9月17日に東京ドームで行なわれた巨人vs阪神戦で、巨人の若林晃弘のあるプレーが物議を醸した。1回表、阪神は2死満塁の…

 9月17日に東京ドームで行なわれた巨人vs阪神戦で、巨人の若林晃弘のあるプレーが物議を醸した。1回表、阪神は2死満塁の好機で、木浪聖也がセカンド方向に高いバウンドのゴロを放つ。それを捕球しようと前に出てきた若林と、一塁走者の陽川尚将が接触すると、審判は陽川の「守備妨害」としてアウトを宣告した。

 若林は陽川と接触したことで左手からグラブが抜けて捕球できなかったわけだが、このプレーに対して、SNS上では「わざと左手を差し出したように見える」「むしろ『走塁妨害』では?」という声が上がった。しかし一方で、故意に走路を塞がなければ守備が優先されることもあり、「守備妨害を誘った若林の頭脳プレー」といった意見も多かった。

 一見、「ずるい」と受け取られるプレーでも、勝利を引き寄せるための「したたかなプレー」は野球の醍醐味のひとつだ。

 そこで真っ先に浮かぶのは、元広島のキャッチャー、達川光男のボールが「当たったフリ」だろう。時には自分で皮膚をつねってあざを作った......というエピソードもあるが、そのアピールぶりがテレビ番組でも紹介されて"グラウンドの詐欺師"という異名までついてしまった。



デッドボールをアピールする広島選手時代の達川

 達川といえば、ベストナインに3回、ゴールデングラブ賞に3回輝き、1984年のカープ日本一にも貢献した名キャッチャー。普段の陽気なキャラクターもあるだろうが、名選手が何としても塁に出ようとする必死さが伝わるからこそ、ファンも温かく見ていたのだろう。

 相手を"出し抜く"プレーでは、「隠し球」も欠かせない。その名の通り、野手が走者に気づかれないようにボールを隠し、走者が塁から離れた時に走者をタッチアウトにすること。1970年に4度成功させた大下剛史(東映フライヤーズ)をはじめ、現在は巨人の一軍ヘッドコーチを務める元木大介、2001年に清原和博(巨人)をアウトにした元横浜の佐伯貴弘などが有名だ。

 プロ野球で隠し球が最後に見られたのは、2009年6月30日のソフトバンクvsオリックス戦(ヤフードーム)でのこと。2回裏、無死一塁の場面でソフトバンクの本多雄一が送りバントをした際に、オリックスのセカンド・山崎浩司が一塁のベースカバーに入って捕球。その後、素知らぬ顔で二塁方向へ歩いていき、隠し球で二塁走者の田上秀則をタッチアウトにした。

 ちなみに、山崎は広島時代の2007年にも対巨人戦で阿部慎之助をアウトにしており、両リーグで隠し球を成功させた男になった。しかし相手を「だます」印象が強いからか、この2009年を最後に隠し球は封印され、トリックプレーも技術やとっさの判断による好プレーへと毛色を変えていった。

 元日本ハムの新庄剛志や阪神の福留孝介など、名外野手が「打球を捕れるフリ」をして走者の進塁を防ぐプレーはよく見られるようになったが、逆に「送球が来ないと思わせるプレー」もあった。

 2017年5月25日の西武vs日本ハム戦(大宮公園)、5回裏2死一、二塁の場面。西武の栗山巧がライトに適時打を放つと、一塁ランナーのメヒアが三塁に向かったため、打球を捕った岡大海が三塁へ送球。しかし三塁手のレアードは棒立ちで送球が来ないと思わせ、走るスピードを緩めたメヒアを三塁でタッチアウトにした。

 また、「わざとワンバウンドさせる捕球」もよく見かけることがあるだろう。中でも、2006年6月14日の楽天戦での、阪神のキャッチャー・矢野燿大(現・阪神監督)の見せたプレーを覚えているファンは多いはずだ。

 6回裏無死一、二塁で楽天の沖原佳典の送りバントが小フライになると、矢野がわざとワンバウンドさせてから捕球して三塁を封殺。さらに二塁、一塁と転送されて鮮やかなトリプルプレーが完成した。

 こういったプレーはキャッチャーのバント処理で出ることが多いが、昨シーズンのロッテでは、キャッチャーの田村龍弘とセカンドの中村奨吾の「連携頭脳プレー」も見事だった。7月20日の日本ハム戦(札幌ドーム)の6回裏、無死一塁で日本ハム・石井一成の送りバントが小フライになると、田村がわざとワンバウンドさせてから捕球して一塁に転送した。

 一塁のベースカバーに入った中村は、ベースから足を外した状態で捕球し、帰塁した一塁走者にタッチ。その後にベースを踏んで打者走者もアウトにして併殺を完成させた。ベースを踏んだ状態で捕球していたら、打者走者のみがアウトになっていた場面。試合を見ていたファンも「一体何が起きたのか?」と状況を把握できず、球場のざわつきもしばらく収まらなかった。

 広島のキャッチャー・石原慶幸も、とっさの判断でピンチを脱したことがある。2013年5月7日のDeNA戦(マツダスタジアム)、6回表2死一塁の場面で、ピッチャー・久本祐一のボールを石原がボールを捕球し損なう。転がったボールがバッターボックスの白線と重なったため、石原は見失ってしまった。

 この様子を見た一塁ランナーの石川雄洋は、二塁へ進もうとスタートを切るそぶりを見せた。しかし石原は、砂を鷲づかみしてボールをつかんだフリをして石川を視線でけん制し、進塁を防いだ。DeNAの当時の指揮官、中畑清も笑顔になったプレーは『一握の砂』と呼ばれ、ファンの間で語り継がれている。

 これらのトリックプレーは、ルール上は問題ないとはいえ、賛否が分かれることもあるだろう。失敗した場合のリスクもあるが、成功すれば流れを引き寄せられるプレーであり、緊迫した試合で見られるこそ大きく盛り上がる。「この場面では、こんなトリックプレーが見られるかもしれない」などと想像しながら、試合を見ることも一興だ。