「北の鉄腕」が語るリリーフの極意 後編 歴代1位のホールド数を誇る"北の鉄腕"こと日本ハムの宮西尚生。初の著書『つなぎ続…

「北の鉄腕」が語るリリーフの極意 後編

 歴代1位のホールド数を誇る"北の鉄腕"こと日本ハムの宮西尚生。初の著書『つなぎ続ける心と力 リリーフの技&受け継ぐ魂のバイブル』(廣済堂出版)の中でも語られているように、偉業達成には前編で触れた投球術だけでなく、メンタル面の充実も欠かせなかった。常に緊迫した場面を託されてきた球界屈指のリリーバーは、いかに重圧に屈せず、失敗に心折れることなく投げ続けてきたのか。



350ホールドを達成し、中田翔(右)と共にポーズをとる宮西尚生(左)

 リリーフは先発投手と違って常にチームに帯同し、試合が始まれば緊張状態の中で出番に備える。肩やヒジに負担がかかることはもちろんだが、宮西はメンタル面の"疲労"について次のように語る。

「リリーフは精神面で疲れが溜まってこらえきれなくなり、成績を落としていくケースが多いと僕は思っています。いくらすばらしいボールを持っていても、タフな心が伴っていないと、リリーフとして継続的に成績を残すことは難しい」

 時には失点を重ね、前に投げていた投手の白星を消してしまうこともある。いかにタフな心が大切か、宮西は身を持って理解している。

「過去には僕も、心が疲れてグラウンドに行きたくない、投げたくない、と思う時がありました。誰でも気持ちが乗っている時は体が動く。逆に、気分が乗らない時、心が疲れている時はすごく体が重く感じる。そういったことから、『体を動かしているのは心だ』と痛感しました」

 リリーフにのしかかる重圧には、「『抑えて当たり前』という周りの目もある」と宮西は言う。

「(左のサウスポーである)僕も経験がありますが、左対左のワンポイントリリーフの場面でも『抑えて当たり前』と見られる。クローザーや、勝ちパターンで出てくる投手にも同様の見方をされます。それだけ信頼して、期待してもらっている裏返しですけど、抑えて当たり前という中で投げるのは相当しんどいんです」

 もちろん結果が出ない時もある。しかし、その翌日にも試合は行なわれ、リリーフには登板機会が巡ってくるかもしれない。他ならぬ宮西も、何度も悔しい思いを味わってきたが、いかに気持ちを切り替えてきたのか。

「若かった頃は気分を紛らわせるため、試合後に外へ食事に出たり、打たれたことを考えないようにするために、いろいろ試しました。でも結局、何をやっても気休めでしかない。失った自信、信頼を取り戻すには、次に結果を出すしかない。最後はそこに行き着きました」

 続けて宮西は、救援を失敗した次の登板で結果を出すために、必ずやる作業があることを明かした。

「結果がよくなかった時こそしっかり反省をする。そこで大事なのは、『あそこでこうしておけば......』とは考えないこと。考えるのは、『何がダメだったのか』という失敗の結果に対する原因だけです。

 コントロールが甘かったのか、配球がまずかったのか、勝負する打者を間違えたのか、迷いがあるまま投げてしまったのか。そこをはっきりさせたら、結果については、『しゃあない』と無理やりにでも割り切って、寝る。反省することを反省したらあとは次の登板で結果を出す。それしかない」

 宮西は心を鍛える努力も地道に行なってきた。トレーニングにも工夫を加えている。「1年分働く体力を3カ月で作る」ため、オフに徹底して体をいじめるが、その期間、ひたすら同じメニューを繰り返す。この理由が斬新だ。

「リリーフは毎日、同じ準備をして試合に入っていく。その繰り返しです。そうすると、シーズンが進む中でマンネリ感が出てきて、そんなところから調子やコンディションが落ちることもある。だから僕は"飽き"に負けないために、あえて3カ月間、同じメニューを繰り返す。普通は、練習が単調にならないようにメニューを変えながらやるところを、あえて同じメニューで心を鍛えるんです」

 宮西の著書では、さらにダッシュの本数やセット数を決めない理由、シーズンオフにしかサプリメントを摂らない理由なども明かされている。いずれもリリーフの心作りにつながる話だ。

 また、戦いの中で結果に一喜一憂せず、感情の波を作らないことも徹底した。チームのムードを上げるため、意識的に感情を表に出すことはあっても、頭の中は常にクール。ヒーローインタビューに極力登場しない理由についてもこう語る。

「基本的に僕はしゃべり好きで、勝った試合終了直後はテンションも上がっています。本当は弾けて、ファンと一緒に盛り上がりたい。でも、『今日はいいピッチングだった』としても、明日はわからない。気持ちの波を作ってしまって隙ができ、投球に影響することは絶対避けたいんです。

 だから、区切りの記録などを達成して『どうしても......』という時以外、基本的にヒーローインタビューは遠慮させてもらっています。まれにお立ち台に立ったとしても、大して面白いことも言わず、ごくごく普通の受け答えになっているとしたら、理由があるんだとファンの人にもわかってもらえれば助かります」

 宮西の出身地は、お笑いコンビのダウンタウンの故郷としても知られる兵庫県尼崎市。「大阪の町より大阪っぽい」とも言われる"濃い街"の育ちだけに、ヒーローインタビューのような舞台は大好物のはずだ。

 しかし、弾けたい気持ちをグッと抑え、明日に備える。独自の考えから生まれたメンタルコントロール術だ。野球人以外にも通じる心作りが、宮西の13年を支えてきた。

 宮西は8月12日に通算350ホールドを達成し、元中日の"先輩左腕"岩瀬仁紀が打ち立てた「15年連続50試合登板」の偉業も見え始めている。



独自のメンタルの整え方について語った宮西 photo by Yasushi Ohta

 実はプロ1年目、宮西は49試合を投げた時点で、心身の疲労から「もう投げなくていいです」と登板辞退を申し出ていた。この時に疲労困憊のルーキーを諭したのが、今も信頼関係が続く厚澤和幸コーチだった。

「あと1試合は何があっても投げろ。50試合を投げたというのは、リリーフで1年間働いたという証だ」

 結果、ジャスト50試合の登板で1年目を終え、12年間「50試合以上登板」を継続した。しかし今季は新型コロナウイルス感染症の影響で、年間試合数は120と、前年より23試合も少ない。

「2020年は困難な状況下で試合数が減る。12年続けてきた50試合以上登板の継続も厳しいものになるでしょう。でも、この状況で記録をつなげられたら、達成感も例年以上になるはず。もちろん、自分自身にも期待しています」

数字のために投げているわけではない。チームへの思い、リリーフ投手全般の地位向上......。著書の中でも、投げ続けるための理由を熱く語っている。しかし一方で、先発ともクローザーとも違うポジションで投げ抜いてきた宮西には、誰よりもホールドや登板数といった数字に誇りと思い入れがある。

9月19日時点で、今季の登板数は36試合。残る41試合も、"北の鉄腕"は独自の投球術と折れない心を武器に、マウンドに立ち続ける。