来春の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けて、各国代表のメジャーリーガーの参加が続々と明らかになって…

来春の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けて、各国代表のメジャーリーガーの参加が続々と明らかになっている。他国ではメジャーリーガーが続々と出場を表明している中、なぜ日本代表には困難なのか。それには、いくつもの複雑な理由がある。

■一流メジャーリーガーが各国代表に続々名乗りを上げるも…

 来春の第4回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)に向けて、各国代表のメジャーリーガーの参加が続々と明らかになっている。22日(日本時間23日)には、タイガースの主砲で12年に3冠王に輝いたミゲル・カブレラ内野手がベネズエラ代表として出場する意向を自身のツイッターで表明。カブレラはこれが4大会連続出場で、悲願の初優勝を目指すことになる。

 一方、2大会ぶりの優勝を目指す日本代表では、現時点で出場を明言しているメジャーリーガーはいない。小久保裕紀監督は、MLB所属選手は王座奪回へ必要な戦力と訴えているが、ほとんどの選手が出場を見送る可能性が高い。他国ではメジャーリーガーが続々と出場を表明している中、なぜ日本代表には困難なのか。それには、いくつもの複雑な理由がある。

 前回大会、侍ジャパンは初めてMLB球団所属選手なしで本戦に臨み、3連覇を逃した。準決勝で敗れたプエルトリコ、そして優勝したドミニカ共和国には、メジャーでプレーするスター選手が名前を連ねていた。ベネズエラを含めた中南米諸国は、来春は前回大会よりもさらに豪華な顔ぶれを集める可能性が高く、これまでは本気度に欠けると見られていた米国代表も、今回は一味違うメンバー構成となりそうだ。

 日本と他国の違いは何なのか。選手1人1人の状況を見ていく必要がある。

 まず、来季新たなチームでシーズンを迎える選手は、WBCに参加しづらいと言えるだろう。可能性があるのは、レッドソックスからFAとなった上原浩治投手、そしてアストロズに移籍した青木宣親外野手だ。WBC出場のためには、直前の宮崎キャンプも含めれば2月中からチームを離れなければいいけない。2月中旬からのスプリング・トレーニングはほとんど不在となり、新チームでアピールの場を失えば、シーズン中の起用法に大きな影響が出る可能性もある。

 上原はレッドソックスと再契約となれば、出場の可能性が高まってくる。すでに首脳陣はベテラン右腕の実力を熟知しており、キャンプでアピールする必要はないからだ。ただ、42歳で来季開幕を迎える右腕のコンディション維持は大きな課題。疲労でシーズン終盤のパフォーマンスに影響が出る可能性も考えられるため、球団がどう判断するか。もちろん、他球団に移籍しても上原の実力はメジャーで十分に知られているだけに、出場をOKとするチームはあるかもしれないが、ハードルは決して低くない。

■今大会はメジャーの超一流投手が参加を表明

 また、青木はアストロズに移籍したものの、チームはレギュラー候補の外野手を補強したため、再びFAとなる可能性が浮上している。FAとなれば去就長期化は必至。WBC出場へ大きな影響が出る。さらに、アストロズに残っても、他球団と契約しても、レギュラー獲得へ向けてアピールが必要な立場となることは確かなだけに、仮に球団がOKを出しても、青木がどう判断するか。本人は前向きとの報道もあるが、シーズンへの影響を考えて、WBC出場を断念しなければいけないかもしれない。5年連続でマイナー契約からメジャー昇格を掴んでいる川崎宗則内野手も、米球界に残るのであればアピールが必要な立場だ。

 そして、小久保監督が最も招集したいのは、メジャーの各球団で存在感を見せている先発投手たちだろう。岩隈久志(マリナーズ)、ダルビッシュ有(レンジャーズ)、田中将大(ヤンキース)、前田健太(ドジャース)の4人はWBC出場経験もあり、メジャーの強打者たちと日頃から対戦して抑えてきた経験もあることから、確実に計算できる戦力と言える。招集できれば、戦力大幅アップは間違いない。

 ただ、先発投手の招集は野手と比べると困難だ。米国、中南米、そして韓国代表として参加が決まっているメジャーリーガーは野手がほとんど。肩肘の酷使を嫌うメジャーにおいて、例年ならばスプリング・トレーニング中の時期に真剣勝負のマウンドに上がることは「リスク」と取られる。先発投手にはシーズン200イニングの登板が求められるが、故障の可能性が高まるようなことは極力避けたい。前回大会までを見ても、エース級の先発投手でWBCに出場したメジャーリーガーは少ない。

 一方で、今大会は初めて、MLBでも超一流と言われる先発投手が参加する可能性も伝えられている。規則変更で予備登録10人の中から選手の入れ替えが可能となり、準決勝や決勝の1試合のみの登板なども出来るようになる見込みで、これが追い風となっていることは間違いない。当然、これは日本人投手にも当てはまるが、それぞれの事情は大きく異なる。

 これまで、各国代表で参加に前向きと報じられているのは、今季2度目のサイ・ヤング賞に輝いたマックス・シャーザー(ナショナルズ、米国)、前回大会は出場しなかったマリナーズのエース右腕フェリックス・ヘルナンデス(ベネズエラ)。さらに、今季18勝を挙げたジャイアンツのジョニー・クエト(ドミニカ共和国)も参加が予想されている。もっとも、シャーザーは2021年まで7年総額2億1000万ドル(約238億円)、ヘルナンデスは19年まで7年総額1億7500万ドル(約198億円)、クエトは21年まで6年総額1億3000万ドル(約147億円)と長期契約を結んでいる選手ばかり。当然、シーズンでの活躍が義務付けられているが、来季のパフォーマンスが今後の野球人生に大きく影響することはない。

■日本人先発投手4人が抱える事情とは…

 しかし、日本人の4投手はそうはいかない。岩隈は1年契約で、今季と同様にイニング数に応じて翌年の契約が自動的に決まる「べスティング・オプション」がついている。16年と17年で計324イニングに達することが条件で、今季の199イニングを差し引いて125イニングを投げれば、18年は年俸1500万ドル(約17億円)で自動更新となる。ただ、届かなければ18年は球団が選択権を持つ1000万ドル(約11億3000万円)の契約で、行使されなければFAとなってしまう。また、150イニングから10イニング投げるごとに50万ドル(約5600万円)のインセンティブ(出来高)もついており、シーズンで活躍できるかは死活問題。WBCでの故障などは避けたいところだろう。

 死活問題という点で言えば、前田も同じだ。昨オフの契約前に身体検査で肩肘の懸念を指摘された右腕は、基本年俸を低く抑える代わりに試合数とイニング数に応じた出来高を厚くする異例の契約を結んでいる。今季は32試合登板で175回2/3というフル回転で総額1290万ドル(約14億6000万円)を手にしたが、基本給は1年300万ドル(約3億4000万円)。シーズンに影響が出て、手にする報酬は大幅に減ってしまう。

 また、ダルビッシュと田中も来季はターニングポイントとなる。ダルビッシュは6年契約の最終年。来オフにFAとなれば、大争奪戦が繰り広げられると予想されている。現時点でも、メジャートップクラスの6年総額2億ドル(約226億円)程度の契約になると米メディアは報じているが、サイ・ヤング賞に絡むような結果を残せば、さらに跳ね上がる可能性もある。逆に、成績が低迷すれば、価値が大きく下がるかもしれない。メジャー生活で最も重要な1年とも言えるシーズンだけに、万全の準備が必要となる。また、今季は通称トミー・ジョン手術から復帰1年目だったことを考えても、肩肘に余計な負担をかけさせたくないというのが、球団の本音だろう。

 田中は7年総額1億5500万ドル(約175億円)の大型契約の4年目となるが、来オフに自らオプトアウト(契約破棄)してFAとなれる権利が盛り込まれている。今季は31試合登板で14勝4敗、リーグ3位の防御率3.07という好成績を残したが、来季も同様の数字をマークすれば、現在よりも好条件の契約をつかめる可能性が高い。FA市場に出れば、ダルビッシュと同じように大争奪戦となるだけに、エース級の活躍を続けたいところ。スプリング・トレーニングの過ごし方は重要になる。

 王座奪回へ、メジャーリーガーを招集できるかは大きな鍵となる。最終的にどのようなメンバー構成になるのか、興味深いところだ。