「歓迎されてるんだ」そんな風に私が驚いていたのは金曜日、ロンドン郊外にあるトッテナムの練習場に到着したベイルの車を待ち受けている大勢のファンの映像をお昼のニュースで見た時のことでした。いやあ、ウェールズ代表戦から帰還後、ずっとバルデベバス(…

「歓迎されてるんだ」そんな風に私が驚いていたのは金曜日、ロンドン郊外にあるトッテナムの練習場に到着したベイルの車を待ち受けている大勢のファンの映像をお昼のニュースで見た時のことでした。いやあ、ウェールズ代表戦から帰還後、ずっとバルデベバス(バラハス空港の近く)の練習場のジムに閉じこもっていた彼については毎日、クアトロ(スペインの民放)のカメラが施設の出入り口を張っていたため、こんなご時世とあって、最近は数もめっきり減った選手の出待ちをするレアル・マドリーファンから、罵声を浴びているシーンなども出回っていたんですけどね。

おかげで試合に出ずとも契約のある、あと2年間、マドリッドで快適なゴルフ三昧ライフを楽しむ予定だった当人も気を変えたか、今週の始め頃はマンチェスター・ユナイテッドの名前も出ていたものの、木曜には、かつてマドリーを率いたモウリーニョ監督のいるトッテナムに7年ぶりの古巣帰還を果たすことに。ただ、これはレンタル移籍で、しかも税抜きで3000万ユーロ(約37億円)という高額年棒の半分をマドリーが払うという条件らしいんですが、え、ということは同時にトッテナム入団の決まったレギロンの移籍金は丸々、ベイルの2年分の給料補填に充てられるってこと?

ま、マドリーのカンテラーノ(ユース組織出身の選手)が優秀なのは今に始まったことではないんですが、この夏は特に大収穫で、昨季、レンタル移籍先のセビージャでEL優勝に貢献し、市場価値を高めたこのレギロンだけでなく、その前にはアクラフが2年間のドルトムント修行を終え、インテルに4000万ユーロ(約50億円)で移籍。レガネスにいたオスカルもセビージャに1500万ユーロ(約19億円)で買い取られ、更にRMカスティージャ(2部BでプレーするマドリーのBチーム)から放出された数人分を合わせて、計9550万ユーロ(約120億円)を弾き出しているんですが、何せ、クラブも3月以降はサンティアゴ・ベルナベウの入場料収入に加え、スタジアムにあるミュージアム、オフィシャルショップからの売上もなくなり、コロナ不況の真っ最中ですからね。

ベイル同様、先週、エバートンでアンチェロッティ監督と再会することになったハメス・ロドリゲスも移籍金はもらわなかったというのはちょっと、経営戦略としては如何なものかと思わないではないですが、とりあえず、今はカンテラーノで稼いでおいて、いよいよ、PSGに来年の夏には退団することを通告したというエムバペ獲得の資金を堅実に貯めるといった感じでしょうか。いやあ。この日曜午後9時(日本時間翌午前4時)には、2節のレアル・ソシエダ戦でリーガ開幕となるマドリーだというのに、新しい顔はウーデゴール(昨季はレアル・ソシエダにレンタル)と控えGKのレニン(同オビエド)ら、出戻りしかいないというのはいささか、寂しい気がしなくもありませんが…。

え、それでジダン監督のチームの準備状況はどんな感じなのかって?そうですね、先週にプレシーズンマッチ第1弾として予定されていた2部のマドリッドの弟分、ラージョとの対戦が、相手にコロナ疑似陽性の選手がいたために中止となった後、今週火曜には無事にヘタフェとエスタディオ・アルフレド・ディ・ステファノ(RMカスティージャのホーム)でpartido de entrenamiento/パルティードー・デ・エントレナミエントー(練習試合)を行うことができたんですが、何せ、TV中継もなく、マスコミの入場も禁じられていたため、とにかく情報がなくてねえ。

結局、ベンゼマが前半に決めた4ゴールを含め、6-0の大勝をしたことは伝わってきたんですが、マドリーのオフィシャルページにハイライトビデオが上がることもなく、その日の練習レポートのギャラリーに両チームのキャプテン、セルヒオ・ラモスとティモルがキックオフ前に審判と並んでいる写真しかないという、徹底した秘密主義ぶり。度を超えたgoleada(ゴレアダ/ゴールラッシュ)を喰らったためか、ヘタフェの方も試合の詳細を載せていなかったんですが、ちょっと不思議だったのは他のカンテラーノ同様、レンタル帰りで行き先が決まるのを待っているはずだったボルハ・マジョラル(昨季はレバンテでプレー)も出場していたこと。

うーん、金曜の練習では筋肉系のケガでルーカス・バスケスとミリトンはジム、リハビリ中のアセンシオ、アザール、イスコもグラウンドで別メニューと、いささか、レアル・ソシエダ戦では攻撃陣が手薄になるマドリーですからね。ベイル程ではありませんが、高額年棒がネックで移籍先が決まらないマリアーノは、当人が扁桃腺の手術をしたばかりなのはともかく、ジダン監督の構想には入っていないため、とりあえず、マジョラルを10月5日に市場が閉まる直前まで、FWの控え要員として活用するつもりなのかも。そうそう、ヘタフェ戦にはまだ、ヒザのリハビリで出場していなかったウーデゴーアもここ数日で調子を上げたため、レアル・アレーナで昨季の恩返しをする機会がありそうですよ。

一方、先週末の1節でバジャドリーと1-1で引き分けたレアル・ソシエダでは、8月末に入団プレゼンをした直後、コロナ感染が発覚。2週間、ホテルで隔離生活を送っていたダビド・シルバ(マンチェスター・シティとの契約を満了して移籍)のデビューが待たれるところなんですが、実はこのチーム、オジャルサバルもコロナで9月初旬のスペイン代表招集を辞退した後、何とか、開幕戦に間に合ったり、ウィリアム・ホセも自宅隔離していたりと結構、感染者が多いよう。とはいえ、最近はもう、スペイン全土で再び、感染者数がどんどん増えていますからね。

先日、私がブタルケでレガネスの選手たちがピッチの隅で着替えていたのを目撃したのも実はそのせいで、いえ、昨季のparon(パロン/リーガの中断期間)後、再開した試合では、優勝を決めたマドリーの選手たちが喜ぶ映像もあったため、使えていたはずなんですけどね。今季になって、ラ・リーガがスタジアムのロッカールームを15分以上は使用禁止に。もちろん、密室に大勢が集まるとクラスター発生の危険があるからですが、それには6、7月は週2節の開催で選手たちもほとんど社交活動の時間がなかったのに比べ、新シーズンはまだ週末だけしか試合がないため、外出してウィルスに感染してくる危険性がより高いからなのだとか。

それでもまだ、すぐ自宅に戻れるホームゲームの時はいいでしょうが、ビジターチームなど、ホテルで着替えてスタジアム入り。試合後もそのままの恰好でホテルに戻ってからでないとシャワーも浴びられない上、通常はロッカールームでやっていた監督の訓話もオープンエアーのピッチでやることに。当分の間、無観客試合は続くため、別に選手たちに聞こえづらいということはありませんが、そのうち、TVのマイクが音を拾ったりするようになるんでしょうかね。

そしてマドリッド勢では今節、ヘタフェもオサスナ戦で開幕するんですが、まさか、先週、レガネスが受けた仕打ちを彼らも受けることになるとは!ええ、スペイン・サッカー協会の反対により、金曜開催予定だった試合を土曜に振り替えると、水曜になってから通知されたんですが、せめてもの慰めはこちらもホームのコリセウム・アルフォンソ・ペレスでの試合だったことかと。いやあ、最後のプレシーズンマッチでは兄貴分に痛い目に遭わされたヘタフェですが、それ以外、2部の弟分、フエンラブラダと昨季2部3位ながら、昇格プレーオフで敗退したサラゴサには勝っていますからね。

今となってはこの木曜、グラナダが、今季から河岸を変えたホルヘ・モリーナとケネディ(チェルシーから今季もレンタル移籍)を伴って遥々、アルバニアまで移動。テウタとのEL予選2回戦には0-4と大勝したものの、グループリーグに出場するには来週木曜、ジョージアのロコモティブ・トビリシとの3回戦、そしてプレーオフと、まだ2試合もあることを考えると、ボルダラス監督のチームがリーガ7位のEL出場権を手に入れ損なったのは逆にラッキーだった?とはいえ、オサスナも1節で昇格組のカディスに0-2と勝利と白星スタートしているため、ここは気を引き締めて、今季も上の方の順位で争えるよう、頑張ってほしいところです。

え、それで3節からの開幕となるアトレティコはどうしているのかって?いやあ、先週はヘルプスタッフに陽性者が出たため、急遽、ロス・アンヘレス・デ・サン・ラファエル(マドリッドから1時間の高原リゾート)での地獄のミニキャンプを金曜に切り上げ、帰京したチームだったんですが、翌日には何と、シメオネ監督も感染していたことが発覚。幸い、当人は無症状で自宅隔離、その後は1人も陽性結果はなく、プレシーズン開始直前に隔離されたジエゴ・コスタとアリアスも陰性になって、練習に合流しているんですが、来週のグラナダ戦でシメオネ監督が復帰できるのかは微妙なところだとか。

実際、これまでも退場処分で開幕戦やスーパーカップの決勝など、ベンチ入り禁止だったことが多々ある彼ですから、別にそれ自体は問題ないんですけどね。ただ、ちょっと心配なのは、今季はもう、”モノ”・ブルゴス第2監督が自身でチームを率いたいと退団しておらず、今週のマハダオンダ(マドリッド近郊)でのセッションはネルソン・ビバス新第2監督が指揮。それをフィジカルコーチのプロフェ・オルテガや新任のスタッフが手伝っているようで、いくらシメオネ監督が自宅から、ネット経由で見守っているとはいえ、選手たちが手を抜いてしまわないかどうか。

おまけにこの土曜には、どうやらワンダ・メトロポリターノに2部のアルメリアを迎えて、こちらも「練習試合」をマスコミ非公開でやるようなんですが、この一連のコロナ騒動のせいで、今週火曜に予定されていたカランサ杯(カディス主催の夏の親善大会)が延期となったため、そちらが唯一のテストマッチになってしまいましたからね。同じ3節開幕のバルサなど、メッシの退団騒ぎや、バルトメウ会長への不信任動議提出のため、規定の数以上のソシオ(協賛会員)票が集まるなど、ゴタゴタ続きなのは相変わらずですが、すでにジムナスティック・タラゴナ(2部B)とジローナ(2部)とのプレシーズンマッチにどちらも3-1で勝利。あまつさえ、土曜にはカンプ・ノウに1部に昇格したエルチェを招いてガンペル杯を開催って、いえ、全てカタルーニャTV(スペインのローカル局)で中継され、映像があるのが羨ましいのもありますけどね。

本当にアトレティコは開幕前に1試合しかやらなくて、1節にはアスレティックに勝利、2節のアラベス戦も含め、公式戦4試合をこなした後のグラナダと対戦して大丈夫なのかと、その辺はプランニングに少々、不安を感じてしまうんですが、こればっかりはねえ。とりあえず、今はマンチェスター・シティが8900万ユーロ(約110億円)の移籍金を提示したヒメネスへのオファーには1憶2000万ユーロ(約150億円)の契約解除金以外は受け付けないと、ヒル・マリン筆頭株主が突っぱねてくれたため、選手の出入りの方にも動きはないんですが、平日開催を巡るラ・リーガとサッカー協会の争いのせいか、未だに時間割の出てない3節が終わった後、急に戦力不足に気づいても移籍市場終了まで、1週間しかないのは大変かもしれません。

そして最後に一応、気になる日本人選手のいるチームの試合について、今週末の予定を告げておくと、水曜にはニューキャッスルから武藤嘉紀のレンタル移籍も決まり、お喋り相手ができた乾貴士選手のいるエイバルは土曜午後4時(日本時間午後11時)から、久保建英選手のいるビジャレアルと対戦。開幕は岡崎慎司選手のいる、再昇格したばかりのウエスカと1-1で引き分けと、2試合連続で日本人対決というのも珍しいですが、エイバルも初戦はセルタとスコアレスドローでしたからね。日曜午後4時にカディス戦に挑むウエスカも含め、今季初勝利を祝えるのはどの選手になるのか、気になるところかと。武藤選手も早速、エイバルの招集リストに入ったんですが、まだグループ練習は1度ぐらいしかしていないため、デビューはちょっと、難しいかもしれませんね。

柴崎岳選手のいるレガネスも日曜正午から、今度はアウェイでのルーゴ戦で1部復帰に向けて、2連勝を狙うんですが…いや、開幕に合わせて、セントロ(市内中央部)には今季のリーガ公式球のオブジェを展示、ファンに少しでも盛り上がってもらおうとしているリーガなんですが、金曜にはマドリッドの一部地域を対象にコロナ再流行抑制のため、バル(スペインの喫茶店兼バー)やレストランのキャパを50%に、営業も午後10時までという、自治体による制限が復活。一応、私の住んでいる地区は大丈夫なようですが、もうこんな話を聞くと、バルで試合をTV観戦するのがまた怖くなっちゃいますよ。

【マドリッド通信員】 原ゆみこ

南米旅行に行きたくてスペイン語を始めたが、語学留学以来スペインにはまって渡西を繰り返す。遊学4回目ながらサッカーに目覚めたのは2002年のW杯からという新米ファン。ワイン、生ハム、チーズが大好きで近所のタパス・バルの常連。今はスペイン人親父とバルでレアル・マドリーを応援している。