

 4人のキャプテンのひとりであるセルジ・ロベルトは言う。

 9月27日、バルサは本拠地カンプノウで久保建英を擁するビジャレアルとリーガ・エスパニョーラ開幕戦を迎える。8月まで昨シーズンを戦っていたことで、開幕は第3節からになった。

 クーマンはストイックに結果を追求する戦いをするだけに、たとえ引き分けでも批判は噴出するだろう。はたして、幸先のいいスタートを切れるのか。