「明日へのエールプロジェクト」の一環で、学生とアスリートが今とこれからを一緒に語り合う「オンラインエール授業」。第20回目の講師は、元セーリング選手として国内外で数々の大会で活躍をした関一人さんだ。高校時代はインターハイ・国体に出場し、後に…

「明日へのエールプロジェクト」の一環で、学生とアスリートが今とこれからを一緒に語り合う「オンラインエール授業」。第20回目の講師は、元セーリング選手として国内外で数々の大会で活躍をした関一人さんだ。高校時代はインターハイ・国体に出場し、後に国際大会で優秀な成績を収め、2004年アテネオリンピックでは銅メダルを獲得した。現在はトヨタ自動車セーリングチーム監督兼470級コーチを務めている。全国高校ヨット部の現役部員約55名や顧問の教員が集まり、今のリアルな悩みや質問に答えた。

「いつも通りのことを、いつも通りにやる」

画面に登場した関さんは「少しでも有意義な時間になったと思えるような時間にしたい。画面上なので、緊張していても、していなくても、分からないので、いつもの通りでいて欲しい(笑)」と集まった高校生たちを和ませた。

話題は関さんの高校時代に。「オリンピックに出場したくて、最初はニュージーランドに留学をしようと考えていた。オリンピックに出場するには、高校、大学を出て、会社に入らないといけないと思っていた(笑)」と話すと「とにかく同年代には絶対に負けたくないと思いをもって入学し、インターハイ、国体、全日本の3大会に優勝することを目標にしていた」と続けた。

その中、現在に至るまでのキャリアに影響を与えたのは「毎日、海面で練習することが出来たので、毎日が楽しかったことが一番。もう一つは同級生と切磋琢磨できたことで、友情というか人間関係が非常に充実していた」と仲間の存在の大きさを口にした。

早速、質疑応答のコーナーがスタート。技術面での質問では「試合前は、どういう気持ちにしているのか?」と訊かれると、関さんは「特別なことだと思わず、いつも通りのことをいつも通りにできるようにと試合に臨んでいる」と答えた。次に「波のない湾内で練習しているため、波が高い時に失速しないようにするには?」という悩みについては「気持ちは分かる。高校の時には霞ケ浦で乗っていて湖ということもあり波がなかった。ただ試合は海。湾の外に出れば必ず波がある。私の場合は『波がある、波がない』をあまり意識しないようにしていた。やらなければいけないことをちゃんとやる。基本的には波に関係なく船を揺らさないことを意識して、常に練習をして欲しい。その意識さえあればレースの前に、波がある場所にいった時に船を揺らさないように動くことが、波に対する体の使い方につながっていくので気にしなくてもいいと思う」と助言。ヨットの教本を呼んでみても理解することに難しい点はある。実際の練習の中で経験を積むことが近道となっていることもある。関さんの送る言葉に若き船乗りたちは光明が見えたようだ。

「自分次第で変われるのがセーリングの世界」

終盤になると精神面を中心とした質問が飛ぶ。「練習中に集中力を維持させる方法について?」を訊かれると、「多分、練習をこなす練習になっていると思う。僕の場合は『こんなに海の上にいられるんだ』とポジティブに考えることを気にしていた。コロナの影響で練習が出来ない期間があったと思うけど、今、それを考えると練習が出来ていて、海の上にいけるからハッピーだよね。一人だったら練習に飽きてしまうこともあるけど、それより海に出られないことが嫌だと思うことが多かった」と答えた。

そして「国際クラスの選手でもヨットに乗っていて怖いと思う時はありますか?」という問いに、関さんは「いっぱいある。ちなみに船酔いし、海の上で吐くこともある。ヨットは道具を使うスポーツなので船、ラダー、シートなどが壊れることを、もの凄く怖いと思っている。そうならないことに注意しているし、スピードが怖いと言うのも、みんなと一緒で、風速5~6メートルで怖いと思うのが、同じ感覚で言うなら、私たちでは14~15メートルの風で怖いと思う感覚。その差は、ハッキリと言って技術の差で時間が解決してくれる。みんな怖いと思うので自信をもって大丈夫」というと、「ちなみに体育の成績は2だった(笑)」とユーモラスに意外な事実も明かした。

進路や将来に向けての質問も寄せられた。「社会に出てセーリングを続けて良かったと思える瞬間について?」を問われると、関さんは「同級生や仲間は一生のつながりになる。セーリングをやっていたからこそできたことで、試合になれば全国に友だちができる。今日、ここで話を聞いてくれる皆さんともつながれた」と柔和な顔で答える。また世界中の海を転戦するからこそ「世界中にも友だちができる。僕の英語の成績は3ぐらいで大したことはない。自然にヨットのことは話せるし、自分のアピールも相手が何を言っているかも想像がつく。(英語を)話せなくても自分次第で変われるのがセーリングの世界。自分が話せないことをコンプレックスに思わず、『これが俺だ』と勝手に思い込むと相手は受け入れてくれる。人の輪を広げていくことが可能なので楽しみにしてもらいたい」と自らの経験と照らし合わせながら言葉を続けた。

関一人さんが語る“明日へのエール”

最後に“明日へのエール”を求められた関さんは「インターハイや国体がなくなってしまった現実はあるが、今後もセーリングは続けていける競技なので、高校生活が残っている人はセーラーとして悔いのない生活を歩んで欲しい。卒業して、セーリングを辞めたとしても、将来、ふと思い出した時に、ここに戻って来て欲しいし、日々、出来ることを積み重ねて欲しい」とエールを送ると、オンラインエール授業の締めくくりとして、全員でヨットのセールを両手で形作り記念撮影をし、オンラインエール授業は終了した。

今後もさまざまな競技によって配信される「オンラインエール授業」。

これからも、全国の同世代の仲間と想いを共有しながら、「今とこれから」を少しでも前向きにしていけるエールを送り続ける。